第6話:はじまりの場所と、棍棒のルール
これまで体感したことのない衝撃が体に走り、
直後に体が浮き上がる感覚があった。
そして、柔らかいものに思い切り突っ込んだ。
茂みに弾き飛ばされたらしい。背中と頭が痛い。
しばらく動けなかった。
ラズボードの唸り声が聞こえる。
近づいてくる気配はない。
恐る恐る目を開けると、ラズボードが後退していくのが見えた。
あれだけの質量を顔面に受けてただではすまなかったようだ。
手痛い反撃を食らったラズボードは、俺とテオックに背を向けて森の中へと走り去っていった。
「おいおい、マジかよ!ヨウヘイお前やるじゃん!」
テオックが駆け寄ってくる。
……立ち上がれない。
全身が痛い。
これは、全身複雑骨折的なやつじゃないか?
ああ、これはまずい。死ぬかもしれない。本気でそんな気がする。
「派手に吹っ飛んだな、とりあえずこれ飲め」
テオックが小さな瓶を取り出し、中身を俺の口に流し込んだ。
なんとも言えない苦味が広がる。吐き出したいくらいまずい。
「無茶しやがって、助かったよ」
テオックが言う。
その声を聞きながら、じわじわと体の痛みが引いていくのを感じた。
それでもまだかなり痛むが、さっきよりは明らかにましだ。
「おお、動くぞ……」
動かすたびにギシギシと痛むが、確かに体が動くようになってきた。
「お前は傷薬使うの初めてだったな。アステノの傷薬は飲んでよし、塗ってよしで町でも人気なんだぜ」
傷薬か。より一層アステノへの信頼が増した気がした。
ゆっくりと立ち上がろうとする。
テオックが手を差し出してくれたので、その助けを借りてなんとか立ち上がった。
「正直死んだかと思った」
「大げさな奴だな」
少しだけ体を動かしてみる。
痛みはかなり引いていた。まだぎこちないが、歩けそうだ。
「ラズボードの気が変わらないうちに帰るか」
「そうだな、疲れた……」
歩き出そうとすると、テオックが不意に口を開いた。
「なんつーか、悪かったな」
「なにがだ?」
「いや、なんでもない」
ラズボードに遭ったことに責任を感じているのかもしれない。
それ以上は聞き返さず、テオックの後ろを付いていく。
しばらく歩き続けると、徐々に森の青みがなくなっていき、見慣れた森の雰囲気になっていった。
そこからさらに20分ほど歩くと、開けた場所に出た。
「あれ、ここは……」
見覚えがある。中央にある切り株。
俺がこの世界に来た時に最初にいた、あの広場だ。
「ああ、お前が座り込んでた場所だよ」
こんな所に通じていたのか。
あれからまだ一週間しか経っていないのに、妙に懐かしい気がした。
切り株に近づく。あの時に見た、薄く輝く青い花がまだそこにあった。
「精霊の花だな」
テオックが花を眺めながら言う。
「精霊の花?」
「ああ、ここは精霊の広場って言われてて、昔精霊様が住んでいたそうだ。
この花はここにだけ咲くんだ。精霊様の力かもな、なんかここ落ち着くだろ?」
言われてみると、確かに落ち着く気がする。理由は分からないが。
「まあお前は慌てて逃げ出そうとして棍棒振り回してたから、落ち着くってのも気のせいかもしれないけどな」
「その事はもう忘れてくれ……」
テオックは広めていないようだったが、本人の口からたまに出てくる。
あれはとんだ醜態だった。
精霊様か。あの時の女性が関係しているのだろうか。
……まあ、それを考えても仕方ないか。
「ここには魔獣も現れたことがないからな、村の連中もこのあたりに来た時は休憩場として使ってるんだ」
「まだ日が暮れるまでには余裕がある、少しだけ休んでいくか」
「そうしてくれると助かる」
テオックはその場に寝そべり、俺は切り株に腰掛けた。
この一週間でかなり体力はついてきたが、今日は流石に疲れた。
全身がじんわりと重い。
「お前の棍棒を出す魔法があんなに役に立つとはなあ」
「俺もそう思ってた」
この世界では、俺の棍棒を出す能力は魔法として認識されているらしい。
この一週間で試しに何度か使って分かったことが三つある。
1.新しい棍棒を出すと前に出した棍棒は消えること。
2.自分で持てないほど巨大、あるいは重い棍棒は呼び出せないこと。
3.形状をある程度自由にできるが、明らかに棍棒でないものは呼び出せないこと。
さっきラズボードにフルスイングした棍棒は、把握している限り呼び出せる限界のサイズだった。
体が吹き飛んだのはそのせいもあったかもしれない。
「あー、俺も棍棒を出すのでいいから魔法が使えたらなあ」
テオックは魔法が使えないらしく、こんな能力でも羨ましいようだ。
俺としては棍棒を出すよりもっと便利な魔法はいくらでもあると思うのだが。
「俺は棍棒じゃなくて火を出すような魔法が良いぞ」
「それは危険だ、お前が使ったらこの森が燃えちまう」
テオックがくつくつと笑う。
しばらくテオックと談笑して疲れを取ってから、俺たちはアステノへの帰路についた。




