第5射 新たな仲間
朝、登校する時、校門に嘉納先輩を見かけて、僕は話しかけた。
「おはようございます」
「おぉ、おはよう」
「あのー、初段ってすごいんですか?」
僕は尋ねてみた。
「初段?まぁ、すごいと言えばすごいんじゃない?俺とか佐藤とか山口も初段だから、うちじゃあ、あまりすごくはないけど……」
「やっぱり、先輩達ってすごいんですね」
「おぉ、ありがとう。なんで初段について聞いたんだ?」
先輩が不思議そうに聞いてきた。
「山岸さんが初段だって言ってたから、どれくらいなんだろうって思って」
「山岸さんか。中学で初段は本当にすごいぜ。異例ぐらいだな」
「本当ですか!?」
「あぁ、中学じゃあ良くて一級だから。そう考えると彼女がどれくらいすごいかわかるんじゃない?」
「はい。とにかくすごいってことはわかりました」
「ハハハ」
気がついたら昇降口まで来ていた。
「それじゃあ、また」
「あぁ、またな」
僕は、教室へ向かった。
教室のドアを開けると、山岸さんも野村さんも高柳君も、まだ教室に来ていなかった。
席に座って、昨日の練習について、思い出してみた。
ゴム弓をやって、射法八節について教わったんだよな
しばらく、ゴム弓だって先輩が言ってたけど、どうなれば次に行けるんだろう?
山岸さんでもう少しって言ってたから、それくらいできないといけないのかな?
はぁ~
と、軽く沈んでいた時、上から元気な声が降ってきた。
「おはよう!朝からどうしたの?死んだような顔して」
「え?」
見上げてみると、野村さんが立っていた。
「おはよう。いやぁ、部活のことを考えたら、ね」
「一発目から、悩み?」
「悩みっていうか。大変だなぁって思って」
「そりゃ部活だもん。それに、弓道って難しいんでしょ?」
「うん。やったことあるの?」
野村さんは苦笑しながら言った。
「それくらい、祐実を見てたらわかるって」
「そうだね」
「野村!」
教室のドアを勢い良く開けて、高柳君が言った。
「何?もうちょっと静かに入ってこれないの?」
野村さんが少し怒りながら、言った。
「悪い。三宅先生が呼んでるから、教員室に行け。入部届に不備があったって」
「マジ?サンキュー!」
そう言って、野村さんは教室を飛び出して行った。
「まぁ、そうなるわな」
高柳君は笑いながら、言った。
「三宅先生って陸上部の顧問?」
僕は尋ねた。
「そうそう。んで、怒るとめちゃめちゃ怖い」
高柳君が低い声で言った。「それで、あんなに急いでた訳だ」
「そういうこと。まぁ、あいつもバカだよな。入部届に不備って」
「確かに」
「高原は入部届出したのか?」
「昨日、出したよ」
僕は、胸を張って言った。
「ただいまー」
野村さんが教員室から帰ってきた。
「おかえりー」
「で、三宅先生、何だって?」
「氏名のふりがなを書くのを忘れただけ。そんなに怒ってなかったから良かったけど」
本当に安心した表情で言った。
相当、怖いんだろうな
「ちぇ、つまんないの」
「高柳!あんたね」
野村さんが高柳君に怒りだした。
「おはよう。美紀、何やってんの?」
そんな中、山岸さんがやってきた。
「おはよう。祐実。大丈夫。祐実には関係ないから」野村さんが怒りながら言った。
「えっと、どうしたの?」
山岸さんは、小さな声で僕に聞いてきた。
僕は一連の話を教えてあげた。
「それは、高柳君が悪いよ」
「はい。反省してます」
高柳君は小さくなって言った。
「とにかく、そろそろ時間だから席に付かない?美紀と高原君は連日で怒られてるんだから、気をつけないと」
「なるほど」
「確かに」
僕らは、先生の来る前に着席しているという偉業を達成した。
間もなく、古賀先生が教室に入ってきた。
「お前ら、席に付け!……、お前らが席に付いてるなんて珍しいな」
「「ハハハ」」
なぜか、クラスのみんなに笑われた。
「というか、まだ3日目なのに珍しいってどういうこと?」
野村さんが小声で聞いてきた。
「さぁ?」
「やっぱり、お前らか!高原と野村!」
結局、怒られた。
先生の恨みを買うようなことをしただろうか?
「どうしたらお前らは怒られないんだろうな?」
高柳君が言ってきた。
「「うるさい」」
僕らは言った。
いよいよ、授業も本格的に始まった。
まだまだ、中学の復習みたいな感じだから余裕だな
集中していたら、あっという間に放課後になっていた。
「野村、行こうぜ。三宅先生に怒られないように早くさ」
「うん。今、行く」
高柳君が野村さんを誘っていた。
「山岸さん、僕らも行こ?」
「う、うん。先に道場行ってて」
山岸さんが小さな声で返してきた。
「わかった」
僕は、そう言って山岸さんを置いて道場へ向かった。
何か用事があるのかな?
部活に遅れるなら先輩に言った方がいいかな?
そんなことを考えながら、歩いていたら、道場の方から大きな声が聞こえた。
「こんにちは!!」
誰だろう?
近づいて見ると、制服の男の子が、嘉納先輩に挨拶していた。
大声で。
「おぉ、元気がいいな」
「入部させてください!!」
「そんなに大声出さなくても聞こえるっつの」
そう言いながら山口先輩が道場から出てきた。
「一年生?」
佐藤部長も出てきた。
「はい!」
スゲー
先輩三人を引っ張り出した……
「名前は?」
「山本蓮翔(やまもと れんしょう)です!」
「山本君。もう少し、静かにね」
「はい!わかりました!」
山本君は、小柄な男の子であどけなさが残っている顔が印象的だ。
「何の騒ぎ?」
振り返ってみると、山岸さんが立っていた。
「新入部員みたいだね」
「……。いろんな意味で賑やかになりそう……」
ため息をつきながら、山岸さんは言った。
確かに、賑やかになりそう
そういえば、山岸さん、どもらなくなったな
少し、仲良くなったってことなのかな?
「おぉ、お前ら。よっ!」
嘉納先輩がこちらに気付いて挨拶してくれた。
「「こんにちは!」」
山本君が、振り返って言った。
「何?君達、弓道部員なの?」
「うん。そうだけど」
「俺、山本蓮翔!よろしく!」
「う、うん。僕は、高原俊太。よろしく」
「俊太か。よろしく!そちらら?」
山本君は、山岸さんの方へ向いて言った。
「山岸祐実」
小さな声で山岸さんは返事した。
「祐実ちゃんね。よろしく!」
祐実ちゃん!?
「はぁ。よ、よろしく」
そう言って山岸さんは道場に入ってしまった。
「え?何が悪かったのかな?怒ってたみたいだけど」
山本君は僕に聞いてきた。
全部でしょ?
「山岸さん、人見知りだから。そのうち、慣れるんじゃない?」
「ふーん。まぁいいや。俺のことは蓮翔って呼んでな」
「うん。蓮翔君」
「それで、俺ってどうしたらいいの?」
それは、僕も思っていたことだった。
この子、どうしよう……
「とりあえず、先輩に話しかけてみれば?」
「わかった!」
蓮翔君は道場に入っていった。
するとすぐに、道場の中から声が聞こえた。
「あのー先輩、俺って何したらいいですか!?」
「「道場内では叫ぶな!(叫ばない!)」」
はぁ~
山岸さんも大変だろうな
祐実ちゃんって呼ばれた時、空気の温度が少し下がった気がしたんだよね
ハハハ
山岸さんが機嫌が悪そうな表情をしながらゴム弓を持って、道場から出てきた。
「あの人は道場内でも静かに出来ない訳?」
「ハハハ」
「笑い事じゃないよ。はい、ゴム弓」
山岸さんはそう言って僕にゴム弓を渡してくれた。
「ありがとう。山岸さん」
「俊太、祐実ちゃん、ゴム弓を教えて!」
蓮翔君がゴム弓を持って言ってきた。
先輩、投げたな
僕は山岸さんの方を見た。
その時には彼女は遠いところで、練習を始めていた。
僕が教えるのか
「それじゃあ、やろう」
そう言って、僕は元気印に教え始めた。