第4射 練習参加
僕は朝の教室にいた。
「おはよう!」
「お、おはよう」
声をかけてきたのは、野村さんと山岸さんだ。
「うん。おはよう」
「それで、高原君は部活決めたの?」
「うーん。まだ悩んでるね」
「ふーん。けど、高柳君も言ってたけど、早く決めた方がいいよ」
「け、けど、ちゃんと納得して選んだ方がいいと思う」
山岸さんは小さな声で言った。
あれ?
昨日、部活では大きな声で話してたのに……
「おーい。高原君?」
野村さんが聞いてきた。
「あぁ、ごめん。早くには決めるよ。ほぼ決まってるし」
「へぇ」
「オッス」
その時、高柳君が来た。
「おはよう!」
「野村さ、入部届ってもう書いた?」
「うん。なんで?」
「いやぁ、家に忘れてきたんだよね……」
「私はもう出すから」
「マジかよ」
そんな二人を横目で見ながら僕は山岸さんに聞いた。
「山岸さんはもう入部届は出した?」
「う、うん。昨日出した」
小さな声が返ってきた。
「早いね」
「入学する前から決めてたから」
「てめえら、席につけ!」
教室のドアを開ける音と同時に先生が言った。
「ヤバッ」
僕らは席に戻った。
「ねぇ、野村さん」
僕は小声で隣の野村さんに話しかけた。
「何?」
「山岸さんって人見知りなんだよね?」
僕は昨日から気になってたことを尋ねた。
「そうだけど、なんで?」
「昨日、部活では先輩に普通に話してたから。あれ?って思って」
「へぇ。先輩だからじゃない?じゃなかったら部活だからとか」
「なるほどね」
「わからないけどね。普段の練習についての話は、中学の時もそんなにしなかったし」
「そうなんだ」
「お前ら!!今日もか!」
先生がまた怒っていた。
2日続けてって、オイ」
高柳君が苦笑しながら言った。
「「ハハハ」」
授業が今日から始まった。
全部の授業が最初ということで、先生の自己紹介でつぶれるということを6回繰り返された。
そして、放課後。
「野村、行こうぜ」
「うん。祐実も部活でしょ?」
「うん。今から行くとこ」
山岸さんが鞄を持ちながら言った。
「高原君はどうするの?」
野村さんが聞いてきた。
「弓道部にするよ。面白そうだし」
「そうなんだ。良かったね、祐実」
「うん。それじゃあ、行こ?」
山岸さんが首をかしげながら言った。
可愛い……
「どうしたの?」
「い、いや。ごめん。行こう」
そうして、高柳君と野村さんはグラウンドに、僕と山岸さんはジャージを持って、弓道場に向かった。
僕らが弓道場に着いた時、嘉納先輩が大きな俵を運んでいた。
後ろからは、知らない男の先輩がこれも大きな土台を運んでいた。
「先輩、こんにちは」
山岸さんが大きな声で挨拶した。
やっぱり、声大きいよな
「こんにちは。僕も弓道部に決めました」
僕も挨拶した。
「おぉ、こんにちは。高原君だっけ?」
「はい!」
「ありがとうな。歓迎するよ」
「はい。よろしくお願いします」
「彼がこの前言ってた子?」
土台を運んでた先輩が言った。
「そうそう」
嘉納先輩が返事をした。
「高原俊太です。よろしくお願いします」
「自己紹介がまだだったな。嘉納健太だ。んで、こっちが―」
「山口雄太だよ。よろしくな1年坊」
「よろしくお願いします。嘉納先輩、山口先輩」
「そんじゃ、二人はゴム弓だな。高原君もわかるよな?」
「はい」
「山岸、教えてやれ」
「はい。山口先輩」
嘉納先輩と山口先輩はそう言って、弓道場に戻って行った。
「何してるの?私達も道場に入るよ」
「う、うん」
僕らは弓道場に入ろうとした。
「道場に入る時には、神棚に揖(ゆう)してね」
後ろを振り返ると昨日、会った綺麗な女の先輩が立っていた。
「こんにちは」
僕は挨拶した。
「こんにちは。佐藤部長」
「こんにちは」
え!?
部長!?
「結局、弓道部に決めたのね?」
佐藤部長は僕に言った。
「はい。他の部活も見てみたんですけど、あまりピンと来なくて」
「そう。歓迎するわ。私は佐藤美幸。一応、部長をやってます」
「はい。よろしくお願いします。佐藤部長」
「こちらこそ、よろしくね」
佐藤部長は微笑みながら言った。
「そういえば、さっきおっしゃってた揖ってなんですか?」
「揖っていうのは、弓道の礼儀作法の一つで、わかりやすく言うと、礼の小さなやつって感じね。5度くらいしか頭を下げないから、気をつけてね」
佐藤部長が教えてくれた。僕は佐藤部長に言われたように揖をしてみた。
「こんな感じですか?」
「うん。うまいね。そんな感じで道場に出入りをする時には、神棚に向かって揖をするのよ」
「はい。わかりました」
僕はちゃんと揖をして、弓道場の中に入った。
「来たでしょ?」
佐藤部長が私に尋ねてきた。
「はい。そうですね」
正直、部長が昨日言ってた意味がわからないんだよね
見てるだけで楽しそう?
「部長はどうして、高原君が入部するって思ったんですか?」
そうしたら、部長は笑いながら、こう言ってきた。
「うーん……。勘?」
「はぁ」
やっぱり、この人わからない
引いてるのも見たことないし……
「それより、入りましょう?」
「はい」
私は部長と道場に入った。
僕は道場に入って、ジャージに着替えて、嘉納先輩を見つけて話しかけた。
「あの、ゴム弓ってどこにありますか?」
先輩は出入口の近くの壁にぶら下がっているゴム弓を指差して言った。
「そこにあるやつを使っていいぜ」
「はい。わかりました」
「後で、2年の誰かが教えに行くから、外で待ってて」
そう言われて、僕はゴム弓を持って道場の外に出た。
外で待っていると、山岸さんも出てきた。
「どうしたの?」
「私もゴム弓だから……」
そう言って、山岸さんはゴム弓の練習を一人で始めた。
道場から山口先輩が出てきた。
「おぉ、山岸うまいな。流石、初段ってとこだな」
「ありがとうございます。ただ、的中が中学では安定しなかったんですよね」
「まぁ、それは的前に立ってからだな」
「はい」
なんか、いきなりレベルの高い会話な気がする……
「それじゃあ、高原。良い見本がいるんだから、山岸を見よう見まねでやってみろ」
「はぁ」
「高原君。射って大きく分けて8つの部分に別れてるの。足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会、離れ、残心、ってな感じで。ゴム弓はこの射法八節って言うんだけど、この8つを練習するの」
いつの間にかいた佐藤部長が教えてくれた。
「山口君。そんな教え方じゃあ、困るでしょう?」
「はい。すみません」
同い年でも権力差ってあるんだな
「ごめん。私が教えろって言われたのに……」
山岸さんが、謝って言った。
「いや。いいよ。それより、ひととおり見せてもらっていい?」
「わかった。見てて」
山岸さんはひととおりやってくれた。
横で部長が説明をしてくれたので、射法八節もそこそこ理解できた。
「じゃあ、高原君。やってみたら?」
「はい」
僕は、説明をされたことと、山岸さんがやってくれたことを思い出しながら、恐々やってみた。
「どうですか?」
「初めてでこれはうまいと思うわ。山岸さん、あなたは?」
「すごいと思います」
「本当?」
やった!
「まずはその流れを身体に覚えさせること!わかった?」
部長は言った。
「わかりました」
僕は練習を始めた。
時折、山岸さんが自分の練習の合間に教えてくれた。
そこそこ厳しかったけれど。
「それにしても、流石ね」
部長が山岸さんに言った。「い、いえ」
「これなら早く巻藁(まきわら)を引けそうね」
「ありがとうございます。ただ、筋力が少し落ちてるんで、ちょっと戻さないと」
「そのわりには、綺麗に引けてるじゃない?」
「筋力に頼らないので、そのせいかも」
「まぁ、自信持って頑張って。期待してるんだから」
「はい。頑張ります」
やっぱり、山岸さんは期待されてるんだな
僕も頑張らないとな
「そろそろ、終わりだな」
嘉納先輩が道場から出て来て言った。
「了解。それじゃあ、二人とも練習を止めて集まって」
部長が言って、僕らは集まった。
「お疲れさま。今日は高原君が初めてってことで、いろいろと説明したけど、これからもいろいろと覚えてもらわないといけないから。まぁ、しばらくはこんな感じでやっていきます。私達の自己紹介は後々ね」
「「はい」」
「それじゃあ、お疲れさま」
「「お疲れさまでした」」
僕らは言った。
初日の練習が終わった。
なんか、疲れたな
「お疲れさま。それじゃあ、また明日ね」
山岸さんは僕に小さな声で言った。
「うん。お疲れさま。また明日」
部活中は声が大きかったのに……
僕は、制服に着替えて、一人で家に帰った。
家に帰って思った。
密度の濃い一日だったな
また明日も頑張ろう
僕は、寝た。
主人公が弓道素人なので、素人感を出すのが、大変ですね。
しばらく、ふつうの練習を書いていくことになります。
次は、他の部員と、一年生も出てくるかも…