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Zero-Sum Game supported by 『Transport Gaming Xanadu』  作者: 秋乃晃
SeasonX

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第3話 ピースメーカー

 パチパチパチ、と乾いた拍手と「この世の中、いろんな転生モノはあるけれど自力で装置を完成させて別の世界に〝転移〟してくるパターンは珍しいんじゃないかね?」というセリフで出迎えてくれたのはボーダー柄のTシャツに黒いジャージの男の子。

 小脇に本を挟んでいる。


 ここまで怪物としか出会していなかったから、そのセリフの内容よりも人間の姿をした生き物との遭遇に胸を撫で下ろした。

 拳銃をホルスターにしまう。


 日本語を操るコボルトがいたらあたしは卒倒していただろう。


「きみはぼくのことを知らないだろうけれど、ぼくはきみのことを知ってるからね」

「ふーん?」


 勉強熱心だこと。

 感心感心。


「初めまして大天才。ぼくは宮城創。またの名をピリオド。今回〝は〟ゲームマスターだね。創って呼んでいいからね?」


 自己紹介された。

 向こうはあたしを知っているそうだが、あたしは「四方谷拾肆だ」と答える。


 その『ゲームマスター』っていう肩書きが何なのかはわからない。

 ……大天才のあたしにだってわからないことはあるんよ!


()()()にスタートした『ピースメーカー』計画の生き残り、だよね?」


 そう!

 若いのによく知ってんねえ。


 あたしは『人類の平和のために生まれた』大天才。

 やがては『人類の平和のために死ぬ』はずだった。


 ――でも、あたしの順番が来る前にあたしを開発していた研究施設がアンゴルモアに襲撃されちゃってね!


 あちこちで火の手が上がる阿鼻叫喚地獄絵図の中を掻い潜って、あたしは参宮と逃げ出したのさ!


 んまあ、助けられなかった子のことはとっても残念だけど。

 このあたしが生き延びたんだから未練なく成仏してくれよ。


 大天才のあたしは時空転移装置を完成させちゃったんだから。


 完成……ではないか。

 やりたかったことはもっと違うことだし。


あたしだけが逃げ出した。

でも、でもだよ。


 もしこれが他の子だったらできなかったよ?

 あたしは大天才だからできたんだもの。


 創の頭上、天井から吊り下げられたディスプレイが点灯して、コマーシャルを流し始める。



 ――「人類の明るい未来のために『Xanadu』は提案します!」


 ナレーション音声と朗らかなBGMに合わせて、少女たちが隊列を組んで行進している。

 進行方向にはぐるぐると回転する刃。


 ――「オルタネーターたちを安心安全、完全無菌状態で加工し、皆様の食卓にお届けいたします!」


 少女たちは躊躇わずに進んでいく。

 無表情のまま刃に切り刻まれて、肉塊がベルトコンベアで流されていった。


 研究施設で『人類の平和のために生まれ』て『人類の平和のために死ぬ』ことこそを〝使命〟と叩き込まれた少女たち。


 いずれあたしもこの行列の一員となる、はずだった。


 ――「平和は豊かな食生活から。衣食住足りてこそ幸福は実現されるのです!」


 肉塊は腐敗を防ぎ鮮度を保つために冷凍保存され、加工され、元の姿からは想像つかない形状となる。

 ダンボールに詰め込まれ、業者の手に渡って、世界各地の一般家庭に配給されるのだ。



 コマーシャルが終わると、ディスプレイは暗くなった。

 創は「とんでもないね」と言いやがる。


「どこが?」


 参宮もことあるごとに『あんなのは間違っていた』とこぼしていたな。

 研究施設の外で生まれて外で育つと感覚がおかしくなってしまうのかも。


「この『ピースメーカー』計画には真の目的があったんだけど、きみがこんな場所にいるってことは失敗したんだね」


 どこがって聞いてんだろが。

 人工的に生命を量産して、調理する。


 植物を栽培したり、家畜を肥育したりするのと何が違う?


「あたしみたいな大天才を人為的に作り出して、人類の危機を救うため以外に何の目的があんのさ」


 あたしが言い返すと、創はごまかすように「きみはあの世界の人類のためによく頑張ったね!」と褒め称えた。


 なんだァ? 『あの世界』って。


 頑張ったっていうか。

 あたしは大天才だから大天才として成すべきことをしたっていうか?


「これからはMMORPGの世界で、『人類の平和』なんてくだらないものは考えずに自由に生きてほしいね!」

「えむえむおーあーるぴーじー?」


 なんだそりゃ。


 ……なんだそりゃ????????


「大天才は〝ゲーム〟ってものを知らないからね。どう説明するのがいちばんわかりやすいかね?」


 ゲーム……。

 ゲーム?


「きみが元いた世界のように怪物はいるけれど、怪物――この世界では〝モンスター〟って呼ばれる敵を倒す技術が発達していて、モンスターを倒してレベルを上げてクエストをクリアすることになるね」


 初めて聞く単語ばかりだ。

 あたしは大天才のはずなのに、……悔しい!


「ゲームについてはあとでまた話そうかね。話題を変えよう。……拾肆ちゃんは、前の世界で〝転移〟の研究をしていたんだよね?」


 創はあたしの表情を窺ってから、あたしの得意分野の話を振ってくる。


 時空転移装置!


「アンゴルモアが怪物を〝転移〟させているコズミックパワーの正体を掴んで、逆にアンゴルモアと怪物を〝転移〟させちまおう作戦な」


 大天才らしい大胆な発想だろ。

 敵の力を解析して自らの力として用いる。


 毒を以て毒を制するってやつだぁね。


「人類の勝利のための兵器の開発ではないのに、研究費は渡せない」


 創は老いぼれジジイがあたしに告げてきた言葉を一言一句間違えず、トーンもそのままに。

 語りながらあたしに近づいてくる。


「見栄だの権威だのくだらなくて腹の足しにもならないようなしがらみに取り憑かれた奴らが、こんな女の子に金を払うわけがない」


 ほんとだよ。

 創の言う通り。


 あたしが参宮みたいな大人の男だったら、話は聞いてもらえたかも。

 研究施設にいる間に、他の子のぶんまで成長促進剤をガブガブ飲んでいたら変わっていたかも。


 ゲロマズドリンクなんだもん。

 アレ。


 身長が伸びないのとアレを飲むのとを天秤にかけたら身長が伸びないほうを取っちゃった。


「ちなみに、きみたちの研究室の周りが怪物に襲われているちょうどそのとき、旧態依然としたヤツらは宇宙へ逃げようとしてね」

「ハァ?」


 宇宙ぅ?


 怪物への有効打が発見できなかった無能ども。

 地球を捨てたか。


「アンゴルモアに見つかって海底に〝転移〟させられた」

「よっしゃ」


 ざまあみろ。


 やっぱり大天才に全投資が大正解だったやんな。

 逃げようとするからそうなる。


 立ち向かえよ。

 大天才を見習ってだな。


「宇宙空間で活動できるよう設計された宇宙船だから海底でも何年かは保つだろうけど、それでも『人類の敗北』は濃厚だね」


 ……。


「この宇宙船の乗車券、参宮には届いてたんじゃないかね?」

「参宮に? ……あたしの次に大天才だから?」


 あたしが呟くと、ディスプレイが反応した。

 見上げれば、――シャクトリムシの怪物が激突して崩されたのであろう瓦礫に押し潰されている参宮の姿が映されている。


 届くはずはないのに、手を伸ばした。


 元は研究室の壁だったコンクリートの重みから這い出ようともがいている。

 あたしが引っ張れば助け出せるかもしれない!

 力に自信はないけど、踏ん張るから!


 まだ生きているんだから可能性はある!


「なあ、創」

「何かね?」

「この場所に戻らせて」


 あたしの頼みを、創は「時空転移装置がないから無理だね」と即答してくる。


 できないんかい!

 何でも知ってるんだから何でもやってくれや!


「参宮を助けたい」

「この状況からは助けられないんじゃないかね? ほら」


 ほら、と言われてあたしは創に向けていた視線を上に移動させる。


 カメラのポジションが悪く、相手がどのタイプの怪物であるかは把握できない。

 が。

 参宮の頭部を引き抜いて、放り投げる影があった。


「あ……」


 悲しみだとか、怒りだとか、そういった負の感情より素早く、吐き気が込み上げてくる。

 あたしは膝をつくと、あともう少しで消化されそうだった胃の中のものを床にぶちまけた。


 死んだ。


 大天才のあたしを信じてくれた人が。

 あたしを大天才と信じてくれた人が。


 死んだ……。


「人が死にまくる世界の人だからこういうのには慣れているのかと思ったけど、そうでもないんだね」


 創の軽口が後頭部に注がれる。

 続けざまに「ぼくにとってはさっきの映像のほうがひどいと思うけどね」と励ましにもならない言葉がやってきた。


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