クレーム対応
とある町にある小さな会社。そこにいる男。社長なのだが、はあ……と、ため息。
目の前の机の上には鳴り続ける電話。
相手は分からないがどういう用件か想像はついている。
度重なるクレーム。そろそろ事業の存続も危ういか。
いい話であってくれたら……と社長は受話器を外した。
「はい、もしもし」
『うぉぉぉい。そこは【マグナムナ】の販売会社でいいんだよなぁ』
「はい……そうですが……」
『どうなってんだよぉ』
「どう、とは……?」
『チンコが全然デカくなんねぇじゃねえかよぉ! ふざけんなよてめーよぉ!
最低、二十センチにはなるって説明書きにあるだろうがよぉ!』
「ええ、ですが個人差があるとも書いてありますと言いますか……」
『ざけやがってよぉ。じゃあなにか?
俺のチンコは筋金入りの洟垂れ小僧だって言うのか?
水漏れ程度の勢いの射精弱者だと言いたいのか?』
「いえいえ、ちょっとよくわかりませんが……」
『俺はよぉ信じたんだぜ? おたくの商品を、あんたの事をよぉ……』
「ええ、それはもう、ええ、ありがとうございます。
ええとですね、あ、でしたらそちらのお電話番号から
購入履歴を調べ、ご住所の方に特別に【マグナムナGXQ】を
お送りさせていただきたく思います、はい」
『ジーエックスキュウ? そいつは効くんだろうなぁ?』
「ええ、はい、多分、あ、もちろんです、はい……」
電話相手の男はそれで了承し矛を収め
電話を切った社長は、ふうと息をついた……のも束の間。また電話が鳴り出した。
「はい、もしもし……」
『あ、あの、こここ、あの、僕、【マグナムナGXQ】を送って貰った者なんですど……』
「あー、はいはい、どうされましたか?」
『その、あそこが青く光るようになって、これって……大丈夫なんですよね……?』
「えっーとですねぇ、副作用はあると説明書に記載がありますよね?
あとはまあ相性といいますか」
『え、その、それでマズいんですか、これ……何とかしてもらわないと困るというか
じゃないと他に相談、その、警察に……』
「ええ、ええ、ええ! 大丈夫ですとも! えーっとですね【マグマムナエクストラ】
の方をお送りいたしますのではい、それで治まるかと」
『え、あの、治まるってそれってそのあ、あそこのサイズも小さくなっちゃいますか?
ちょっと大きくなったみたいなんで嬉しかったんですけど……』
「いや、ええ、はい、いえ、大丈夫です。
【マグマムナエクストラ】を使えばさらに大きくなりますとも。
また何かありましたら、はい、ええ、では」
社長は電話を終えると、よしと一息。そしてまた電話が鳴った。
「はいもしも――」
『ちょちょ、ちょっと! 俺、あれ、前に
【マグマムナエクストラ】送ってもらったんですけど!』
「ええ、あ、はい、それでど――」
『いや、さ! これ、え? いやいや、え? なんなの!?
確かに青く発光するのは治まったけどさ! なん、え? いやもう、俺もわかんねえよ!
これ、なに? ペニスに何か生えてるんだけど!』
「生えてる? さぁーええと、それは陰茎のサイズが増大したことで
突起が目立つようになったんですかね。ええ、女性をその部分で気持ちよ――」
『いやいやいやいや! そんなレベルじゃないって! やばいって!
どうにかしてく……おいおいおい動いたぞこれ!
あんたがこれで大丈夫って言うから、もう結構飲んじゃったぞ俺!
本当に大丈夫なんだよな!?』
「ええ、もちろんです、はい、つきましては【マグナムナシャンデリゼ】の方を
お送りさせていただきますのではい、ええ、また、ええそれで安心かと」
社長は電話を切るとよしよしよしと頷いた。それから少し経ち、また電話が鳴った。
「はいもしもし」
『ジーヴァクゥーバァルルルルバムバ』
「はい?」
『ジョーンブバァビマグマグビビンバンバオティンティンボープピャムムムム』
「あー、【マグナムナシャンデリゼ】を全部お飲みに。
でしたらこれよりお迎えに上がりますのではい、ええ、はい。
たまにおられるんですよはい、ええ、一握りと言いますかレアケースと言いますか
ええ、薬の作用ではい、ええ、わかります。触手ですよね。はい、問題ないです。
はい、ああ、人目がね、はい、ですので夜遅くに向かいますので
ええ、車の後部ドアを開けておきますのではい、ハイエースのええ、後ろから
ええ、もう、すぐに飛び込んでいただければ、はい、はいでは」
社長は電話を切ると満面の笑みを浮かべた。
――良かった。薬の材料が切れかけていたんだ。
そして、鼻歌交じりに電話線を抜くと電気を消し、部屋を後にした。