第5話:「棍棒出ろ!」――異世界で初めて振るう得物
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テオックが低く呟く。この様子、想定外の事態なのだろう。
魔獣。理性を持たない怪物。
この一週間で教わった知識では、動物との明確な違いは魔素を多く持っている点で、その分身体能力が高く、場合によっては魔力まで持っている非常に危険な存在だという。
魔獣が唸り声を上げる。今にもこちらに突進してきそうだ。
「おい、ヨウヘイ、逃げるぞ!」
テオックが魔獣を視線で捉えたまま俺に言う。
俺とテオックが走り出そうとした瞬間、魔獣がテオックに向かって走ってきた。テオックはすんでのところで横に跳んで回避する。
「うお、あぶねぇ……」
テオックをかわした魔獣はそのまま走り抜けた。
「ヨウヘイ、今のうちだ!走るぞ!」
俺とテオックは大樹の水場から離れ、森の中へ逃げ込んだ。
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少し走って、魔獣の姿が見えなくなったところで一息ついた。息が切れている。テオックはそこまで疲労していなさそうだった。体力の差を感じる。
「あれはラズボードだ。あの突進に当たったら痛いじゃすまないぞ」
見れば分かる。あんなもの食らったら全身骨折だ。
逃げた時に来た道ではなく森の中へ入り込んでしまったので、今いる場所がどこなのかよく分からない。
「とりあえず大樹の水場を避けて移動しよう」
テオックの後に続いて移動する。時折背丈の高い草が行く手を阻む。
このまま遭難したりしないんだろうか。
「これは帰れるのか?」
「ん?ああ、そっかアステノに住んでる連中はみんなこの森は庭みたいなもんだ。まあ魔獣に会ったらただじゃすまない事もあるけどな」
あっけらかんと言う。
俺が一番心配しているのはそっちなんだが。
それから程なくしての事だった。
茂みから音がする。
テオックが足を止めた。
「クソ、追いかけてきやがったか」
先ほど振り切ったと思ったラズボードが、目の前の茂みから現れた。
「やるしかないな」
テオックが腰の鉈に手をかけながら俺に言う。
「倒せるのか……?」
「多分無理だろうな、追い払うんだよ」
言い終わる前に、ラズボードが俺に向かって走ってきた。
「うわあっ!」
とっさに近くの木の裏に回り込む。
ラズボードが俺のいた場所に牙を突き立てようとしていた。間一髪だった。
木の幹を背にしながら状況を考える。
このままぐるぐると木の周りを回り続けるわけにもいかない。
「くらえ!」
テオックが鉈でラズボードに斬りかかる。
鈍い音が鳴る。ラズボードが唸り声を上げてテオックを睨む。
そのままテオックに飛び掛かるが、テオックは素早く横に跳んで避けた。
「だめだ、脂肪が厚くて刃が通らねえ!」
逃げても追いつかれる。テオックの鉈でも太刀打ちできない。
俺の持ってるナイフなんて論外だ。
……なら!
「棍棒出ろ!」
手元に長さ70センチほど、先端が膨らんだ重量のある棍棒を呼び出す。
そのまま、テオックに向かって唸り声を上げるラズボードに、両手で持った棍棒で思い切り殴りかかった。
衝撃が腕を走り、棍棒が手から弾き飛ばされる。
それでも確実な手応えがあった。
「グオオオォォォォ!」
ラズボードが鳴き声を上げてよろめく。
棍棒を拾う余裕はない。俺はラズボードから距離を取るために走った。
「やるな、ヨウヘイ!」
テオックがそのあたりに落ちていたそこそこ大きな石を拾い上げ、ラズボードの顔に向かって投げる。
ダメージはなさそうだが、よろめいているところに受けた攻撃で、ラズボードが一瞬混乱したようだった。
小さな刃物は通らなくても、打撃なら効く。
棍棒ならいける。ならば――
俺は長さ30センチほどの、そこそこ重量のある棍棒を呼び出す。と同時に、足元に落ちていた先ほどの棍棒が消えた。
「くらえ!」
思い切りラズボードに向かって投げる。
肩の力は大したことはないが、重量がある分、当たれば痛いはずだ。棍棒がラズボードの体に命中する。
ラズボードの注意がこちらに向く。
さらに念じる。今投げた棍棒が消えて、新しい棍棒が手元に現れる。
現れると同時にまた投げた。
今度はラズボードの顔に当たった。
ラズボードが唸り声を上げる。
「もう一発!」
さらに棍棒を呼び出して投げる。
流石に何度も繰り返すと腕が疲れてくる。
今度はラズボードの手前に落ちてしまった。
遂にはラズボードが雄たけびを上げた。
「なにしてるヨウヘイ、あぶねーぞ!」
テオックが叫ぶ。
ラズボードが俺に向かって走ってくる。
思った通りだ。怒り狂ったこいつは今度こそ俺を仕留めようと突進してくる。
俺は念じ…新しい棍棒を呼び出す。
今度は1メートルを超える大型の棍棒だ。
これは頑張っても何度も振り回せる大きさではない。一発勝負だ。
全身に力を込め、俺は棍棒を構えた。
「うおおおおお!!」
突進してくるラズボードの顔面めがけて、全力で棍棒を振り抜いた。
野球のバッターのように体ごと回転させる。
とてつもない衝突音が鳴った。




