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大人の社会見学

 今日は長文ですよ……! なんせ心から感動しましたもの!!


大人の社会見学に行ってきました! 大人の……。いや、べつにエロくないです! ステンレスで私のしおりを作ってくださった山脇バネ製作所さまへ見学におじゃましたのです!


 きっかけは私がウッカリ栞を大量発注したことでした。社長様やツイッターの中の人(アダコさん・男性・仮名)とやり取りするうちに、栞の作成現場が見たくなった。おそるおそる見学をお願いすると「大歓迎です!」そう言ってくださった! ありがとうございます! 


 行きたい気持ちはやまやまだが、引きこもり & 人見知り なので勇気が出ない。そのうち原稿の追い込みや就職活動が始まって、気持ちに余裕がなくなってしまった。やっと一段落した頃に栞が完成して送られてきた。その時にお優しい社長様が「見学はいつでも大歓迎です」と一言添えてくださった! 今がチャンス! 行きたい! でも一人で行く勇気はない! ウジウジしていると作家仲間のやすいやくしさんが、何気ないメールをくださった! なんてラッキー! じつは私、ずっとやすいさんを狙っていたのです!


 最初に会社見学のお許しをいただいたのは1月です。その時からずっと「やすいさんが付き添ってくれるなら行きたいけどさ~!」そう思っていた。それなら社長様に付き添いOKか、やすいさんに付き添ってくれるか訊けって話ですけれど、誰にも言わず心の中で「やすいさんが来てくれたらいいのに~!」と考えていた。ウジウジしながら3ヶ月が経過して栞は完成し、素晴らしいお品が届いた! 完成度の高さに大喜びしている最中に偶然!やすいさんからメールが来た! これはチャンス!


ソウ:山脇バネさんへ見学へ行きたいのですけれど、一緒に行きませんか?


私は製造の現場が大好きです!できれば見学させていただきたい!でもやすいさんは興味がナイかもしれない。おそるおそるメールを送るとソッコーで返事が返ってきた。


やすいさん:行きたいです!


やった~!あわてて山脇バネさんにお友達も一緒にいいかお尋ねして、無事にOKをいただいた!

そして次の段階のウジウジに突入しました。私めちゃめちゃフレンドリーですけれど、めちゃめちゃ人見知りなのです。以前に働いていた職場で、まいにち女子たちとお弁当を食べていましたけれど、ずっとキンチョーしていた。リラックスしてお弁当を食べられるようになったのは、就職してから2年後でした。じつに2年間ものあいだ、ずっとキンチョーしていた。楽しくおしゃべりしているし、実際に楽しいのですけれど、キンチョーしてしまうのですよ……。


今回の社会見学は、それよりキンチョーする。メールでやり取りしているとはいえ、やすいさんとお会いするのは二度目、山脇バネの社長様とアダコさんに至っては初対面です。オレ、大丈夫か?

二日前からキンチョーして落ち着かない気分で過ごす。以前の私なら体調を崩していたでしょう。でも私も成長しました! 慣れない講演会やテレビ出演で上や下がゲロゲロのピーピーを繰り返すうちに、少しずつキンチョーしなくなってきた! 素晴らしいけど嬉しいけど、誰とも会わない引きこもりがいきなり講演会とかテレビって、どうなのよ? 刺激が強すぎるでしょう!?

でも何度もゲロゲロ、ピーピーした甲斐はありました! 今回はわりと平気! ゲロピーくらいでおさまった! (← 症状がなくなったワケではない)


眠れぬ夜を過ごして(平気と言いながら眠れなかったww)当日の朝を迎えます。お支払いのお金は持ったし、手土産も準備した。やすいさんにプレゼントする栞も持ったし、栞に付けるリボンもあります! 就職活動のおかげで顔面加工(お化粧)の方法も無事に思い出したしカンペキです!

張り切って出発しました。


電車で草津方面へ移動します。電車に乗るのも久しぶり! 流れてゆく風景をキョロキョロ見つめる。無事にやすいさんと合流して、車に乗せてもらいます。実際にお会いしたのは一度だけですけれど、メールやツイッターで優しい方だというのは十二分にわかっているので怖くない! 何よりやすいさんが社会見学を、私と会うのを楽しみにしてくださっていたのがわかる! 嬉しいです!


車の中から社長様へ電話をする。寡黙な社長様に「今から伺います!」と言うと…………、


社長様:………………うちの会社はわかりにくい場所にあります…………。

ソウ :ナビが連れていってくれるから、大丈夫です♪

社長様:………………がんばってください…………。


なぜか激励された。なんでだろう??

答えはすぐにわかりました。ナビには反映されない困難が待ち受けていたのです! 道がせまい! 曲がり角が多い! 交通量が多い! 対向車とすれ違えない! どうしたらいいんだ!?


私は助手席に座っているだけなのに冷や汗が滝のように流れます。運転してくださっているやすいさんの動揺を想像すると申し訳ない! せまい道で対向車に道を譲るためにバックしたり、横の道に入り込んだり、そうしていると袋小路に迷い込む。なんとかバックして元の道に戻って進むが、また道を間違えてオタオタしていると対向車が来る! キイイ!!! 行ったり来たりを繰り返して、少しずつ目的地へ近づきます。キレイなおうちが立ち並ぶ住宅地を、ひたすらウロウロする。こんな住宅地に会社があるのかしら? ナビの言うとおりに進むと、また袋小路に行きあたった。そしてナビが「目的地に到着しました! 運転おつかれさまでした!」と言って黙り込んだ。待って! 会社なんて見当たらないんですけど!?


家の立ち並ぶ袋小路でボーゼンとします。もう帰りたい……(涙)。おうちに帰りたい……(涙)。

こんな調子じゃたどり着けないよ。社長様はがんばれと言ってくださったけれど、もうムリです(涙)。


やすいさん:ありました! きっとあそこが会社ですよ!


やすいさんの指さす方向を見ると、家々の間から会社らしき建物が見えた。言われたからそうかなと思うけど、言われなかったら気づかなかった。やすいさん、スゴイ! ヨイショヨイショと車をバックして袋小路を脱出して建物へ近づいてみると大正解でした! 車を降りて建物を見上げる。1階はシャッターが下りていて人の気配がない。


やすい:静かですね……。


まかせてください! 引きこもりで人見知りですけど、こういう状況は得意なんです! 私はズンズンと建物に近づいて勝手にドアを開けます。もしかしたらインターホンがあったかもですけれど、気にしない! ドアを開けると階段でした。やはり人の気配はしない。私はかまわず声を張り上げます。「こんにちは~!!」言いながら勝手にスリッパを出す。初めてお伺いする会社なのに、勝手に上がりこむ!! 


二階から美しい & 優しそうな女性が降りてきてくれました。


ソウ:今日はお世話になります! よろしくお願いします!


ご挨拶をしながら、自分の家かっていう勢いでドカドカ二階へ進む。引きこもりで人見知りですが、キンチョーの限界を超えるとリミッターが振り切れてフレンドリーになるのです!

あたたかく迎えてくださった社長様にご挨拶をして、お礼を伝えます。やすいさんをご紹介して、和やかに美味しいお茶をいただく。美しくて優しい女性が淹れてくださったお茶だと思うのですけれど、なぜかやたらと美味しかった! ごちになります!


寡黙な社長様ですが知識と経験は素晴らしい方です。訥々(とつとつ)と会社の製品や技術のお話を聞かせてくださいます。栞はステンレスの板にレーザービームで私の名前を掘り抜き加工していて、レーザーの仕組みなどを説明してくださる。詳しいことはわからないが、すごい技術らしい。すごい技術の機械ですから、高価なのでしょうね?


社長:…………家が買えるくらいの値段です…………。


社長様は高額な機械を自慢するでもなく謙虚にそうおっしゃいましたが、見た目はたおやかで優しいやすいさんも、野良犬みたいな私も作家です。迷うことなく切り込む!


やすい&ソウ:具体的にはおいくらですか!?


聞くなよ! そんな生々しい質問をするなよ! でも訊きたい!


社長様:…………〇〇万円くらいです…………。


家が買えるっておっしゃるから1軒かと思っていたら、何軒も買えますやん! どえらい金額ですやん!


二人で社長様を質問責めにしていると、ツイッターの中の人アダコさん(男性・仮名)が来てくださった。


ソウ:アダコさん、どんな顔なの? マスク取って見せて!


初対面です。それなのにタメ口。どんだけ失礼なんだ! この様子を見ていたやすいさんは、アダコさんと私はてっきり友達だと思ったそうです。友達どころか、初対面です。引きこもりなのにフレンドリー。フレンドリーを超えて厚かましいわ!


アダコさんは怒るでもなく、マスクを取ってお顔を見せてくださいました。めっちゃ若く見える! キイイ!! くやしい!!


おお、そうだ! 大事なことを忘れていました! 私はカバンから封筒を出します。中にはやすいさんのお名前が彫られた栞が入っています。せっかく見学をお許しいただいたので、作ってくださった方の目の前でやすいさんにお渡ししたかった。やすいさんは封筒から栞を出すと声をあげました。


やすい:……すごい! すごいです!


さすがの作家さんも、本当に感動すると言葉が出なくなるらしい。言葉にしなくてもお顔の表情や目の輝きから心底喜んでくださっているのがわかります。そのようすを見た社長様とアダコさんも、目尻を下げて嬉しそうです♪ 見ている私も嬉しいです♪ ありがとうございます♪


じつは私、すごくシンプルなデザインでやすいさんの栞をお願いしていました。ゴシック書体で「Yasui Yakushi」注文したのはこれだけです。けれどもアダコさんはやすいさんの御本などを調べて、やすいさんのイメージを膨らませて、イメージに合う書体にしてくださった。そして可愛い肉球のデザインもあしらってくださった。アダコさん、バリバリの技術者です。デザインは専門外! それなのに素晴らしいデザインを考えてくださった! やすいさんも大喜びです! そのやすいさんを見るアダコさんも社長様も喜んでくださっている! 良かった! 本当に良かった!! 私がウッカリ大量発注して、本当に良かった!(← それはちがう)


アダコさんはわかりやすく、レーザー技術や金属に着色する技術を教えてくださいました。レーザーで金属に微細な削りを入れると、角度や彫りによって金属の色が変わるらしい……。よくわからんが、すごい技術や……。そしてアダコさんは、その加工ができるマシンが欲しくて仕方ないらしい。社長に「そのマシンを買ってください」とお願いしている。


やすい & ソウ:そのマシンって、おいくらなんですか?


二人の作家魂がうずく。ww 部外者なのに一片の迷いもなく切り込む二人。ww


社長:…………〇〇万円です…………。

ソウ:働いて返しますから! アダコが200年働いて、分割で会社にお支払いしますから! だからマシンを買ってください!


なぜ仕事で使うマシンを彼が買わないといけないんだ! あと呼び捨てにすんなや! 彼と私は初対面やぞ! 失礼やぞ!!


その後も専門的な知識をわかりやすく(でもわからんかった!)、お二方はレクチャーしてくださいました。聞けば聞くほど奥深い世界です。そして聞くほどに、実際の現場が見たい……。


ソウ:あの……。厚かましいお願いですけれど、レーザーマシンで実際に加工する現場を見せていただきたいのですが……?


厚かましい私も、さすがに腰が引けます。だって企業秘密が満載の現場に入れてくれってお願いするのですから。そもそも聖域に入れてくれとお願いすること自体が、すごく失礼だと思うし……。でも見たい! 実際に見てみたい!!

そして希望は実現しました! 実際に見せてもらえたんです! 感謝です!!


聖域にあるマシンへ案内される途中、幾人かの女性従業員の方がいらっしゃいました。どなたもにこやかにご挨拶してくださって、お美しい & 可愛らしい …………。もしかしたらこの会社、見た目で採用してる?(← ちがう)ご挨拶をしながら歩いていると、気になるモノがあった。あちこちに絆創膏が置いてある。なんでこんなにたくさん置いてあるんだろう??


デカイ & 高価 & 難しそう なマシンがズラっと並んだ一角に、そのマシンはありました。そのマシンを操作することができる男性お二方(二人とも知的な方だった!!)が実演してくださったのです! パソコンからマシンにデータを送って、マシンの電光表示で色々と設定をする。横で見ていたのですけれど数字の羅列がすごくて何をしているのか一つもわからない! 切ったり削ったりする設定の数値はミリでなく、ナノとかピコの世界らしい。髪の毛よりも細い加工です。超絶に細かすぎて想像もできない……。


アダコさんから警告を受けます。


アダコ:レーザーは見つめると目に害を及ぼすので、できるだけ見ないでください。


わかりました! 作家は目が命ですから見ません!! 絶対に見ないです!!


難しそうな設定をたくさんして、置き台にステンレスの薄板を置きます。最先端の技術なのに、置き台に薄板を固定するのはガムテープです! そこはアナログなんだ! ちょっとほっこりする♪


いよいよ加工が始まります! ステンレスの板の上に、いかにもレーザービームが出そうな精緻な機械がウイィ―ン……と移動してきた! そして目を突き刺すような閃光が! レーザーの発射口とステンレスの薄板の距離は、数ミリだと思います。だからレーザー光線はほとんど露出してないのですけれど、それでも刺さるような光がほとばしって見えます。直接太陽を見ようとしても眩しくてみられないでしょう? あの太陽の光よりも眩しい光が出ている。私は1メートルほど離れた距離から見ていましたが、それでも目が灼ける感じがした。それなのに、最初から最後までガン見でした。見てはいけないとわかっているのに一生に一度の経験だと思うと貴重で、目を離すことができませんでした。


出来上がったのは、私の名前の栞でした! 一枚の板が、ちゃんと栞の形に切削されてる! そして「Thank you ! ソウ マチ」って彫り抜かれている! すごい!!


感動して栞を見ていると、社長様が急に私へ手を差し出しました。


社長:…………コレ…………。


社長様の指先に何かくっついてる。なんだ? つまみ取ってみると「ウ」でした。5ミリくらいの大きさの「ウ」の文字でした。?? この「ウ」は何だ??


社長:…………いま切った栞の文字です…………。


えええ!? こんなにキレイに残るんですか!? じゃあ他の文字も残ってるんですか!?


社長:…………マとチはあります。でもソはバラバラになる……。

ソウ:ほしいです! マとチがほしいです!


すると社長様とアダコさんと技術者のお二人、合計4人ものイケメンがマとチの捜索を始めてくださった! 置き台には他の作業の切片も大量に落ちていますから、簡単に見つかるはずがない! ごめんなさい! いいです! 立派な方を4人も動員して私の名前を探してもらわなくていいです! やめてください! 必死で止めましたが、さすが全員技術者です! いったん目標を持ったらあきらめない! 止める私を無視して見つけ出してくださいました! かたじけない! 感謝です!


出来立ての栞と、見つけてくださった「マ」と「チ」と「ウ」を大事に手帳にはさみます。今日の思い出に取っておこう!!

手帳にはさむ時に、栞の側面が尖っていることに気づきました。栞なのに、まるで刃物のようです。先日私が受け取った完成品は、こんなに鋭くなかった。あっちなら振り回してもケガをすることはないはず。でもこの栞は、大根くらいなら余裕で切れそうな感じがする……。


そこでやっと気づきました。あちこちに置いてある絆創膏は、従業員の方が製品で手を切った時に使うモノだったのです。完成品で客がケガをしないよう従業員の方が製品を安全な角度まで削ってくださっていたのでした。私がお願いした栞だけでも200枚です。200枚の外周を削って、文字の一つひとつをすべて削って、ヒモを通す穴だって削る。たった200枚でも気が遠くなる作業です。そしてこの会社で作られる製品の量は、もっともっとずっとずっと多い。


誰かがケガをしないために、従業員の方が手に傷を負いながら削ってくださっていたのです。その過程で切った傷に貼るための絆創膏。あちこちに置いてあるのは、それだけケガが多いから。私たちのために、人知れず傷を負っている方々の存在に初めて気づきました。今までそんな方がいると想像したこともありませんでした。私たちの安全のために、ケガをしている方がいる……。お礼を言うだけではとても足りない。でもこの感謝の気持ちを表わす言葉が見つからない。


何気なく使っている日々のモノたち、スマホも車も冷蔵庫も洗濯機もパソコンもイスも家だって道路だって橋だってビルだって飛行機も船も宇宙ロケットだって、モノづくりをする方々の心意気でできていると気づきました。技術や機械が製品を形作っているのは、ほんの一部です。もっと安全に、便利に、人々の生活を向上させようとする心意気が、今の私たちの生活を支えてくれていたのです。


この文章を書きながら、モノづくりをする方々への感謝や尊敬の気持ちをどんな言葉で表せばいいか、ずっと考えています。でも気持ちが深くて大きすぎて、表せる言葉が見つからないです。いつかその言葉を見つける日まで、私はお話を書こうと思います。そして敬愛するその方々がちょっと笑ってちょっと愉快になって「明日も仕事がんばろう!」そう思えるお話を作りたいと思います。


親愛なるモノづくりの現場で働く方と、ここまで読んでくださった「あなた」にイイコトありますように!! 心から願っています!!!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] うわあ!!急に感動巨編が始まった!! いや……いつも感動をいただいているんですけど、今回は特に素晴らしかったです(´艸`*) 経験は黄金の価値がありますね(≧▽≦)
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