第8話 謎の少女とスフィア
ジャンク街の外れ――俺たちの住処である、廃コンテナの屋根裏。
薄暗い部屋の片隅、修理したベッドの上に、あの少女は静かに眠っていた。
あのあと、おっさんに半ば強制的に少女を押し付けられ、今に至る。
少女の着る簡素な服や顔はすすだらけだったが、どこか上品な気配を感じさせる不思議な雰囲気があった。
俺はその横で、データパッドをいじりながら、ぼんやりとスフィアのことを考えていた。
この2年、生活を築くので精一杯だった。スフィアについて、じっくり考える余裕なんてなかった。
――スフィア。
それは、俺にとっても未だに謎のままだ。
2年前、わけもわからないまま事件に巻き込まれ、わけもわからないまま手のひらから飛び出した水は、金属をも切り裂く威力だった。
あれが最初で最後の“奇跡”だった。
それ以来、いろいろ試したけど、攻撃とか特殊能力らしいものは出なかった。けどある日、ジャンクの山で拾った古い再生装置にスフィアをはめ込んだら――なぜか、地球の映像や音楽が流れ出した。
それが、「アースメディア屋」の始まりだった。
今は、ジャンクから見つけた古い記録媒体にそのデータをコピーして売ってる。
それで、なんとか生き延びてきた。
「…………」
ふと、視界の端でセレネが動いた。彼女は、少女の胸元をじっと見つめていた。いつになく真剣な目つきで。
「……これ、金星のスフィアね」
「――え?」
俺は思わずセレネの方を振り返った。
セレネは、目を細めたまま小さく頷いた。
――金星?
だとしたら、この少女は……?
その瞬間、運命の歯車が音を立てて噛み合い、ダラダラと続けていたメディア屋の日々が静かに終わりを告げた。