プロローグ:路地裏のアースメディア屋
カクヨムで載せたものを少し遅れて(清書して)載せます。
https://kakuyomu.jp/works/16818622173142752551
まずは1章完結まで、1日、3〜5話のペースで更新します。
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地球が消えて、今日でちょうど2年が経った。
俺は今、辺境宇宙の片隅――惑星ユフタ最大都市ジガの路地裏で、アースメディア屋をやってる。
と言っても、看板もなければ、店舗もない。あるのは、穴を縫い合わせた布を張っただけのボロボロのテントと、雑多な金属パーツの間に積まれた記録媒体の山。
空気にはエンジン音の残響と油の匂いが充満していて、遠くでスチームサイレンがくぐもって鳴っている。
通りを行き交うのは、甲殻に覆われた二足歩行のセラリウム人に、脳みそが透けて見えるゼリフィアン族、全身を布で覆った砂漠用ドローン集団。異星人たちは、それぞれの呼吸装置や翻訳機を揺らしながら、掘り出し物を求めて歩いてくる。
俺の店前にも、大通りを外れて今日もぽつぽつと宇宙人たちが集まっては、記録媒体を手に取り、再生して、首を傾げたり、急に食いついたりしている。
中身は、地球にあった映画とかアニメとか、アイドルのライブ映像とか、昔の渋谷の街並みとか、統一性も狙いもない雑多な内容。ここにいる宇宙人たちは知らない星の、知らない文化。でもこれが案外ウケて、"謎の滅びた惑星コンテンツ"として、マニアたちに人気なのだ。
「あら、それまた売れたの? これでいくつ目、アース渋谷'23だっけ?」
隣に浮かぶ妖精型ナビドロイド、セレネが腕を組んで言う。銀色の大きな瞳、透き通った肌、純白のワンピースの胸元には銀色のセンサーライン。背中には半透明の4つの羽があり、動き回るたびリィーンと小さく音が鳴る。
ロボの割には声のトーンはやけに人間くさく、そして今日もやや呆れている。
「八つ目かな。あの信号機がいいらしいよ。"ダサ文明感がある"ってさ」
「……ねえ、旅は? 惑星を取り戻す話はどこいったの?」
「ちょっとお金貯めてからって言ったじゃん」
俺はにやっと笑って、胸元から取り出した宝石――青い星のスフィアを見た。
手のひらサイズの、俺の地球。世界をまるっと失った俺の、たったひとつの居場所。
でも――たぶん、こんな日々が続くはずもない。