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8話 フルールの踊り

 フルールはサルタに会えた感動のまま家路に着き、直ぐにオリビアに、サルタと一緒に踊りの練習をしてもらえるのを興奮気味に話し、明日着ていくものを選んで欲しいと頼んでいた。

 オリビアは目を大きく開け驚いていたが、高揚し頬を染めたフルールの顔を見て、うっすら涙を浮かべ大きく頷いた。


 夜が明けるのが待ち遠しかったフルールは、朝早く目覚め着替えを済ませ、サルタに会えることを心待ちにしていた。

 窓の外を眺め、自然と鼻歌を歌っていた。


 娘の部屋から聞こえてくる鼻歌を聞きながら、落ち着かない様子の娘に顔を綻ばせ、ジャンは久しぶりに心地の良い朝を迎えられた。


 家族が集まり一緒に朝食を取っていると、フルールの食事が進んでいないことに気がついたオリビアが、

「もう少し食べなさい。お腹が空いてると踊れないわよ」

 そわそわして胸がいっぱいなのだろうか、フルールは小さく返事をしていたが、やっぱり食が進んでいなかった。緊張しているようだった。

 オリビアはパンに具材を挟んで、果実水と一緒にマリエラに持たせることにした。


 準備が整い、ペテルとフルール、マリエラは、サルタと約束した場所に徒歩で行けるため、フルールに合わせた足取りで歩いていた。


「おはようございます。ようこそいらっしゃいました」

 サルタは優しい声で三人を迎えてくれた。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 ペテルの挨拶に合わせ、フルールとマリエラは頭を下げた。


「では、始めましょうか」

「はい」

 サルタの声に三人は答えた。

 サルタは「まず準備体操ね」といって、柔軟体操を始めた。

 三人は見よう見まねで、身体を動かしていく。


「はいでは、踊ってみましょう」

「えっ···」

 三人はサルタの言葉の意味が分からずに顔を見合わせていた。

「私の踊りはね、特に、振り付けとかはないのよ。音に合わせて身体を動かしているだけなの。フフフ。驚かせたかしら?」

 とはいっても、三人は踊ったこともない。

 サルタは「そうね」といってしばらく考え、「これはどうかしら?」といって、目の前で踊って見せてくれた。


 フルールはサルタの踊りを真似て、体を動かしていたが、ペテルとマリエラはフルールの踊りをじっと見ているだけだった。


 サルタの踊りとは少し違ったが、フルールの踊りには惹き付けるものがあった。

 元々サルタの踊りには振り付けがないといっていたので、フルールの踊りは洗練されてないものの、彼女なりの表現力が見て取れた。


 サルタもフルールの踊りに目を細め嬉しそうな顔で見ていた。

「フルールちゃんは踊りが好きなのね」

 サルタは嬉しそうに言った。

「はい。歌も踊りも大好きです」

「上手に踊れているわ」

「ありがとうございます」

 フルールはサルタに褒めてもらい、嬉しくて仕方なかった。


 三人が帰った後テンラム舞踊団の団長と話をしていたサルタは、まだ幼いフルールの踊りを見て、もう少し大きくなれば、二人で踊りたいと言っていた。


 家に帰ったペテルは、サルタに褒められたフルールのことを、オリビアに興奮気味に話していた。

「良かったわね。フルール」

 オリビアは思わず三人を抱き締めた。

 その日の夕食は、フルールの踊りの話で盛り上がり、楽しい一日であったことを家族みんなで喜んでいた。


『春咲きまつり』が終わり、しばらくすると、ペテルは専門学校の寮に入るため、従者とともに馬車で王都に旅立っていった。

 別れ際に家族は抱き締め合い、長期休暇のときに会うことと、手紙のやり取りを約束した。

 テンラム舞踊団はまだしばらく滞在するようで、フルールは毎日のようにサルタに踊りの指導を受けていた。


 一週間後テンラム舞踊団も次の街に向かい旅立った。


 夏が近づいてきたある日、フルール宛にサルタから、兄のペテルに会いに王都へ来るなら、王都で会いましょうという内容の手紙が届いた。

 フルールは慌てて、ジャンとオリビアに相談をした。


 ジャンとオリビアは顔を見合せ、一瞬息が止まったかのように驚いていたが、返事を待つフルールの様子で徐々に落ち着きをとり戻していった。

 ジャンは右手を額にあて、うーんと唸ると自分は仕事で行けそうにないが、オリビアとマリエラが一緒だと安心だと思い、王都へ行くことを認めた。もちろん供も数人同行させるつもりだ。


 フルールはジャンの言葉に、くるくると回りだし、最後にスカートの裾を持ち、習ったばかりのカーテシーを父の前で披露した。

 半年前のフルールでは考えられなかった。

 ジャンはフルールの背丈に合わせて膝を折ると、両手で頬を包み「気をつけて行っておいで」

 とにこやかに言っていた。


 フルールは夢に向かって歩いている。

 この先困難があるかも知れないが、何があっても家族を支えていこうと、ジャンは改めて意志を固めていた。


 オリビアは前を向きだした愛しい娘の笑顔を絶やさず、陰日向になり、唯一の味方であることを心に誓っていた。


 夏になり、ペテルの長期休暇の時期に合わせ、オリビア、フルール、マリエラと供の者は王都へ旅立って行った。

 王都までは馬車で二日間、約半月後にペテルとともに四人で帰宅する予定だった。


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