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屁でもねぇ!

 昨日のエッセイを書いていて、思い出した出来事が……。


 以前は滋賀県日野町に住んでいました。田んぼが広がる小さな町です。鉄道の駅は無人駅。過疎化と高齢化で地元の商店街はシャッターが目立ちます。そんな地元の商店街でお買い物をしたら、福引券をもらった。ガラガラを回して出た玉の色で景品が当たるやつです。


 福引きの初日に券を10枚もって抽選会場へ行きました。抽選会場は係りの方が一人いるだけで、客は私だけです。初日だから大当たりの玉(一等・温泉旅行)は入ってないだろうと思いながら回すと、白い玉が転がり出て7等のティッシュだった。こんなもんかと残りの9回をガラガラしたら、やたらと色んな色が出てきた。なんか色々出てんな~と思いながら玉が9個出るまで回した。最後の1個は赤色の玉だった。色々出たから、どれかは当たってるでしょ。


係の方:……………………。


なぜか黙り込んでいる。こういう時って、ベルとか振ってガラン♪ ガラン♪って鳴らして景気よく「大当たり~!」って言ってくれるんじゃないの? それとも全部ハズレなの? ティッシュより外れな商品って、あるの?? まさか手ぶらで帰れとか?? なにももらえませんか??


係:え~っとですね……。ぜんぶ当たってます……。こんなに当たるもんですか? 怖いんですけど……。


係から怖いって言われた! なんでやねん!? 1等の温泉旅行は出なかったものの、2等のお肉や商品券、お米やお菓子詰め合わせセットなどが複数(!)当たった。聞いてみると、20回の福引きで、1~6等が1枚出る計算らしい。それなのに9個も当ててしまった。単純計算すると180回引かないと当たらないはずの当たりをたった9回で当ててしまった。当たりの多さに係の方が怯えてしまって、お通夜みたいな空気になった。いたたまれない私は沈黙のうちに会場を後にしました。なんか、ごめん……。


両手にたくさんの景品を抱えて、私は考えました。これ、一人占めしたらアカン気がする……。そもそも高級お肉1kg✖2セットなんて、夫と二人(当時は人妻でした)で食べきれない。何より上等なお肉を上手に料理する自信がない。どうしたもんか??


翌日私は全部の景品を抱えて、とある場所を尋ねました。


ソウ:これ、良かったらもらってください。

職員:お肉に、お菓子に、お米に商品券……! こんなにたくさん!?

ソウ:もらってやってください。そして有効活用してください。

職員:いったいどうしたんですか!?

ソウ:クジで当ててしまったんです。


当たったというより、当ててしまったという後悔のほうが大きかった(笑)。訪ねたのは福祉協議会の主催する子ども食堂。子どもさんのために使ってくれたら、私も本望です。

これだけお読みになったら、私がすごく良いヤツに見えるかも……しれません。でも私、ぜんぜん良いヤツじゃありません。心はせまいし、すぐに毒を吐きます。それなのに、なぜこんなことをしたのか? 理由はとある人物の影響です。


 私はたぶんその人物に会ったこともないし、お名前も知りません。もしかして会ったことがあるかもしれないけれど、その人物とは気づいてない。その方はたぶん日野町民です。そしてたぶん農家の方。たぶんお米を作っている方。たぶんばっかで、申し訳ないです。そしてたぶんは、まだ続きます。


その方のお名前を仮に「大黒さん」とします。たぶん大黒さんは日野町にお住まいで、田んぼを持っている。たぶん大黒さんは晴れた日も雨の日も田んぼへ出て、お米を作っています。まいにち田んぼで汗水たらして作業をして、黙々と働いているでしょう。たぶん。


秋の収穫時期になりました。秋晴れの真っ青な空の下で、大黒さんはお米を収穫します。収穫したお米を乾かして脱穀したら、冬のうちにワラで編んで作った俵に、収穫した新米を入れるでしょう。たぶん。そして出来たての新米を入れた米俵をヨイショヨイショと軽トラックへ運びます。なぜ軽トラックと断言するのか? お米を作っている農家さんに、軽トラックは必須だからです。軽トラがないと、作業できないから。ちなみに滋賀の農家さんは作業用の軽トラと別に、たいてい「お出かけ用の車」を持っています。お出かけ用の車って、すごい響きですね。ww 都会では考えられませんけれど、田舎で車は必要なのです。

一俵の米俵は約60kgです。重たい米俵を車の荷台に積んで、大黒さんは夜を待ちます。


大黒さんが夜を待つのは、たぶんじゃないです。確実です。そして暗くなるのを待って、大黒さんは静かに車を走らせます。誰にも見られないよう注意しながら、用心深く建物に車を寄せます。そしてヨイショヨイショと米俵を荷台から降ろして建物の玄関先へ置くと、そっと立ち去ります。


朝になりました。その建物に人々が出勤してきます。玄関先へ置いてある米俵を見ても、誰も驚きません。担当者は写真をパチリと撮影して、米俵はしかるべき場所へ置かれます。


数週間後、私は仕事から帰ってきました。ポストの中の郵便物やチラシを取り出して、家に入ります。ご飯を食べてお風呂に入った後にのんびりとチラシを眺めます。今週は町の広報誌が届いていました。町の行事や出来事などが書かれた記事をのんびり読みます。小さな町ですから、大した事件はありません。保育園のみんなでお芋掘りに行ったとか、お寺で柿がなったとか、ほっこりするニュースばかりです。そんな記事に混じって、町役場の玄関先に米俵が置かれた写真が載っています。大黒さんの米俵です。


記事:今年も匿名の方から米俵が届きました! 〇日まで町役場の正面玄関に飾ってあります。その後は福祉施設の利用者の方々で美味しくいただきます。善意の贈り物をありがとうございます!


大黒さんは毎年、町役場へお米を寄付してくださっているのです。ここまで書いて「ネットで調べたら、何かわかるかな?」思いついて調べてみました。ちゃんと載っていました!


さきほど「米一俵は60kg」と書きました。60kgが標準的な重さらしいのですが、大黒さんの米俵は90kgもあるそうです! 大黒さん、太っ腹です!! そしてこの匿名の善意は、1977年からずっと毎年そっと贈られているらしい! じつに45年!! 私が初めてこの記事を読んだ時は匿名の善意に感動したのと同時に驚きました。町民の皆さんも善意に感動しているのは同じですけれど、ずうっと続いているので驚きはないらしい(笑)。「今年もありがたいね~! お元気なんだろうね~!」という感じ。


せまい町なので私が本気を出して訊いてまわれば、誰が大黒さんなのかすぐにわかると思います。でも大黒さんはお米をそっと置くだけで名乗りを上げないので、匿名希望なのでしょう。皆さんもそれをわかっているので、大黒さんが誰なのか声高に言うこともありません。町のみんなが知ってる、町のみんなの秘密なのでしょう♪


この大黒さんに比べたら私が福引きで当たった景品を寄付するくらい、屁でもありませんよ! 自分で汗水流したわけでもないし、たった1回だけですもの! ちっちゃい善意です!! でもやらないよりはマシなので、機会があればまたどこかで善意を贈ります♡


大黒さんと「あなた」に、嬉しい善意が贈られますように☆ そして大黒さんと「あなた」が元気でいてくれますように☆

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