9話 王都
王都についた三人はまず、ペテルの通っている専門学校の学生寮に向かうことにした。
王都の道は石畳で舗装され、馬車の揺れも少なく滑らかに進んでいた。
道の両脇には様々なお店が立ち並び、所々に街路樹や花壇があり、道行く人は慌ただしく、人の多さに圧倒される。華やかだが騒然としていた。
馬車の中から見たこともない大きな建物が見えた。王宮だった。
王宮は白を基調とし、屋根は緑色で傾斜があり、窓が多くあるので、太陽の光が反射してキラキラと輝いていた。想像を超える建物の高さに圧倒される。
王宮の一部の庭園は定められた時間に、一般にも解放されており、王都民や観光で訪れた人々が自由に出入りしている様子が見えた。
初めて王都に来たフルールとマリエラは、目を輝かせ馬車の窓から、外を伺っていた。
「すごい人ね。マリエラ」
マリエラは大きく頷き、オリビアに声をかけた。
「奥様は来られたことがあるのですか?」
「あるわよ。お友達もいるのよ」
フルールは母のお友達にも会ってみたいなと思いながら、同時に羨ましく思った。
専門学校の寮に着き、ペテルを呼び出してもらうと、荷物を持ったペテルが門から出てきた。
今日から王都の宿に四人で泊まることになっている。
変わっていないペテルにオリビアは安心した。
オリビアは、ペテルに聞きたいことがたくさんあった。しっかり食べているか、勉強で疲れていないか、友達と上手くいっているか年頃の息子に遠慮して「元気そうね」の一言だけを言った。
ペテルは微笑みを返した。
サルタには王都に到着する日を予め手紙で伝えてあり、宿に着いたことを報告するとともに、明日からはいつでも訪問できる旨の手紙を書き、サルタの元に届けるように郵便係に託した。
フルールはサルタとの再開が楽しみで、踊りの練習と体を解すための運動を欠かさなかった。毎日の努力の甲斐があり、フルールは以前よりも、思うように体を動かすことができるようになっていた。
サルタは忙しいようで、再開は三日後となった。
直ぐにでも王都見物をしたかった子どもたち三人だったが、まずはオリビアのお友達の家を訪問し、お勧めのお店や食べ物などの情報を教えてもらうことになった。
オリビアの友達は、王都でも3本の指に入る有名な商会の夫人であり、同じ年頃の子どもたちもいて、ペテルたち三人はすっかり打ち解けていた。
ゴーン商会のルアイ夫人はノクスの街出身で、オリビアとジャンの幼馴染だった。
父のこともよく知っているようだった。
ルアイ夫人はフルールの顔の傷のことをオリビアに聞いていたが、明るく振る舞っているフルールを見て安心していた。
ルアイ夫人も幼馴染みの娘のことが気になっていた。
子どもたちは意気投合し、翌日はルアイ夫人の案内で、オリビアと子どもたちは王都のお店を回った。
珍しい雑貨や服、綺麗で美味しいお菓子など、子どもたちははしゃぎ、大人たちは満足していた。
王都にいるペテルは学校と寮の往復のみで、勉強漬けで真面目な彼は、街に出たことがなく、良い息抜きができていた。
オリビアとペテルは、フルールとマリエラをサルタのところに送って行った後、王立図書館に出掛けて行った。帰りも迎えに来る予定だった。
二人はサルタに駆け寄り、挨拶をすると抱き締め合った。
「踊りの練習はしているの?」
「はい。毎日練習しています」
「凄いわね。じゃあ早速踊ってみましょうか」
「はい」
フルールはサルタと踊るのが嬉しくて仕方なかった。
テンラム舞踊団の楽器演奏者がやってきて、ティン・ホイッスルを吹いてくれた。
お祭りの時は弦楽器だったが、今日は笛を演奏してくれた。
踊りが得意ではなかったマリエラは、ティン・ホイッスルの音に魅せられ、自分にも出きるのか聞いてみた。
演奏者はもうひとつあった、ティン・ホイッスルをマリエラに貸してくれ、教えてくれるようだった。マリエラは喜び、熱心に練習をしていた。
マリエラが演奏して、フルールが踊る。
サルタは笑みを浮かべ二人を見ていた。
いつの間にか周りには、テンラム舞踊団のほぼ全員が集まり彼女たちを見ていた。
舞踊団の人たちは、まだ幼いが彼女たちの堂々とした演舞に惹き付けるものを感じていた。
演舞が終わると拍手喝采だった。
「たくさん練習したのね。頑張ったわね」
「ありがとうございます」
サルタは優しく声をかけると、フルールは恥ずかしそうに俯きながら、返事をしていた。
「今のままでも上手なんだけど、手の先や足の先にも気持ちを込めるともっと良くなるわ」
サルタは言いながら、直ぐに踊って見せた。
「そうね。手のひらを上にするのか下なのか。指先はどちらに向けるのか」
「足を踏み出すときは、真っ直ぐ踏み出すのか、外側からなのか内側なのか。ゆっくりなのか、早くなのか」
フルールはサルタの踊りを瞬きもせずに見入っていた。
踊り終わるとサルタは微笑んでフルールの手を取り、
「フルールちゃんは本当に踊りが好きなのね」
といって頭を撫で抱き締めた。
フルールはサルタの心地よい暖かさと香りにうっとりしていた。