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2 おおせのままに

 竜巻の被害についての状況が大まかに確認され、それによって作られた名簿に目を通す。そこには百人ほどの名前が連なっていた。


 ついこの前に修理依頼を受けた人。先日、依頼を受けた人。知らない人、知っている人。沢山の名前がある。その名簿の中間くらいにライデル・トラポルトという名前を見つけた。父さんの名前だ。


 父さんは見つからなかった。つまりは行方不明ってこと。

 何日か探し回ったけども、探すような場所は正直あまりない。王竜の背中は広いけど、人が生活できる範囲は限られてるし、瓦礫の殆どは空に投げ出されたから、挟まっているとか埋まっているなんてのも考えにくい。


 この街での行方不明とは、死亡とほぼ同じ。空に投げ出されたってことなのだろうと思う。考えたくないし、悲しいけど、認めるしかない。意外と冷静な自分がいるし、そう考えるには早すぎる気もするけど、落ち着いているのが不思議な気分だ。薄情なのかな?


 葬儀は遺体の見つかった人と行方不明の人もあわせて合同で行われることになった。

 白い布に包まれた遺体が遺族や友人たちの手で再利用槽に沈められていく。再利用槽。私たち王竜ズメイの背中で暮らす人が行きつく最後の場所だ。ズメイの体内深部へと繋がる入口だ。ここから私たちはズメイへと帰り、そして共に生きることになっている。


 はるか大昔にあった大戦のころにズメイは生まれたらしく、ズメイの中にはたくさんの人が帰っていったそうだ。沢山の人が溶け、ズメイの一部となって。


 では行方不明の人は。父さんはどうなる? 遺体もなく、その最後の瞬間すらも見ていない。私の最後の父さんの記憶は「ご飯を食べよう」だ。

 私は父さんが入るはずだった、畳まれたままの白い布を持って再利用槽に腰まで入り、ゆっくりと沈めた。


「我ら竜の背に住まうもの。天の道にあり、竜の道あり」

 どうか父さん、魂だけはここに帰れますように。


 誰かが白い花を再利用槽に投げ入れる。私も投げ入れる。花がゆっくりと沈んでいくのを眺めていた。それから声。声が聞こえた。


「この度は多くの犠牲がでたことを……」


 誰かが台の上に立って、声を張って話してる。


「大変に残念に……死したものは王竜ズメイに帰る。……早すぎる死に……」


 どうでもいい。帰ったら、どうしよう。そうだ。まず部屋の片付けをしないと。父さんを探しててできていなかった。


「……おい」


 お店はどうしよう。部屋の中は物が散乱しまくってて。寝るとこもないくらいだし。


「おーい」


  再開するのはさきになりそう。壊れたものもいっぱいあるだろうなあ。 



「おい、ラキ」

「へ?」


 肩を叩かれていた。振り向くと青年がたっていた。短い片掛けの外套と、肩に担いだ白くて長い銃。そして騎士の制服。


「リューイ……来てたんだ」

「来てたも何も、最初からいたし」

「えと……そう、だったっけ? ハハハ……」


 なんとなくあたりを見回す。


「他の人は? 騎士団長の挨拶ってまだだよね?」


 リューイは呆れたとばかりに小さくため息を吐き出して見せた。


「そんなのもう終わったよ」

「あれ? 本当?」

「そんな嘘つかねぇって」

「リューイは、どうしてここに?」

「おまえ……。付き添いだろうが。さっき再利用槽に腰まで一緒に浸かっただろ」


 記憶に、無い。まったくもって、無い。


「まじか。小さいころから一緒だと、存在が空気になっちまうもんなんかね」

「そんなことないって。あー……ごめん。ごめんてば」


 リューイはむくれてそっぽを向いた。


「親父さんのことは、残念だよ」


 顔はこっちを見てない。


「うん」

「ちなみにこれ、今日で二回目な」

「……ごめん」

「いや、その……。今のは意地悪な言い方だった。わるい」

「いいよ。来てくれて嬉しいし」


 冷静でいるつもりだったけど、そうでもないらしい。



 それから私は家に帰った。

 家の中はというと中はそれは酷いありさまだ。しまい忘れていたドライバーにスパナに、壊れた箱から飛び出したネジやナットなんかが壁の片側に集まって、ちょっとした山になっている。


 反対に固定していた机や棚は不自然なくらいにきれいだ。それもそのはず、なんせ床が壁かよってくらいに傾いてしまったので、みんな滑り落ちちゃったから。さすがに大きいものは固定していたら動いてないけど。


「とりあえず、俺は壊れた物を集めとけば良いか?」

「うん、それでいいよ。助かる」


 リューイは片付けを手伝ってくれるというので、その言葉に甘えることにした。それに今この家はちょっと一人だと寂しい。


「普段から使い終わったものはしまっとけよな。そしたらこんなに散らかったりしないだろ」


 とリューイがつぶやく。はい、まさにその通りで……。いつ傾くかわからない王竜の背中の上では物をちゃんと管理するというのは安全対策の基本。父さんと私二人して、忙しさにかまけてこの頃はおろそかになっていた。すんません。


 しばらく黙々と片付けを進めていたけど、なんとなく沈黙に耐えられなくなった。


「そういえばさ」

「うん?」

「竜導騎士になってどう?」


 リューイはまだ新米の騎士だ。たしかまだ三か月くらい。


「あーそうだな。すげー忙しいよ」


 と、リューイは誇らしげに胸を張るけども、制服を着ている、というよりも制服に着られている、という印象がのほうがまだ強いのでなんだかおかしいんだよね。そのせいなのかな、家の中でリューイの存在だけが浮いているようにも見える。違和感? てやつ?


「なんで笑うんだよ」


 思わず、笑ってしまったところ、すかさず突っ込まれる。


「えー、なんか。慣れないなーって」

「いや、もう三か月たってんだぞ。こちとら毎日が訓練に訓練に訓練。剣に銃に竜の乗り方。大忙しだし、この格好だって何回も見てんだろ。いい加減慣れろよ」

「まぁ、そうなんだけどさ」


 とはいえやっぱり慣れない。


「ラキの方はどうなんだよ」

「忙しいよ。それなりにね。でも、新米竜騎士様に比べたらそうでもないんじゃないかな」

「そうなんかね。ていうか、その新米ってのも止めてくれ」

「でも事実じゃん」

「そうだけど、つけなくてよろしい」

「はいはい、おおせのままに」


 リューイが笑い。つられて私も笑った。

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