たぶん今頃の時期に起こったできごと 2
苦節30年かけてやっと自分のバイクを手に入れた私! 夢をあきらめなかったと言えばカッコイイけど、単にしつこいだけです!
商売っ気のないバイク屋さんのご店主がすすめてくれただけあってバイクは取り回しが楽で、コケても一人で起こせる重量だったから助かりました! ニンジャだったら一人で起こすのは不可能だったので、ご店主の言うことをきいて本当に良かった!
たまにパタン……とコケたりしながらも、楽しいバイク生活が始まりました。お仕事へ行くのも、お買い物へ行くのも、遊びに行くのもバイクと一緒です! スーパーで知らないおじいさんが「カッコイイバイクに乗ってるね!」と誉めてくれたり、道ですれ違うバイカーの方たちが手を振って挨拶してくれたり、バイクのおかげで楽しい思い出がたくさんできるようになりました♪
走っている間は楽しいことばかりですけれど、アパートで駐輪場にバイクを駐車するのは少し苦労していました。アパートにある屋根付きの駐輪場は、空いているスペースにバイクや自転車を置きます。誰がどこへ置くか決まっていないので、毎回置き場所を探さないといけない。空いている場所がない時は、何台かの自転車をヨイショヨイショと移動してスペースを作るのが面倒でした。
そうは言っても走り出せばバイクは楽しい! たんなる通勤でもバイクならちょっとした冒険になります♪ 仕事終わりにバイクに乗って、そのまま遠くへツーリングすることだってできる! 私は毎日ウキウキしながらバイクと一緒に過ごしていました。暑い日も寒い日もバイクと一緒です。 雨が降ってもバイクで出かける。バイクはすっかり私の生活の一部になりました。
そんなある日、いつものようにバイクでアパートへ帰ってきました。また駐輪場で空きスペースを探さないと……そう思いながら進入すると、ラッキーなことに広いスペースが空いていた。これはラッキー! 私は喜んでそのスペースにバイクを突っ込んで部屋へ帰りました。次の日も、その次の日も、広いスペースが空いています。自転車の台数は前と変わらないのに、なぜかスペースが空いてる。この頃、運が良いなぁ♪ 私はのほほんと喜んでいました。のほほんとバイクを何度も出し入れするうちに、ようやく気づきました。広いスペースのど真ん中に、いつでも一台の自転車があるのです。その自転車は紺色のピカピカした新しいママチャリでした。そのママチャリの左右に広いスペースが空いている。よく見ると他の自転車は出し入れするのが難しいくらいギューギューに詰まっています。こんな状態で自転車を出すのは大変なはずなのに、ママチャリだけが悠々とど真ん中に鎮座している。私はクビをひねりながら、ママチャリの横の広々としたスペースにバイクを駐車し続けていました。
今思えばそのオジサンは、いつも視界の端っこに映っていました。いつでも不機嫌な顔をして、アパートの駐輪場や階段で何をするでもなくこちらを睨んでいた。中肉中背のこれといった特徴のない50代くらいのおじさんです。しいて特徴をあげるなら不機嫌そうな顔をしているくらい。それ以外は特徴が見当たらないので、ぜんぜん気にしてなかった。そのおじさんが、私に何か言いたそうな顔をしていることに気づきました。常に不機嫌そうなので、どう考えても楽しいことを言われるとは思えない。メンドクサイことはまっぴらなので、私はおじさんの視線に気づかないふりをして足早に通り過ぎていました。
そういうことが何日か続いていたある日、私がバイクで帰ってくるとおじさんが駐輪場で作業をしていました。何をしてるんだろう? バイクで近づきながら見ていると、おじさんは駐輪場の自転車を何台も移動して、広いスペースを作っていました。そのようすを見てやっと気づいた! あのスペースは自然にできたスペースじゃなくて、おじさんが作ってたんだ!! 驚いて見ていると、おじさんはスペースのど真ん中へ紺色の新しいママチャリを置きました。なんてこと! 自分の新しいママチャリに傷がつかないように、勝手に他の自転車を移動してたんだ!
ムラムラと怒りが湧いてきました。たぶんおじさんは日本人です。そしてギューギューにされた自転車に乗っている方たちは、大部分が外国籍の方たちです。外国から出稼ぎで日本に来てくれて、お金がないから自転車に乗っている方たち。外国の方たちは日本でトラブルを起こすと在留資格を失ってしまうので、トラブルになるのを非常に恐れています。だからおじさんがムチャなことをしても、文句を言う人はいない。その証拠に自転車がギューギューにされて出し入れに苦労しているのに、いつでも広いスペースは空いたままです。外国籍の方たちが毎日の通勤に使う自転車も、小さな子を乗せるシートがついた自転車も、ギューギューに詰まっている。出し入れするのがどれだけ大変か、おじさんはわかってない。そして自分のママチャリを傷つけたくないばっかりに、外国の方たちの弱みにつけこんでいる!
頭にくるけど私は聖人君子ではありません。自分の生活で精一杯。申し訳ないがギューギューで困っている方たちのために、私がおじさんに意見する勇気は持ち合わせてない。ハラ立つわぁ~と思いながら、おじさんの作った広いスペースにバイクを乗り入れました。せっかく作ったスペースに私のバイクが侵入してきたので、おじさんはむっとした顔をしました。その時もしも目があえば、おじさんから文句の一つも言われたでしょう。でも私は関わり合いになりたくなかったので、フルフェイスのヘルメットを装着したままその場を去りました。私に何か言ってもヘルメットで聞こえないフリ作戦です。そして私のバイクは重いので、おじさんが勝手に移動するのは不可能! 申し訳ないが、自分のことで精一杯です! 他の方のことまで気を回す余裕はありません!
その日から、おじさんの出没する頻度が増えました。そしてあからさまに私を睨む! 明らかに不満を持っている顔です。前から不機嫌な顔でしたが、いっそう不機嫌になってる! 私はアパートの住人の方には国籍問わずご挨拶をしますけれど、このおじさんに挨拶する気にはなれない。ヘルメットをかぶったまま知らん顔で通り過ぎる日々でした。
そうこうしているうちに、不思議なことが起きるようになりました。私のバイクのキーロックが勝手に移動するようになったのです。キーロックは30cmくらいで重さは1kgあります。風で移動するわけがない。他の方のジャマにならない場所に置いてお出かけしても、帰ってくると移動している。それもちょっと動いたとかではなくて、しばらく探さないと見つからない場所に動いている。証拠もないのにおじさんを疑ったりしちゃいけないわ。きっと子どもが遊んでいて動かしたのか、カッパ(!?)のせいよ。でも子どもやカッパのせいにしては、回数が多すぎるよなぁ……。私はモヤモヤしながらキーロックを探す日々を送っていました。
ある日、私が仕事から疲れて帰ってくると、おじさんがボーっとフェンスの向こうを見ていました。雨が降り始めたのであわてていた私は、いつもよりバイクのスピードを出していた。急に現れたバイクにおじさんは驚いて、はっとした顔をしました。また睨まれるんだろうなぁ、イヤだなぁ……そう思っていたのに、なぜかおじさんはそそくさと立ち去りました。珍しいこともあるもんだ……。
バイクを駐車して周囲を見回します。今日もキーロックがない……。しばらく探しても見つかりません。雨はポツポツ降ってくるしイライラします。もしかして……。でも疑うのは良くないよなぁ……。でも確かめるだけなら……。私は2mくらいあるフェンスをガシガシ登って、フェンスの向こうへ降り立ちました。そしておじさんが見ていた方向へ向かって歩き出した。しばらく歩くと高くはえた草の間に、私のキーロックが落ちていました。ほとんど濡れてなかったので、キーロックが投げ捨てられた直後に私が見つけたことになる。
おじさん、私のキーロックを投げ捨てたね……。投げた直後に私が現れたから、あわてて逃げたね……。でも投げた現場を見ていないので証拠はありません。問い詰めても知らんと言われればそれまでです。ちきしょう……! 今まで疑っちゃいけないと思ってたけど、やっぱりアイツが犯人だったか!
でもトラブルになるのはイヤだしなぁ……。困ったもんだよなぁ……。
そして数日後、私は駐輪場で言葉を失ってボーゼンと立ち尽くしていました。目の前にあるのは、いつもと同じ広い空きスペースです。でもママチャリの向きが変わっていた。傍若無人とはいえ今までは他の自転車と同じ向きで駐輪していたママチャリが、横向きになっていたのです!
今までの並びは、こうなっていました。
-----------(壁)-------------
自自自自 マ 自自自自
転転転転 マ 転転転転
車車車車 チャ 車車車車
リ
ところが今日は、こうなっていたのです!
-----------(壁)-------------
自自自自 自自自自
転転転転 ママチャリ 転転転転
車車車車 車車車車
意味、通じます? 今までは曲がりなりにも他の自転車と同じ向きで駐輪していたのに、自分のママチャリだけ横向きにしやがったのですよ! どんだけ迷惑かけたいんだ!! なんでこんなバカなことをしているんだ!?
しばらく考えて、やっとわかりました。おじさん、私のバイクを駐車させたくないんだ! だからこんな傍若無人な置き方をしてるんだ!! たしかにこれなら私のバイクを置くことはできません!
私を排除したいからアレコレしてたのに、排除できないから実力行使に出たのか!?
離婚で傷ついて理不尽な職場でもみくちゃにされて、生活してゆけるかわからない不安を抱えている私の何かがプチンと音をたてて切れました。私の事情だけでいっぱいいっぱいなのに、ワケわからんオヤジのワガママに付き合う余裕なんて無ぇんだよ!!
私は道端にバイクをとめると、歩いてママチャリに近づきました。オヤジは腹立つが、このママチャリに罪はありません。私はそうっとママチャリを持ち上げると、傷付けないよう細心の注意を払って移動しました。そして自分のバイクをとめて、駐輪場を後にしました。その配置は…………、
-----------(壁)-------------
自自自自 ママチャリ 自自自自
転転転転 私のバイク 転転転転
車車車車 車車車車
おわかりになりますでしょうか? 壁際にオヤジのママチャリを寄せて、私のバイクで蓋をしたのです。私のバイクを動かさないとオヤジのママチャリを出すのは不可能!! 他の自転車の間にスペースがあれば自転車を動かして隙間を作って脱出することはできるが、オヤジがギューギューに詰めているので、隙間を作る余地なんてありません! まさに自業自得!! 自分のやらかしたことをじっくり考えるがいい!!
そして魅惑のゴールデンウイークに突入しました。私はツライ仕事へ行かなくていいことに狂喜乱舞して、見事な引きこもり生活へ突入しました。部屋から一歩も出ずに大好きな部屋でウキウキと長いお休みを堪能したのです。あまりの嬉しさにオヤジへの怒りはすっかり忘れて、それと一緒にママチャリのことも完全に忘れ去っていました。
一連のできごとを思い出したのは、長い休みが終わってからでした。出勤するため憂鬱な気分で駐輪場へ出向いてやっと、自分がやらかした暴挙を思い出した。オヤジもたいがいだったが、私のやらかしたこともヒドイやろう……。あんなにピカピカだったママチャリは、ホコリをかぶっていました。
ママチャリ、ごめん……。そう言いながらバイクに乗って出勤しました。
その後、オヤジからの報復を覚悟していましたけれど何もありませんでした。オヤジが他の自転車を勝手に移動することはなくなり、オヤジのママチャリは他の自転車と同じように駐輪場に並ぶようになりました。
その頃には私のバイク技術も向上したので、もう少し難易度の高い駐輪場へとめられるようになりました。そうは言ってもそっちだと一瞬の油断でコケるので、その後3度ほどコケてしまうのですが、オヤジにひどいコトをした罰だと思って甘んじて受け止めることにしました。
オヤジ、あの時はごめんやった。私に余裕がないばっかりに、ヒドイことをしてしまった。
この場を借りて謝ります!!
そしてこのエッセイをお読みの皆さまは、楽しい一日をお過ごしください♪
私は一所懸命にバイトしてきます!!




