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5 泥棒になってしまいました。

 第一生産区。ひときわ大きな建物の裏手。

 行けばわかるという指示でここに来たけども、なんだか不安になってきたな。


「いったい誰から受け取ればいいっていうのさ。誰もいないじゃない」


 真夜中に出歩く人はいない。それもそうだ。外出が禁じられている時間なんだから当然だ。

 この時間に外出しているところを騎士に見つかればすぐに捕まってしまう。そうなると翌朝まで牢の中だ。理由は単純、安全のためだ。夜は暗い、暗いと柵や手すりの位置が分かりにくい、分かりにくいと、とっさに安全帯を繋げられないから、ってこと。王竜ズメイは空を飛んでいるし、突発的な事故をさけるために夜間は家にいましょうってことだ。


 一時的とはいえ捕まえるのはやりすぎだ、っていう人もいるけど、だいたいそういう人って酔っ払いだし、大昔からの決まりとして今も続いている。


 点在するガス灯のそばを避け、物陰から物陰へ、そして壁に隠れて裏手の扉をうかがった。

 うーん、やっぱり不安だ。胸がそわそわしてなんだか落ち着かない。そもそも私を騙すための依頼だったんじゃないかな。あー……でも騙すって? なんのために? 不安と緊張でいらぬことをぐるぐると考えてしまう。


「なんか……焦げ臭い」


 不意に鼻をかすめる嫌なにおい。微かだけど臭う。暗かった建物の明かりが、ぱっとついて、中がなんだか騒がしい。まさか、火事だったりする?

 その時、建物裏手の扉がばーんって勢いよく開かれ、誰かが飛び出してきた。男の人だ。両腕で大事そうに何かを抱えていて、焦った様子で周囲をうかがっている。


「おい! いるんだろ! 持ってきたぞ!」


 男の人は声を抑えて誰かを呼ぶ。……これ、状況的に私のことだよね。きっとこの人で間違いない。はずだ……。


「あなたがルイドーさんの言ってた人?」

「うわぁ!」


 物陰からそっと近寄り、背後から声をかけてしまったためにひどく驚かせてしまったみたい。危うく抱えていたものを落としそうになっていた。


「お、脅かすな!」

「ごめんなさい。えと、ルイドーって人から荷物を運べって言われたんですけど」

「おまえが……」


 頼りなさそう。こんな小娘が。と、男の人は言った。いや、口ではなくて目で、だけど。


「問題でも?」

「いや……」


 男の人は周囲を再度見回した。額からは汗ともに疲労の色も浮かんでいる。抱えている箱に彼の視線が向いた。かなり大事なものなのは確かなようだ。


「持っていけ。くれぐれも慎重にな。絶・対・に。落とすなよ。中に緩衝材を敷いてあるが乱暴なことはするな。ちょっとしたことじゃ割れないが念のためにな」


 さっき落としそうになっていた人に言われたくはないな、と思いつつも押し付けるようにして渡されたので丁寧に受け取る。箱の大きさからしてルイドーがいったとおり人の頭くらいの物がちょうど収まりそうな具合だ。それにこの人もルイドーと同じようなことを言っている。『割れ物だけど、割れ難い』みたいな。どっちよ。


 私は箱を持ってきた背負子に括りつけて背負った。うん、これならそんなに重くない。……まさか本当に人の頭ってことは、ないよね?


「これって、その……。なにが入っているんですか?」


 ダメもとで聞いてみた。


「聞いてないのか?」

「まったく。なにも」

「その中身は……いや、いいから早くいけ! ただの煙だってすぐにばれる。説明している時間も惜しいんだ。これが無くなってこはすぐにバレて大騒ぎになる」


 ただの煙……ってことはこの焦げ臭いにおいはこの人が起こした陽動ってことか。

 男の人の視線が扉の方へ向いた。かなり警戒している。時間がないというならこれ以上聞いても答えてはくれないだろう。立ち去ろうとしたとき、男の人の左腕のある物に目が引き寄せられた。腕章。それが室内からの光を受けて闇から浮かび上がるようにして私の目に飛び込む。白い生地で作られた腕章と、そこに書かれた王竜の絵。竜を守り、導く騎士の証……。


「その腕章って、あなた竜導騎士の人……?」


 ということはこの人が出てきた建物は、竜導騎士の建物ってこと? うそ、こんなとこにあるの?


「行け!」


 背中を押され、一歩踏み出す。

 建物の中から大声が聞こえた。何かを探している? とにかく大きな声でなにかを叫んでいる。


「走れ! そいつを届けろ!」


 声に背中を押されて走った。人の鬼気迫る声には私の足を前へと進ませる推進力のようなものがある。

 一歩、また一歩と足を動かし、しだいに駆ける。あぁ、これはもう戻れないぞ。そんな言葉が頭の隅に浮かんだ。


 それからはすぐに私は竜導騎士たちに追跡されることになった。そして追跡される中で私の背中にある物が何かを知ってしまった。背後の騎士団が叫ぶのだ。これは騎士団にとっても、ここで暮らす皆にとっても大切な――


「飛竜の卵を、返せ!」


 私はこの日、泥棒になってしまったというわけだ。飛竜の卵泥棒に。

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