結んだ覚えのない婚約をドヤ顔で破棄された。〜あの私もう結婚してるんですけど〜
「もうここで宣言する。アスカ・エアフォルク、貴様との婚約をたった今から破棄する。」
「……ん?」
たくさんの貴族が見守る中クリスは勝ち誇ったような顔をしながら大きな声でそう宣言した。
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「おはようございます。アスカ様、朝でございます。」
寝室にメイドの声が響く。
「……んんぅ、あれ?今日はお休みの日じゃありませんでしたか?」
寝起きのせいかガラガラの低い声で返事をする。
「いえ、今日はご実家でのパーティーに参加する予定ですよ。」
「あーそうだったわね、ありがとう。」
ヨイショと言う掛け声でベットから降り食堂に向かう。
夏も終わりすっかりと寒くなった廊下を身震いさせながら歩く。
「アスカ、おはよう」
「おはようございます、レオン様」
食堂のドアを開けて中に入ると朝食を取る夫、レオン・ガリルフォンがいた。
私は婚約者であったレオン・ガリルフォン王太子と最近結婚した。
「アスカ、今日の君の実家でのパーティーの話なのだが…」
「どうかなされたのですか?」
レオンが申し訳なさそうな顔をする。
「すまない、どうしても欠かせない仕事が入ってしまってな、欠席することになる。」
何だそんな事でしたか、結婚したばかりなのに離婚の話を切り出されるのかと思いヒヤヒヤしました。
「そうだったのですね、それは残念です。お父様にはちゃんと説明しておきますね。」
「あぁ、悪いがよろしく頼むよ。」
そう言うとレオンはコップに残ったコーヒーを飲み終えて部屋のドアの前まで歩いて行った。
「そうだ、忘れていた。今日のパーティーにあまりいい噂を聞かない貴族が来るらしくてな。確かイプシロン公爵家の嫡男の奴だ。そんなに気にしなくていいとは思うが一応気をつけて行ってきてくれ。」
イプシロン公爵家……どこかで聞いたことある貴族だけど思い出せない。
「はい、わかりました。一応気をつけておきます。」
笑顔で頷くとレオンは部屋を後にした。
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「アスカ様、目的地に到着しました。」
馬車に揺られ到着したのは今日のパーティー会場であるエアフォルク侯爵家の屋敷である。パーティー開始までまだ2時間ほどあるのだがお父様への久しぶりの挨拶も踏まえて早めに到着したのであった。
「ただいま、帰りました。」
「アスカ様おかえりなさいませ。」
大きな玄関を開けて入った屋敷で一番最初に出迎えてくれたのは小さい頃からお世話になっていたメイドさんであった。
「お久しぶりです、帰って早々悪いのですがお父様は今どこに?」
「おそらく、自分のお部屋にいらっしゃりますよ」
「そう、ありがとう。行ってみるわね。」
「はい、ごゆっくり。」
私はまず、お父様の部屋に行くことにした。
屋敷の中は広くて移動が嫌になる。
お父様の部屋は大事な資料や書類があるためか屋敷の端っこにある。
いやいや言いながらも父親の部屋の前まで足を運んだ。
ガチャ
「お久しぶりです。お父様。」
「おー!アスカじゃないか随分と早く着いたんだな。元気にしていたか?」
お父様は笑顔で迎えてくれた。小さい頃からお父様にはよくしてもらっていた事を思い出し、なんだか懐かしい気持ちになり顔が緩み笑顔になる。
「はい、私は元気にやっています。お父様も元気そうで何よりです。」
「あぁ、俺は元気だぞ。レオン様とは順調か?」
「はい、とても優しくて毎日幸せです。」
「そうか、それは良かった。」
今にも泣き出しそうな顔をしながら笑ってくれている。
そんなに私に会えてうれしいのか、私の成長が嬉しいのか、何にせよこんな些細な会話で涙ぐんでくれるお父様が私は大好きだ。
「じゃあまたパーティーの時間に」
「おぉ、わかった。まぁ時間もあるしゆっくりしときな。」
私は元気にはいと返事をして部屋を後にした。
ガチャ
久しぶりに自分の部屋に来た。
あの時のまま綺麗にされている部屋を見て心の中でメイドさんに感謝をした。
移動などで疲れたせいか、眠気が襲ってきた私はまだパーティまでの時間がある事を確認してベットに横たわり目を閉じた。
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「アスカ様!アスカ様!パーティーが始まりますよ!」
「………んん…ん?」
目を覚ますと焦りながら私を起こしているメイドさんが目の前にいた。
「アスカ様!もうみなさん揃われています。急いで準備してください。」
「え!嘘!」
まさかまさかのここで寝坊をしてしまっていた。
寝ていたせいか髪がボサボサで服にも変な折り目がついているため着替えなければならない。
私は大急ぎで準備をした。
メイドさんに服を用意してもらっている間に自分で髪の毛をとかして整える。
ドタバタしながらもなんとか準備を済ませてパーティーが行われる部屋に走った。
ドアを開けて部屋に入るとシャンデリアの綺麗な光が部屋中を照らし、どこからか綺麗な音色の音楽がかかっている。
私に気づいた貴族の方々は、「お元気でしたか?」「お変わりないようで。」など優しく挨拶してくれた。
良かった。身なりを確認する時間がなかったけど、この反応なら変なところはないでしょう。
ステージに目をやるとお父様がワイングラスを片手に階段を登っていた。
こちらに気づいたお父様は少し呆れ気味の笑顔をこちらに向けた。
お父様に寝坊のことは流石にばれていますよね。後で何言われるか少し怖い….
階段を登り終えたお父様はステージの真ん中にたち声を張る。
「皆様、今日はお集まりいただきありがとうございます。この場で長々と話をするのは皆様も退屈されると思うので、早速ですが今宵の宴を始めるとしましょう。」
お父様の掛け声に拍手が飛び交いながらパーティーが始まった。
至る所で貴族らの政治の話が飛び交う。
私は、その貴族たちを横目にテーブル上に広がるおいしそうな食事の数々を自分の皿に盛りつける。
…?
目線を感じ寒気が走る。周りを見渡すが特に異変はない。
気のせいか。
「アスカ・エアフォルク令嬢は居るか!!!」
そう思っているとパーティ会場に男の大きな声が響き渡る。談笑していたはずの貴族らは、大きな声がしたステージ上に目をやる。
「え、私?」
「そうだ貴様である。」
思わず漏れてしまった驚きの声に対する返事が返ってくる。
ステージ上に立つ男は、どこか見覚えがあるものの思い出せない。
「おいあれ、イプシロン公爵家の嫡男であるクリス様ではないか?」 「一体どうなされたのだ。」
周りの騒ぎ立てる声でステージ上に居る人物が今朝レオン様が気をつけろと言っていたあのイプシロン公爵家の嫡男だと言うことがわかった。
でも私と関わりなんて無いのになぜ?
「何か用でございましょうか?」
みんなに注目されながらクリスに返事をする。
「用もクソもあるかこのクズ女め、この程度の屋敷の小さなパーティーでしか見栄を張れない悪女め。」
急な罵倒に少し苛立ちを覚えるがグッと堪える。
「あの、話が入ってこないのですが。」
「パーティーに参加してわかったが、貴様の身分や立ち振る舞いそれでいて財力でさえ我に釣り合わない。」
「もうここで宣言する。アスカ・エアフォルク、貴様との婚約をたった今から破棄する。」
「……ん?」
たくさんの貴族が見守る中クリスは勝ち誇ったような顔をしながら大きな声でそう宣言した。
「どう言うことでしょうか?」
状況が飲み込めない私はクリスに質問をする。
「そのままの意味だ、貴様のような低俗な身分の者との婚約など今ここで破棄すると言ったのだ。」
周りの貴族らも状況を理解できていないためか固まって黙ったままクリスを見つめる。
「もし貴様が、どうしても我としか結婚したくて仕方無いと言うのなら話は別だがな。」
「あのさっきからなんの話をしていらっしゃるのですか?」
「しつこいなそんなのだから我に捨てられるのだ。さあ懇願せよ我に結婚してほしいと縋れ!」
「あの、私もう結婚しているのですが。」
「何を言ってるのだ、ここにきてまで見栄を張るとは笑えてくる。」
ニヤニヤしながら見下すかのように私の方を見てくる。
「元々私、貴方と婚約なんてしておりませんが…。」
「何を言ってる、婚約を承諾したのは貴様の方ではないか。」
「なんのことでしょうか?」
「白々しいな、そこまで言うなら説明してやる心して聞け。」
するとクリスは昔の話をし出した。
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貴族の子供達が楽しそうに庭園を走り回り遊んでいる。
その子供達から離れた木陰に膝を抱えながら、花を眺めている少年がいた。
「ねぇねぇ1人で何をしてるの?」
幼い子特有の甲高く元気で優しさが溢れる声が花の咲き誇る庭園に響く。
「………お前は誰だ」
膝を抱えてしゃがんだまま少しこちらに顔を向けて返事をした。明るい女の子の声に対し、それを飲み込むかのような暗く恐怖さえも感じてしまう声で返事をする。
「私はね、アスカ・エアフォルクっていうの、君の名前は?」
そんなものは関係なしに明るく返事をする。
「……クリス・イプシロン」
「クリスくんって言うのね。クリスくんもみんなと一緒に遊ぼ!ひとりじゃあつまらないでしょ?」
「嫌だ。こんな奴らと関わっても僕にいい事なんて一つもないんだ」
子供とは思えないような可愛くない発言をする。
「えー、じゃあさ私と2人で遊ぼ!」
「何でだ、僕は1人でいいんだ。お前もアイツらに変な目で見られるぞ」
クリスはそう言いながら庭園の真ん中で楽しそうに遊ぶ貴族の子供達に指をさす。
「別にそんなのどうでもいいよ、私は君が1人でいるのが嫌なの。だからさ一緒に何かしよ。」
しゃがんでいたクリスは立ち上がり言い放つ。
「じゃあ、お前一生僕と一緒にいることを約束しろ。」
突き放すかのような言い方とそれを感じさせる表情でアスカを睨む。
「うん。いいよ!」
「……は?」
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「あの日貴様は我と一生を過ごすと約束したでは無いか。」
昔話をし終えたクリスは堂々たる佇まいで口角を上げていた。
「………、ぷっ、わーーーっはっはっは!」」
すると周りにいた貴族が大きな声で笑い出した。
それにつられて周りにいる貴族らも声をあげて笑い出す。
「な、なんだ貴様ら」
私との馴れ初めを話し終えた瞬間にパーティー会場にある全員に笑われているクリスは明らかな動揺をしていた。
話を聞き終えた私は見覚えがあったことに納得をしていた。あの時のあの子がこの人なんだということを理解した。
動揺するクリスめがけて1人の貴族が声を張る。
「クリス殿、アスカ様はつい最近ガリルフォン王国のレオン・ガリルフォン殿下と結婚なされたばかりですぞ。」
「レオン……嘘だ!こいつは俺と婚約をしていたんだからそんなはずはない!証拠を出せ!ガリルフォン王国の王太子と結婚など、も、もう少しまともな嘘をつけ!この程度のやつがそのような高貴な人と結婚なんてできるはずないだろ!」
「それはどうだろうね。」
会場のドア付近からクリスの言葉に対する返事をする男がいた。
「レオン様!」
周りにいた貴族らが膝をつき頭を下げる。
「レオン様!お仕事はどうなさったのですか?」
そう、そこに立っていた男はレオン・ガリルフォンである。
「早めに終わったから挨拶だけでもと思い来てみたのだが、部屋に入った瞬間に面白い宣言をし出す人がいたのでね。影に隠れてみさせてもらったよ」
あの時の視線の正体はレオン様だったのかと心の中で納得をする。
「レ、レオン様何故ここに?」
動揺を隠しきれないクリスの声は今にも泣き出しそうだと感じるほど震えていた。
先ほど私を散々罵ったやり返しをするチャンスが帰ってきましたわね。
「紹介しますクリス様、私の夫であるレオン・ガリルフォン様です。」
「う、嘘だ。」
クリスが膝から崩れ落ちる。
「散々僕の妻に罵声を浴びせてくれたね。もうどうなるか君も自分でわかっているんじゃないのか?」
「結婚って、貴様は我と婚約していたのにそれは浮気ではないのか!」
苦し紛れの言い訳を捻り出す。
「だっ…」
私が口を開こうとするとレオン様が私の口にポンっと人差し指を置く。
「ここは、僕に任せて。」
小さな声で耳元でそう囁く。
「先ほどの話を聞いていればそれは君の勘違いだったってわかったのではないのか?」
クリスが反論しようと口を開くがその隙をレオン様は与えない。
「まず王太子である僕の妻に暴言を吐きなおかつそれでいて、今僕に対してその口の利き方。もうどうしようもないね。」
痛いところをつかれたのか、クリスは顔を大きく歪ませる。
「君は確か僕の国の貴族だったはずだよね。ここでさっきの君の真似をして宣言させてもらうよ。クリス・イプシロン君を国外追放に処す。」
「なっ…」
「今すぐこいつをこの場から追放せよ」
「は、はい!」
返事をした従者たちがクリスを取り押さえながら、部屋を後にする。
「ただ、君に愛してほしかったんだアスカ。」
小さな声で去り際にクリスがそう呟いたのが聞こえてきた。
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「今日は私のせいでお騒がせしてしまい申し訳ございませんでした、お父様」
貴族らがいなくなった後の静かなパーティー会場には私とレオンとお父様だけが残っていた。
「いやいや、アスカの身に何もなくて本当に良かったよ。レオン様もありがとうございました。」
お父様が、膝をつけて頭を下げる。
「いえいえ、僕が最初から居たらこんなことにはなって居ませんでしたし僕の責任でもあります。顔をおあげください。」
レオン様がそう優しく声をかけるとお父様は顔をあげた。
「レオン様、私からも言わせてください。本当にありがとうございました。」
「うん、アスカが大丈夫ならそれでいいよ。」
笑顔でそう言ってくれるレオン様に頭を下げる。
「もう時間も遅いですし僕たちはそろそろこれで失礼するね。」
「はい、お気をつけてお帰りになられてください。アスカも元気でな」
レオン様がお父様にそう告げると私の手を取り屋敷の玄関に向かう。
玄関を出るとそこには馬車が止まって居た。
その馬車に2人で乗り込み発車する。
馬車に揺られながら私はクリスのことを思い出す。
一人ぼっちでずっと寂しそうだったあの時の少年はおそらく私が話しかけたことによって初めて認められたんだと感じたんだと思う。それからずっと私を思ってくれて居たのなら少し気の毒に感じる。
でもまぁたくさん暴言吐かれたし、いっか。
「本当に大変な1日だったよ」
隣で寝ているアスカを見ながらレオンはそう呟くのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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