第2射 出会い
入学式翌日、教室の前に僕は立っていた。
今日から、高校生活が始まるんだ。
そんなことを思いながら、教室のドアを開け、自分の席に座った。
高柳君はまだ来てないみたいだな
教室を見渡すと、定刻の30分前ということもあって、あまり生徒の集まりは良くない。
そんな中、窓際の席に座って本を読んでいる女の子に目が止まった。
あれ?あの子、昨日のあの子かな?
僕は、席を立ち、彼女のところへ行った。
「君って昨日、もの凄く長いやつ持って歩いてたよね?」
彼女は驚きながら、
「えっ」
と言った。
「あ、ごめん。昨日見かけて、気になってて」
「あれは、弓です」
小さな声は僕の耳にかろうじて届いた。
「弓って弓道?弓道やってるんだ?」
「は、はい」
あれが弓とは思わなかった。
「あれ?祐実じゃない?」
「えっ?あぁ、美紀!」
「あぁ、どうも」
僕は会釈した。
そこには、ポニーテールが似合った女の子が立っていた。
「こちらこそ。私は野村美紀。よろしく」
「僕は、高原俊太。こちらこそよろしく」
「祐実とは、中学も一緒だったの。ね?」
野村さんは、彼女の方に振り向きながら、言った。
「うん。えっと、山岸祐実です。よろしく」
小さな声で挨拶をしてくれた。
「よろしく」
僕も、挨拶をした。
その時、後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。
「高原君。おっはよう」
振り返ると高柳君が立っていた。
「おはよう。それじゃあ、また」
僕は高柳君に挨拶した後、彼女達の方に向いて言った。
「うん」
「う、うん」
二人が返事をしたのを聞きながら、僕らは自分等の席に戻って話し始めた。
「にしても、早速女子に話しかけるなんて勇気あるな」
「ただの挨拶だって」
「普通、初日に席が離れた女子に挨拶するやつなんていないぜ」
「別に、いいじゃないか」
「あれ?もしかして席、隣?」
振り返って見ると先程の野村さんが立っていた。
「そうみたいだね。よろしく!」
「いやぁ、驚いたな」
野村さんが笑いながら、言った。
「俺は、高柳渉。こいつの親友」
「私は、野村美紀。よろしくね」
二人の自己紹介が終わったところで、担任の先生が教室に入ってきた。
「俺がお前らの担任の古賀剛だ」
先生が自己紹介してる間に、隣の野村さんが小声で話しかけてきた。
「祐実になんか、用事でもあったの?」
「いや。ただ、昨日見かけて。それだけ」
僕も小声で返した。
「本当にそれだけなんだ。祐実って人見知りだから、声小さかったでしょ?」
確かに、少し小さかった気がするな
「うん、少しだけ。けど、聞こえたから、大丈夫」
「そこ!!何、しゃべってる!!」
いきなり、古賀先生が僕らの方を見ながら怒った。
「「すみません」」
早速、怒られた。
「お前ら、初日に怒られるのも珍しいぞ」
高柳君が、後ろを向いて言ってきた。
「ハハハ」
ふと、山岸さんの方を見たら、彼女はすぐに前に向き直していた。
少し、笑っていたと思うのは、気のせいだろうか?
初日ということだけあって、集会と自己紹介で終わり、放課後になった。
僕は、教室を出ようとすると、先程の3人が、教室の角で集まって話していた。「何、話してるの?」
「おぉ、高原君。これから、部活見学に行くんだけど、お前も行かね?」
高柳君が誘ってくれた。
「まぁ、私は陸上だし、祐実は弓道でしょ?」
「うん。もう、昨日挨拶してきたから」
「二人は決まってる。俺は多分、中学でやってた陸上になると思うし。お前だけだな」
高柳君が僕を指差しながら、言った。
「えっ。君は見学してから決めるんじゃなかったっけ?」
「うん。けど、候補ははっきりしてるから」
「じゃあ、全然なのって僕だけ?」
「そうだね」
「中学の時、何部だったの?」
野村さんが聞いてきた。
「野球部だったんだけど、高校は他の部活に入ろうって思ってる」
「それじゃあ、弓道部を見てみたら?」
山岸さんが小さな声で言った。
「えっ?」
「へぇ?祐実が誘うなんて珍しいね」
「いや、弓道面白いし。選択肢が多い方がいいと思って」
「なるほどね。それで、どうするの?」
野村さんが尋ねた。
「うん、見るだけ見てみようかな」
「それじゃあ、陸上と弓道に別れて行こうぜ」
高柳君がまとめて、高柳君と野村さんが陸上部、僕と山岸さんが弓道部の見学に行くことになった。