たぶん今頃の時期に起こったできごと 1
一つ前のエッセイは前置きにするつもりで書いていましたけれど、どう考えても今回のお話とつながらないので別々に書きます。行き当たりばったりで、すみません。
このお話は急に思い出したお話なので、たぶん何年か前の今ごろの時期に起こったことだと思います。
あったかい風とか恵みの雨の思い出が、この話を思い出させたのでしょう。でもぜんぜんイイ話じゃないです。どちらかというと残念な話です。反省しています。私の悪事の話です。
数年前にアパートへ引っ越してきた頃、私はギリギリの精神状態でした。二度目の結婚に失敗しただけでもショックなのに、仕事がしんどい。今までは夫に頼り切りだったお金も生活も、すべて自分で何とかしないといけない。何とかしないといけないけれど、何とかできるのか? おそらくこの頃の私は神経質になってピリピリしていたはずです。
元夫が親切でくれた新しい車は、さっさと売りに出しました。維持するのが難しい大型車でしたし、当座の現金が欲しかった。代わりに私は中古のバイクを買うために、バイク屋さんへ行きました。
中古のバイクで思い出した出来事が……。もともと私は450ccの「ニンジャ」を買うつもりだったのです。Kawasakiのニンジャ、めっちゃカッコイイんですよ! ずっと憧れてたバイク!
このニンジャを買いに行くのに、30年以上もかかったのです! 30年以上もあきらめずにしぶとく夢を実現するチャンスをうかがっていた! 私、しつこいな!!
バイクに乗りたいと思ったのは高校生の頃です。私の通っていた高校は大らかな校風で、バイクの免許取得は許されていた。だからバイト代を貯めてバイク免許を取りに行くと言ったら、家族たちから大反対されました! 親の保護下で免許を取るのは難しいと判断した私は、夢をあきらめずに大人になるのを待ちました。
高校を卒業してすぐ就職しました。親の家で暮らしているとは言え、お給料を頂けるようになった! バイクの免許取得のためお金を貯めて、準備万端で自動車学校へ入校手続きに行きました! ちょっと心配だったのは、私の父がそこで教官をしていたことです。父は私がバイクに乗るのに大反対で、バレたらきっと阻止される。でも近隣でバイクの免許を取れる教習所はそこだけだったので、選択の余地はない。そうっと入校してしまえばこっちのもんだと、私は誰にもナイショで手続きへ行きました。
入校手続きは着々と進み、この調子なら無事にいけると喜んでいたら、事務所に激怒した父が乱入してきた! なんでバレたんだ!?
じつは私、小さな頃から教習所に出入りしていまして、父の同僚である教官の皆さまは小さな頃から私を知っていたのです。ちびっこだった私が大きくなって、バイクの免許を取りに来た……。あのマチちゃんがバイクの免許……大丈夫か? 教習所の教官全員が親のような気持ちで私を心配した結果、父のもとへ「マチちゃんがバイクの免許取りに来とるで。お父ちゃん、知っとるんか?」そう言いに行った方が複数……。寝耳に水の父は事務所で激怒して私を怒鳴りました。
父:ぜったいにバイクは許さん! 帰れ!!
普段は温厚で無口な父ですが、キレたら何をするかわからん父です。このままでは危ないと教官の先生たちが割って入ってくれます。でも全員が私の親みたいな人なので「マチちゃん、バイクはやめときな」「バイクは危ないけん、やめときぃ」そう口々に言う。あんたらバイクも教えとるやろ!? 言ってる事とやってる事がちがうやんけ! そう言いたいが全員バイクに反対している。孤立無援で追い詰められた私は、大泣きしながら家へ帰りました。
次のチャンスは結婚して家を出た時でした。実家から遠くなったので、父と関係ない自動車学校へ行ける! 一人目の夫(← この書き方もどうかと思う)は心配して乗り気ではありませんでしたが、しぶしぶ許してくれました。大喜びで教習所へ通いだした結果、教習中にコケてバイクが足に乗っかり、足の骨が潰れてしまいました。足はパンパンに腫れあがり、周囲からは「言わんこっちゃない!」と叱られ、私はションボリです。そして半年ほどションボリして休んでいましたが、また教習所通いを再開してバイクの免許を取得しました!!
でも一人目の夫も、二人目の夫(← この表現もどうかと思うが)も「危ないからバイクに乗るのは反対!」そう言って、断固としてバイクを買うのを禁止した。自分のお金でバイクを買うとしても、生活費は夫から出してもらっている状態です。そんな状況でワガママを言うのは良くない気がする……。そう言っているうちに時は流れ、40代になった私は二度目の離婚をして独り身になったのでした。
今ならバイクに乗れる! 誰も反対する人はいない!! こうして苦節30年くらいして、やっとバイクを買いに行くことができたのです!! ここまで長かったな~!!
家の近所のバイク屋さんへスキップして突撃しました。新車を買うのはムリなので、中古のニンジャが欲しい! そのバイク屋さんは中古のバイクも販売していて、私が欲しいニンジャが置いてあるのはリサーチ済みです!!
ソウ:こんにちは! このバイクをください!!
実直で真面目で無口でおだやかなご店主が出てきました。たぶん私と同じ40代くらいかなぁ? いつもお店でバイクを整備していて、その両手は真っ黒です。ご店主は油のついた手で、ニンジャを指差します。
ご店主:このニンジャですか?
ソウ:そうです!
中古とはいえニンジャは人気車種なので高価です。80万円くらいする。お金はないがニンジャに乗りたい! 私はワクワクした顔で元気よく返事をしました。
ご店主はなぜか私をじっと見つめます。頭からつま先までじいいっと見ると言った。
ご店主:こっち、こっちに来てください。
ニンジャから離れてお店の奥へ歩いてゆきます。なんだ? どうした? 私がトコトコついてゆくと、ご店主は白いバイクの前で立ち止まりました。
ご店主:これ、こっちのバイクにしなさい。
そのバイクはニンジャよりも小さくて、ニンジャよりもずっと安いバイクでした。ホンダの……、すみません。車種は忘れてしまった……。250ccのバイクです。
ご店主:ニンジャは大きいから危ないから。これならニンジャより危なくないから。
なんとご主人! お店の利益より私の安全性を考えて、ニンジャより安いバイクをおすすめしてくれたのです! 黙って売れば大儲けでしょうに、それを良しとしなかった! なんて正直な方なんだ!
その心意気に感動して、私は即決でそのバイクを買いました。ニンジャも素晴らしいバイクだけれど、素晴らしいご店主がすすめてくれるバイクなら、きっと素晴らしいに決まっている!!
最後にバイクに乗ったのは30代の頃、ほんの1ヶ月だけでした。どれがアクセルでブレーキかも忘れていましたけれど、カラダってすごいですね! カラダがちゃんとおぼえていました! 何も考えなくても、カラダが自然にアクセルやブレーキを操作してくれる!! やっと自由にバイクに乗れる! 私はウキウキしながらアクセルを踏んで、親切なご店主に別れを告げたのでした。
(すみません。また本題に入ることができませんでした……。続きます)




