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5話 フルールの従者

 マリエラが執務室に入るとジャンが難しい顔をして書類と向き合っていた。

「マリエラさん早速来てくれたんだね」

 マリエラを見る目は優しかった。

「はい。お忙しいところすみません」

「まあ、仕事中だからね。こちらに来る事をお願いしたのはわたしだから。気を遣わせたね」

 ジャンは「どうぞ」と言って、ソファーに座るように手を差し出した。

 マリエラは小さく会釈し、促されるままソファーに座った。


「考えてくれましたか?」

「はい。ジャン様のところで働かせて下さい」

 マリエラは少し緊張して、ジャンに答えていた。

「おおっ。それはよかった」

 ジャンは満足そうに頷き、机の引き出しから書類を出してきた。

「これを読んでサインしてくれるかな?」

 差し出された書類は雇用契約書だった。

 わたしがサインを?と思い驚いているマリエラに、

「貴女ならわかるでしょう?」

 とジャンは両手を膝の上でくみ、にこやかに話した。


「はい。拝見させていただきます」

 と言って、マリエラは契約書の内容を確認した。

 両親に教えられたことが役にたった。

 契約書は分かりやすく、好条件にまた、驚いた。

「えっと···こんな好条件でも良いのでしょうか?」

「ハハハ。やはり貴女は聡明な人だ。よく読み解いたね。わたしの思った通りだ。なにか不明なところはありますか?」

「いいえ。···いいえ、どうぞよろしくお願いします」

 マリエラは迷わず契約書にサインをした。


「では、貴女の都合のいい日に、家に来てください。これからはわたしはマリエラと、貴女は旦那様と呼んで下さい。大丈夫ですか?」

「はい。かしこまりました、旦那様。お屋敷に伺う日を女将さんと相談してきます」

 マリエラは立ち上がり大きく頭を下げた。

 ジャンも立ち上り握手をした。


 マリエラはジャンの執務室を後にし、宿屋に帰って行った。


 娘のフルールよりも2つ上のマリエラは驚くほどしっかりとしていた。恐らく両親の元で勉強し、努力したのだろう。彼女ほど聡明な娘は探してもなかなかいない。

 フルールのことを任せても彼女ならきっと、娘のことを特別な目で見たりしないだろう。


『早くフルールに会わせたいものだ』

 ジャンはフルールに少しでも笑顔を取り戻して欲しかった。ジャンは家族が与えられる愛情も大事だか、他人から向けられる情や信頼も大切だと思っていた。

 ジャンは地位や財産目当てに寄ってくる者たちを、フルールに近づけたくなかった。


 これ以上フルールの心を傷つけたくなかった。


 マリエラは宿屋の女将さんにジャンの家に行くことを話した。

 女将さんは喜んでくれた。


 女将さんと話をして、明後日には宿屋を出て、ジャンの家に向かうことになった。

 持っていく荷物もなく、マリエラはギリギリまで宿屋の手伝いを続けた。

「マリエラ行っといで。たまには顔を見せにおいで」

「女将さん、皆さんお世話になりました。また、顔を見せに来ます」

 マリエラは深々と丁寧にお辞儀をし宿屋を後にした。


 ジャンの家に着くと、奥様と娘さん、ジャンが出迎えてくれた。

「マリエラといいます。今日からよろしくお願いします」

 マリエラが挨拶すると、

「こちらこそよろしく」

 と奥様と娘さんが挨拶を返してくれた。


 リビングのソファーに座りまずジャンと話をした。

「一度ソリスに帰ってマリエラの家の様子を見てくるのと、必要な荷物を持って来れたらと思うのだが、行ってくれるかな?」

「はい。私も気になっていましたので、助かります」

「そうだな。わたしは一緒に行けないが、供人をつけるので行っておいで」

「ありがとうございます」

 マリエラはソリスの実家が気になっていたので、ジャンの心遣いがありがたかった。

 お金もなく、子ども一人ではソリスには帰れなかったので、両親との思い出の品を持って来れるが嬉しかった。


 ジャンは娘のフルールを紹介した。

「娘のフルールだ。この娘はマリエラといって、今日からフルールの身の回りの世話をしてもらうことになった」

「マリエラです。フルールお嬢様よろしくお願いします」

「フルールです。マリエラさんよろしくお願いします」

 フルールは下を向いて恥ずかしそうに答えた。

 マリエラはフルールを見て、愛らしい娘さんだなと思った。

 母のオリビアは2つしか違わないマリエラのことを、しっかりした娘で安心した。


 ジャンはフルールとマリエラを見ていたオリビアと顔を合わせ頷き合った。


 翌日マリエラはソリスの町に向けて、供と一緒に旅立って行った。

 帰りは半月後になるだろう。


「フルール。マリエラのことをどう思う?」

「お姉さんが出来たみたいで嬉しいです」

「そうね。しっかりしたいい()だわ」

 オリビアとフルールはマリエラのことをとても気に入っていた。

 ジャンはマリエラの両親のことをオリビアとフルールに話をした。

 二人は驚いていたが、深く頷きマリエラに寄り添うことにした。


 兄のペテルはしばらく図書館に通っており、マリエラとは夕食の時に、軽く挨拶をしただけだったので、ジャンはソリスの町から帰り、働くことになってから、マリエラと話せる機会を作ろうと思っている。

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