〇〇の気持ち
絶望が頭上から私を覗き込んでいる。胸の底からとめどなく込み上げてくる、どす黒く粘ついた恐怖が全身をくまなく駆け巡る。同胞たちは既に心が折れ、未来を諦めてしまったようだ。だが、私は違う。
この身はどうなろうと構わない。煮るなり焼くなり好きにすればいい。しかし最愛の妻と娘だけは命にかけて守ると誓ったのだ。たとえ奴らに四肢をもがれ
「鈴木さん、ストップ」
「えっ、先生。まだ終わってませんよ」
「うん。でも、クラスのみんな箸が完全に止まっちゃってるから。涙目になってる子もいるから」
「だって、先生がピーマンの気持ちになりなさいって」
「野菜に感情はありません」
「ええ……」
「シンプルにもったいないし、栄養バランスのためにもちゃんと食べようね。あっ、そうだ! 給食を作ってくださった調理師さんの気持ちを考えてみたらどうかな?」
「……大鍋をかき混ぜる金属製のおたまに反射した自分の顔が、いつもよりひどく歪んでやつれているように見えた。数時間後、にぎやかな団らんとともに子どもたちの胃を満たすであろう温かなシチュー。けれど、今晩帰宅した私はスーパーで買った安い発泡酒と笹かまをむさぼり、空腹と寂しさを強引に紛らわせることしか……」
「はい終了〜! 他人の心を勝手に推し量るのは良くないですね! 所詮人と人が完全に理解し合うことは永遠に不可能です! あっ、違うよ! そうじゃないよ! 佐藤くん泣かないで!」
「えっと、今の先生の気持ちは」
「やめてえ!!」