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第7話:商人と初めてのお買い物…?

 ラズボードを撃退した出来事の数日後。


「お、なんだアレは」

 村の入り口に大男がいる。その隣に、子供のような背丈の人物がいた。


「お、あれはピウリだな」

 一緒に村をぶらついていたテオックが言う。


「ピウリ?」


「商人だよ、たまに町からこっちに来るんだ」

 そう言ってテオックはちょっと家に戻ると言いながら走っていった。


「商人ね……」


 町というのはマーテンという場所で、アステノから徒歩で1日半ほどかかるらしい。わざわざそこからここまで来るとは、なかなかの物好きだと思う。


 あの大男がピウリかな、と考えていると、小柄な方がこちらに気付いた。

「あれ、人族だ!」

 と声を上げる。


 俺は二人に近づいた。二人は馬を二頭連れていた。世界が違うから見た目が何か違うかと思ったが、俺の知っている馬だった。馬は馬だった。

「おー、やっぱり人族だー、珍しーねー」

 よく見ると、肌が緑色で髪が薄い橙色のセミショート、くりっとした丸い目をしている。人間の女の子に見えたが、よく見るとゴブリンの女の子のようだ。


「ピウリさん?」


「そーだよーアタシがピウリ、こっちの彼はフリドー君ね」

 ピウリって、この女の子の方だったのか。


「どうもッス」

 フリドーが頭を下げる。


 身長は優に2メートルを超えるだろう。褐色の肌に、頭には小さな二本の角がある。オーガだな、と思った。村にはいないが、オーガという種族については話で聞いていた。見た目は厳ついが、雰囲気とタレ目気味な目つきのせいか、大人しい印象を受ける。


「ねーどうして人族がアステノにいるの?旅人ー?」


「まあ色々あってね……」

 自己紹介を兼ねて、軽く自分の事をピウリに説明した。


「ふーん、そりゃ大変だー」


 ピウリが相槌を打っている間に、「おーい、ピウリー」とテオックが麻袋を手に戻ってきた。


「おー、テオックじゃん」


「これ今回の分だから買い取ってくれ」

 麻袋を差し出す。


「ちょっと見せてねー」

 ピウリがその場に座り込んで麻袋を開ける。隣にフリドーも座り、一緒に中身を確認し始めた。


 中身は俺とテオックが森の中で採取した薬草やハーブ、キノコ等だった。


「ふむふむ……」


「ピウリが来た時はいつもこんな感じで薬草とかを売ってるんだよ。他の村の連中も育てた果物やら工芸品やらをピウリに買い取ってもらってるんだ」

 テオックが教えてくれた。

 村の中では基本的に物々交換だったこともあり、金のやり取りをしている場面はあまり見た事がなかった。

 そういえばお金についてはこれまであまり考えた事がなかったと気づく。


「村の外に出る時とか、こうやってピウリから買い物する時に必要って事か?」


「ああ、アステノでは手に入らない物を持ってきてくれたりもするからな。わざわざ町からこんな所にまで来てくれるなんて、ありがたいけど物好きだと思うぜ」


「町かあ……」


 生活に慣れるまでは忙しくて考えた事がなかった。町、マーテン。どんな場所なんだろうか。


「ここの薬草は良い薬になるからねー、他にも珍しいものもあるし、結構良い儲けになるんだよねー」

 薬草を吟味しながらピウリが言う。


「査定終わったよー。今回の買取額は180ラントだねー」


「ッス」


「お、流石に結構多いな」

 テオックは満足そうだった。


「珍しい薬草多かったからねー、量も沢山あったからサービスしといたよ」

 ピウリがテオックに銀貨を18枚数えながら渡す。


「ほら、これがお前の分だ」

 テオックがその内の銀貨9枚を俺に差し出した。


「いいのか?」


「ま、俺の手伝いをしてくれたからな」


 テオックの手伝いをしていただけだから半分は貰いすぎだと感じたが、テオックなりに労ってくれているのだろう。その好意を素直に受け取っておいた。


「ありがとう」


「おう」とテオックは銀貨を手渡し、「それじゃ俺はちょっとアルデリンとラピドの所に行って呑んでるから、お前も気が向いたら来いよ」と言って村の南へ歩いていった。


 折角商人が来ているんだから、商品を見せてもらうか、と思っていると、


「ねえ、ヨウヘイは変わった服着てるねー」

 ピウリが話しかけてきた。


 今の俺の服装はこの世界に来た時と同じトレーナー、チノパン、スニーカーだ。元の世界では部屋でも外でも使えるハイブリッドな服装で、特に気に入っていた。こちらの世界に来てからは、村の外に出ない日だけこの服装で、森に入る時は村人から貰ったお古の麻の服を着ている。


「ちょっと見せてもらっていいかな?」


 ピウリは俺の服が気になって仕方ないようだった。


「いいぞ」


「やったー」

 ピウリが俺の傍に近づき、トレーナーやチノパン、スニーカーを触って感触を確かめ始めた。子供にたかられる大人みたいな構図になっている気がした。

 こういうケースはこれまでの人生で経験がなかったので、妙な緊張がある。


 しばらく固まっていると、ピウリが俺の服から手を離した。


「いやー凄いね、その服!」

 ピウリが目を輝かせながら言う。


「まずその上着、凄く柔らかい。しかもこの手触りは着込むととても暖かいよね。

 でも強度もそれなりにあるよね。そしてそのズボン、とてつもなく良質の綿だね。

 縫い目もすごく細かい、これほどの裁縫ができる職人は国に何人いるか分からないよ。通気性も良さそうだし、熱くても寒くても快適に過ごせそうだね。

 そしてその靴、不思議な形だけどとても柔らかく動きやすい素材だね。そしてその底が――」


「店長それくらいにしましょうッス」

 フリドーが止めに入る。


「えっ、ああごめんねー、興奮してついねー」

 ピウリが楽しそうに言う。本人はまったく悪びれていない。


「そんなに良い服を持ってるなら、どこかの貴族様かも知れないねー。売ってくれるなら1000ラントは出そうかと思ったけどねー」


 多分高額なのだろうが、この服はこの世界の服よりも着心地が良いし、元の世界との繋がりを感じる唯一のものでもある。手放す気にはなれなかった。


「俺もこれは気に入ってるんだ、ごめんな」


「いいんだよー」とピウリが答える。


 ただ、この服装は村の外に出る時には着ていけない。

 今は森に入る時は村人から貰った服を着ているが、貰い物だけに頼り続けるわけにもいかない。

 自分用の服をきちんと入手する必要がある。


「ピウリ、何か頑丈で着易い服って扱ってないのか?」


「服ねー、ちょっと待ってねー」

 ピウリとフリドーが馬の傍に下ろしている荷物袋を開け始めた。


「アステノの人はあんまり服買わないから手持ち少ないんだよ、ごめんねー」

 幾つかの服や鎧を並べてくれる。


 一通り目を通してみる。皮を張り合わせた鎧、綿の上質そうな服、明らかに体格が合わない大きな服……そして一番最後に目に入った服が、他と明らかに作りが違った。


 胴体部分が薄い青色で、袖が灰色。下半身部分も頑丈そうな作りで、腰周りのベルトで固定する形状になっている。


「お、その服が気になった?」

 俺の様子に気付いたピウリが話しかけてきた。


「麻生地の服なんだけど、冒険者や旅人の使用に耐えられるようにかなり頑丈に作ってあるよ。魔獣との戦いにだって耐えうる耐久性!一着だけ仕入れられたイチオシなんだよねー」


 ラズボードとの一件を思えば、これは確かに必要になる。手で生地の感触を確かめてみる。トレーナーには及ばないが、着心地は悪くなさそうだ。


「これ、いくらなんだ?」


「これはねー、本当は200ラントなんだけど、特別に150ラントにまけるよ!アステノの人達にはお世話になってるからねー」


 ……うん、足りないな!




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