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6話 三人きょうだい

 マリエラは故郷のソリスに帰って来た。

 近所のおばさん達に声をかけ、両親の事や自分の事を話し、家には帰らないことを告げた。

 持ち出したい物だけを馬車に乗せ、後は処分してもらえるようにお願いした。

 費用は働いたお金で少しずつ返していくつもりでいたが、ジャンの家からついてきて貰っていた供の人が、旦那様から預かっていると、お金を渡してくれた。


 マリエラはお金を見て驚いたが、旦那様になら毎月のお給料から返せるので、ありがたく使わせてもらうことにして、近所のおばさん達にお金を渡し、改めて家の処分を頼んだ。

 余ったお金はおばさん達で分けてもらい、足りない分は手紙で知らせてくれるようにした。

 足りない事はないだろうと、おばさん達は言っていた。


 後日、ソリスの町のおばさん達から、店の物が売れたとお金を送ってくれた。

 正直で優しい人達に感謝した。

 マリエラはお給料が出たらお返しに、王都で日持ちするお菓子を買って、おばさん達にお礼をしようと思っていた。


ジャンは、マリエラの家の処分にかかった費用や宿泊費など一切、彼女から受け取るつもりはなかった。


 フルールの従者は楽しかった。

 彼女は左頬の傷を気にしていたが、マリエラは気にならなかった。青い瞳が美しく、明るく素直な性格は妹のように可愛く、一緒にいることにマリエラは幸せを感じていた。

 仕事をしている感覚がなくなる時があったので、気を引き締めるために、動きやすいズボンを履く事にした。上着もシンプルな服にした。

 フルールもマリエラのズボンを履いた姿が気に入っていた。

 背が高くやせ形体型のマリエラは、男装のような服装がよく似合っていた。


 努力家で博学なマリエラは、兄のペテルとも話が合い、まるで三人きょうだいのようだった。

 ジャンは人を見る目に長けていた。


 家にも使用人が増え、母のオリビアも家事の負担が減り、得意の刺繍や読書をするようになり、家族は穏やかな生活を送っていた。


 ♢


 頬に傷を受けてから一年が過ぎ、フルールは9才になった。ノクスの街には春の訪れとともに今年も『春咲きまつり』が開催されることが決まった。

 今年のお祭りは特別に、王都で人気のテンラム舞踊団が訪れることになっており、街の人達はいつも以上に楽しみにしていた。

 テンラム舞踊団のサルタは独創的な衣裳と踊りで、王宮のパーティーなどに何度も呼ばれ舞踊を披露していた。

 サルタの噂はノクスの街まで届いていた。


 ペテルは猛勉強の末、専門学校に合格し、『春咲きまつり』が終わった後、王都の学生寮に入ることが決まっていた。


 大好きなペテルに会えなくなることが寂しかったが、マリエラがいてくれるので、フルールは泣かずに兄を見送ろうと考えていた。


 三人は『春咲きまつり』に行くことが、今から楽しみで仕方なかった。


 今年の『春咲きまつり』はノクスの街の五十周年ということもあり、王都からサルタのいるテンラム舞踊団の演目を皮切りにお祭りが始まる。


 街の中央広場には舞台の設置が始まり、開催までまだ3日もあるというのに、街の人達は落ち着かない様子で、舞台の組み立ての様子を横目で見ながら歩いていた。


 フルールは普段出かける事がほとんど無くなっていたが、お祭りの日のおしゃれが楽しみで、マリエラの意見を取り入れ、母オリビアに紺色のフードに刺繍をお願いした。

 オリビアはフードの縁に薄紅色や黄色、白色や橙色のクレマチスの花を散りばめたデザインの刺繍をしていた。

 可愛いフードの出来栄えに、フルールは満面の笑みで、フードを抱えながら、くるくると回り、兄のペテルやマリエラに自慢をしていた。

 久しぶりの愛くるしい振る舞いの妹を見たペテルは、心から嬉しく思っていた。


 フルールのおねだりは止まらず、マリエラが着るジャケットや、ペテルのベストにも同じクレマチスの花の刺繍をオリビアに頼んだ。

 オリビアも娘のおねだりに喜び、それぞれの服の色に合わせて、花の色を変え刺繍を入れていた。


 三人で服を着て並んでいると、きょうだいのようだった。

 オリビアは自分の刺繍に喜んだ子どもたち三人を優しく抱きしめた。


『春咲きまつり』当日がやって来た。

 ペテル、マリエラ、フルールの三人は、オリビアの刺繍の入った服を身に着け、手を繋ぎお祭りのメイン会場の舞台の近くにやって来ていた。


 子どもだということで、大人達は前で見るように促してくれ、三人は舞台の前の見やすい場所に移動した。

 三人はドキドキが止まらなかった。

 お互いの手をしっかり握りしめ、間もなく始まる舞踊団の踊りを楽しみに待っていた。


 舞台の下手から弦楽器の音が聞こえてきた。

 さっきまの喧騒が嘘のように静まり、優雅な弦楽器の音だけが広場に響いていた。


 舞台の上手から、異国の衣裳を身に纏った華奢な女性が一人舞台の中央に現れた。  

 美しい布で顔半分を覆い隠し踊る女性に、フルールはときめいていた。

 時折上手や下手から、籠を持った少女たちが交代で、花びらを撒いていた。


『顔の傷を隠して踊れるなら、私もみんなの前で踊ってみたい』

 フルールは心に強く思い、女性の踊りから目が離せなくなった。


 三人でお祭りを楽しむ予定だったが、フルールは舞踊団の女性に直ぐに会いたかった。会って話を聞いて欲しかった。

 フルールはペテルとマリエラに自分の気持ちを打ち明けた。




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