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勇者パーティーを追放された俺は、初級魔法だけで魔王を従える

作者: 早川冬哉

「オール、おまえはクビだ。今すぐこの勇者パーティーから出ていけ!」


 人間が住む地域と魔王領の境──魔の森を攻略中に、勇者であるレイモンドが俺を睨みつけた。


「は? なんで急に」


「言われないとわからないの? あんたが初級魔法しか使えない無能魔術師だからに決まってるでしょ!」


「大して強くない魔物も一撃で倒せず、何種類も魔法を発動させる時点で三流だろうが!」


 シーフのサラとタンクのグラインも、レイモンドの横に立ち、俺を罵倒する。


 ふざけるな! なんでわからない。俺は……


「俺は全属性の魔法適正があるんだぞ! それに魔法の発動速度だって……」


 俺の抗議を最後まで聞かず、レイモンドが俺の才能を否定する。


「だからどうした? 初級魔法だけじゃもうオレたちの足手まといなんだよ。回復だって、せいぜい腕を生やすのが関の山。腕の立つ神官ならば内臓がぐちゃぐちゃになっていても治せるんだぞ」


 なんで……なんでだよ? 


「なんでだよレイモンド! サラもグラインも……俺たち幼馴染だろう?」


 すがるような目で三人を見つめるが、帰ってきたのはゴミを見るような冷たい視線だけだった。


「もうあんたみたいなカスがいられるほど、勇者パーティーは弱くないのよ」


「いい加減てめぇの実力をわきまえろ」


 弱りきった精神で、レイモンドに視線を合わせると、彼は俺の腹に拳を入れた。


「ぐっ……」


 鳩尾に入った強烈な衝撃に、思わず膝をつく。


「さっさとこの場から立ち去れオール。この魔の森、生きて抜けられることを願っているよ」


 俺を見下し、背筋が凍りつくような猫撫で声を発したレイモンドは、口元を歪め笑い声を上げた。


 そうして去ってゆく三人を見上げながら、俺は拳を握りしめ、意識を失った。


***


 レイモンドは、俺がこの森で死ぬと考え追放した。つまりは俺を殺そうとしたということだ。


 あいつらの方こそ、俺なしでこの森を越えるのは無理だ。なんせ俺は常に初級のバフを重ねがけしてやってたからな。なんでそのありがたみに気づかないんだよ!


 冷静になってくると、ただただあの三人への怒りが込み上げてくる。


「だが、俺を殺そうとしたのにただ魔物や魔族に殺されて終わりなんて許せない。生き地獄ってやつを見せてやる!」


 勇者パーティーを探し、生き地獄を見せる。その目的のため、俺は歩き出した。


 だが、その歩みはすぐに止まることとなる。


「ん? なんだ、貴様は?」


 少し先にある岩に腰掛けた一対のツノが生えた少女──魔族が、俺に殺意を向けてきた。


 俺なら多分勝てる……けど、今は魔力をできるだけ温存しておきたい。


「俺はオール。人間の町に帰りたいんだが、道を知らないか?」


 真顔でありきたりな質問をした俺を見て、魔族が笑い出した。


「くっく……。おまえ、魔王である妾の殺意をものともしないとは……面白いぞ人間」


 魔王?! 確かにすごい力を感じるが、そこまでか?


 ブォン!


 不意に、魔王が手を掲げると、魔王の頭上に、吸い込まれそうなほどに真っ黒な球体が浮かぶ。


 やっぱダメか……魔力を温存するのは無理そうだ。


「脚力強化、筋力増強、エンチャントウィンド」


 ドゴッ!


 バフを重ねがけして横に飛んだ瞬間、直前まで俺が立っていた場所は、黒い炎で焼き払われていた。


「ほぉ……今のをよくぞかわしたな。褒めてやろう」


 なおも上から目線で指を鳴らす魔王。さっきと同じ黒球が、今度は十個出現……。


「遅い!」


 俺は黒球が完全に構築されるより早く十の氷柱を出現させ、黒球の核を貫いた。


「なっ……」


 黒球の生成を阻まれ驚く魔王。その一瞬の隙に、俺は火球を無数に生成した。


「なんだ……その魔法構築速度は!」


 焦りを露わにする魔王をよそに、俺は生成した火球を一つにまとめ、巨大な火の玉を作り上げる。


 さらにそこに、風の初級魔法「ウィンドブースト」を幾重にも重ねがけし、火球の速度を上げる。


 それを打ち出そうと、手のひらに力を込めたその時、


「まま……待ってぇ! 私が悪かったからぁ。降参します殺さないでぇ」


 魔王は土下座し、威厳も何もない口調で降伏した。


「えっ……?」


 いやまあ、俺はもう勇者パーティーのメンバーではないわけで、人類を救う理由なんてないからな。


「わかった、降伏を受け入れる」


 魔力、だいぶ使っちゃったなぁと思いつつ、俺は火の玉を消す。すると、魔王が足にしがみついてきた。


 コホンと咳払いをして、魔王は威厳のある口調に戻す。


「魔法戦で妾を倒したオール様こそ、真なる魔王にふさわしい。是非とも魔王として、我ら魔族を導いてはくれぬか?」


「断る。俺にはやることがあるからな」


 そう、勇者レイモンドたちを魔の森から救い、その上で生き地獄に落とす。俺は今、そのためだけに生きているのだから。


「そう言わずにどうか、どうか我らを……」


「しつこい……ぞ」


 俺の足に抱きつく魔王を見下ろす。紫色の髪はサラサラで、肌艶もよく胸も大きすぎず、されど小さくもない。顔には若干のあどけなさを残しつつ、大人っぽさも混じっており、間違いなく魔王は美少女だった。


 まあ、復讐を終えてからならいいかもな。……うん。


 ただ、さすがに人間として、堂々と魔王をするわけにもいかないので、妥協案を提案する。


「わかったよ。ただし、表面上はおまえが魔王をやれ。俺は陰から手伝うだけだ」


「本当か! 本当に魔王をやってくれるのか?」


「ああ」


 俺が頷くと、魔王は俺の首に手を回して抱きついてきた。……とびっきり無邪気な笑みを浮かべて。


***


「改めて、妾はアイリーン。……では早速、オール様を我が魔王城に……」


「うわあぁぁあぁ!」


 アイリーンの声を遮るように、少し離れた場所から悲鳴が上がった。


 見ると、レイモンドたちがワイバーンの群れに襲われている。


「くそっ! なんでオレがこの程度のやつらなんかに遅れを取らなければならないんだ!」


 グラインの太い腕に噛み付いたワイバーンを乱暴に切り捨てたのは、頭から血を流したレイモンド。


「なんだかオールがいなくなってから、急に体が重くなってない?」


「そんなわけあるか! ただの気のせいだ。無駄口を叩く前に目の前のワイバーンを……ぐぁっ!」


 サラに怒鳴りかかったレイモンドの脇腹を、ワイバーンの爪がえぐった。


「レイモンド!」


 すぐさまグラインがカバーに入るが、全方位から迫るワイバーンになすすべはなく……。


「こんな……ところで」


 その様子を見ていたアイリーンがこちらを振り向いた。


「あの死にかけどもはオール様の仲間か?」


 かつての仲間であり親友でもあった三人。今にもワイバーンに食い殺されそうな彼らを見て、俺はただ笑った。


「敵だ。敵だが、奴らを人間の町まで飛ばせるか?」


「人間の町まで転移させることなど造作もないが……何故敵を助ける?」


 腕を組み、不思議そうに尋ねるアイリーンに、俺は得意げに指を立てて答える。


「俺が抜けた今、勇者パーティーはもう機能しない──今まで倒せていた相手すら倒せ無くなった勇者に、民衆たちは何を思う?」


 ああそうかと納得したアイリーン。


「つまり、奴らはこれから民衆たちに石を投げられ、最終的には勇者の任をとかれ始末される……そういうことか?」


「そのとおりだ。俺を捨てたあいつらには、失望の眼差しに晒され、罵声の中で後悔しながら死んでもらう。……これが、俺の復讐だ」


***


 ──半年後。俺が思っていた通り、勇者パーティーは何度も魔の森攻略に失敗し、民衆たちはそんな彼らをゴミを見るような目──かつてレイモンドたちが俺に向けたのと同じ目で彼らを見た。


「今より、グライン、サラおよびレイモンドの処刑を執り行う」


 国王に大した実力がないことを知られると、レイモンドたちは勇者のフリをした偽物だとされ、国王を謀ったとして罪になった。


「どうしてこうなった……。オレは勇者だろ? なんでこうもうまくいかない!」


 町の中央広場で柱に縛られたレイモンドが、同じく縛り付けられたグラインとサラに問う。


「思えばオールがパーティーを抜けてから、なんだか歯車が狂ったような気がします」


「そう……だな。あの後、町で代わりの魔術師を探してようやく思い知らされた。……オールの魔法がどんだけすげえものだったかをな」


「これより、火刑を始める」


 俯く三人に、松明の火がくべられる。


 肉が焼かれる痛みに心が絶叫する。だが、レイモンドには泣き叫ぶ気力すら残っていなかった。


***


「まったく、オール様を切り捨てるなんてバカな真似をするからだ」


 勇者一行の処刑を、魔法を使って見ていた俺とアイリーン。


 彼らの生気を失った顔も、炎に焼かれて苦しむ姿も、見ていて心がスッとした。


「これでようやく心が晴れた。……さあ、そろそろ本格的に、魔王らしいことでもしようか」


「ああ、そうしようぞオール様」


 アイリーンに微笑むと、俺は個性的な四天王たちに指示を出す。


 俺はこうして、かつての幼馴染のことなど忘れて充実した魔王ライフを送り始めた。

「面白かった!」


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