島崎伊呂波
これは伊達政宗の生涯(?)を参考にしていますが彼の伝記などではありません。実在しない人物など多数出てきます。申し訳ありませんがご了承ください。
少女の名前は、島崎伊呂波。
16歳のふつうの女子高校生である。
いや、少女の美貌は、ふつう、という一言で片付けていいものではない。
小さな顔に、いまにも零れおちそうな二つの大きな瞳、長いまつ毛、染めたわけではないが、綺麗なうちまきの背中の真ん中まで伸びる栗色の毛、前髪は眉毛より下、目より上で切りそろえられている。いわゆる、ぱっつんボブである。
身長は156㎝。白い肌は、太陽の光を知らないのではないかと疑うほど。
一言で言うと、美少女、である。
だが彼女の周りには自分と同じくらい可愛い子などたくさんいるうえに、童顔というコンプレックスがあるので、自分が美少女という自覚はないように思う。
家族は父・母・祖父母の一人っ子。平凡に高校に通う〈少し〉可愛いくらいの少女。
周りに中学校から同じ高校に進学した友達はいないために、今日も一人で制服を着て下校している真っ最中だった。今日は背中の真ん中まであるボブを一つに束ねて、その上からマフラーを巻いている。こんなふうにすると、男の子のようだと同級生に言われた。嬉しくないことこの上ない。男の子みたい、といわれて喜ぶ女の子など稀だろう。だが寝癖が取れないときはこうやってかくすと目立たないので便利でもある。
高校入学時に買ってもらった茶色のローファーでアスファルトの上を足音を立てながら歩くのは彼女の日課だ。季節は春ということもあってか、ブレザーを脱いでキャメルのカーディガンのみで歩いている。ここだけの話、これは校則違反。伊呂波の通う高校では、カーディガンのみでいることは許されないが、まあ校外なのだからばれることもないわけだが…。
背中に担いだ竹刀袋は、伊呂波が剣道部の一員であるということを物語っていた。といってもそんなに有名な選手なわけでもないのが悲しいところ。竹刀袋の表側には風林火山の四文字。特注である。伊呂波が日焼けを知らないのは、基本な剣道が建物内でやる競技だからという理由もあるだろう。
伊呂波はあまり剣道が好きではない。嫌いではないが、好きでもない。ただ小学校からやっているから、高校でも…という訳だ。
(今日っていい天気)
風は冷たいが、さんさんと降り注ぐ日光は温かい。春は花粉は気に入らないが、伊呂波は激しい花粉症という訳でもないので薬を飲めば多少眠くなるがあまり気にならない。春は一番好きな季節だった。
今は日用必需品をショッピングモールで買い溜めしてきた後である。今日は部活が学校の予定で休みだったため、帰りに寄ったのだ。
母から預かっておいたお金で、下着や生理用品、以前落としてしまった髪ゴムをまた買って、他にもノートや新しいシャーペンなど。気に入った香りのボディーソープとシャンプー、リンスが売っていたので、それも買った。新しい練り香水も2つ。ゆずの香りと、フルーツの香りである。香水集めは伊呂波の趣味。いつだってかばんの中のポーチにいくつも入っている。今回はいい香りの石鹸も売っていたので、それも購入した。
母に頼まれていた電池も忘れていない。
下着や生理用品は、正直母に任せるとひどいものを買ってくる。下着は高校生が身につけるようなものとは思えぬ派手なものを買ってきたり、生理用品に至っては極端に小さかったり極端に大きかったりと真ん中がないのが悲しいところ。
というよりも、母に限らず父…両親はいつも忙しく働いているので、伊呂波の買い物になんて言っている暇はないのである。家族で買いものなんて、年に一度か二度が限界だ。
今日はもともと買い物をするつもりであったので、リュックも持ってきていた。そこに重たいシャンプーやリンス、買った物を詰め込んだ。
正直、こんな姿を同級生に見られるのは嫌なので買い物はいつも一人だ。
ふと、伊呂波は〈なたね橋〉を渡っている途中、橋の下に怪しげな男がいるのを見た。深くフードをかぶり、じっと空を見つめている。興味をそそられて斜面を駆け降り、遠くからじっと男を見つめていた。
一陣の、風が吹いた。
頭が、痛い。
ぎょっとしたようにフードをかぶった男が振り返って、伊呂波に向かってしっしと手を振る動作をしたが、伊呂波は動けなかった。
まるで、なにかに強く腕を掴まれているかのようだ。
「…う、あ?」
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
世界が、歪む。
ローファーが、地面から離れるのを、強靭な風が伊呂波の髪をもてあそぶのも、すべて、感じていた。
目を開くと、気持ちの悪い世界が目に入るので、本能的に目をつむってしまう。
考えることもできなくなって、伊呂波は、
「離れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!」
フードをかぶった男の悲鳴にもとれる声が、ひどく耳に残っていた。
伊、呂波、は、