ご趣味は?
むかし、むかし。
あるところにお母さんがいました。お母さんはなぜか娘はまともな結婚ができないと思い込んでいて、娘が結婚できるようにあちこちからお見合い話を見つけてきては、娘をお見合いの席へ送り込んでいました。
ごきげんいかがですか? あちこちのお見合いの席へ送り込まれたソウ マチです。
あの一連の動きは何だったんだろう? 母の「娘はまともな結婚ができない」という読みはある意味当たっていました。お相手はまともで良い方だが、私に結婚生活を続ける能力がなかった……。でもそれって、お見合いでどうこうなる問題じゃなかった気がする……。
お見合いで耳にタコができるほどされた質問は「ご趣味は?」です。当時は狂ったように読書をしていましたから笑顔で「読書です♪」そう答えていました。ウソじゃない。でも趣味なんてぬるいモンじゃない。本が読みたいばっかりに正社員を辞めて、起きている時間はずうっと本を読んでいた。寝るまで本を貪り読んで、目がさめた瞬間には枕元の本を手に取って読んでいた。私の生活は本を中心に動いていました。
本が中心の生活はずうっと続いていましたけれど、自分の本が出版されてから変化しました。田舎なので書店様や図書館に顔バレしてしまったのが主な理由です。自意識過剰なので「この本が読みたい……でも、私がこの本を読んだと知られるのはイヤ……!」そう思っているうちに、本を読まない生活になってしまった。もう一つの要因は「無意識の盗用」を恐れてのことです。心が揺り動かされる作品を読んだ結果、無意識にパクってしまうかもしれない。自分で気づかないうちに、他の方の文章を真似てしまうかもしれない……。そう考えると怖くて、本が読めなくなってしまった。
ですから読書は、私の趣味から除外されてしまいました。
昨日も朝からパソコンへ向かって、ヨイショヨイショとお話を書いていました。異世界のお話を書いて、このエッセイを書いて、お仕事のメールを書いて、頭をフル回転していた。そして「もう頭は使えない……」脳だけクタクタに疲れた状態でスポーツジムへバイトに行った。
お掃除が主な仕事だと言われていましたけれど、とんでもなかったです! 今は見学案内やレジ、マシンの使い方などを教えてもらっています! 見学案内はスムーズにいっても最低40分! その間に膨大な情報を説明しないといけません! おぼえるセリフの量がハンパない!!
そしてレジ! じつは他界した父の遺言で、今までレジの仕事を一度もしたことがないのです!
父は生前からずっと言っていました。「金が関わると人は変わる。だから金に関わる仕事はするな!」そう言い続けていた父は自動車学校の教官だったので、お金に関わることなく一生を終えた。私も官公庁とかにいたので、お金をさわる機会はなかった。でもクソ貧乏になってしまったので、そんなゼイタク言ってられません! レジでも何でもさせてください!
やる気だけはマンマンですが、知識と経験がついてこない……(涙)。レジの触り方だけでもおぼえるのに一苦労なのに、今はクレジットカードとか電子マネーとかあるんですよね……(涙)。私は現金払いしかしない主義なので、そういう世界はさっぱりです。
先輩:LINEマネーとかもありますよ。練習をかねて、そのへんから初めてみたら?
すみません……。そもそもLINEをしていません……(涙)。カンベンしてください……(涙)。
マシンの使い方……(ため息)。先日ハロワの適正診断で「興味のないコトには、とことん興味ない」そう断言された。そして私はマシンに興味がない。運動にも筋肉にも興味がない。ジムで身体を鍛えているお客様の意識の高さやストイックさは尊敬しているが、マシンには興味ない。でもお客様にマシンの使い方をレクチャーするのも仕事のうちです。何度も使い方を教えてもらっているのですけれど、何度聞いても忘れてしまう……(涙)。
レクチャーを受ける間にお掃除もします。今は2時間かけている各所のお掃除を、半分の時間でできるようにと言われている。素早くキレイにするため夢中になっていたら、ありえない近さで便器を見ながら拭いてる自分に気づきます。ww 顔が写るくらいキレイ、キレイします♪ 真剣にお掃除していると、便器とか床が喜んでいる感じがしませんか? 「キレイにしてくれて、ありがと~♪」そう聞こえてくる時があります。喜んでほしいから頑張るぜ!!
朝から頭をフル回転して文章を考え、汗だくになりながらお掃除をして、冷や汗ダラダラでレクチャーを受けます。やっと終業時間が来た! 明日から2連休!! 私、よく頑張った!! ノドをゴクゴク鳴らしながら冷たくて美味しい水を無心で飲んでいると、急に店長に話しかけられた。
店長:ソウさんのご趣味は?
店長はコンプライアンスに厳しい方で、訊いてはいけない質問は一切なさいません。コンプラを遵守しつつ新人の私の緊張をほぐそう、楽しく働いてもらおうと心を砕いてくださっています。ですから「ご趣味は?」という質問はナイスな質問です。ふつうは訊いても問題にならないし、話が広がりやすいから。
でも…………。私は自分の顔色が変わったのがわかりました。読書と答えるわけにはいきません。ウソはいけない。次に思い浮かんだのは酒とタバコです。でも猫をかぶりまくって働いているので、言えば驚かせてしまう。私は一日にタバコを一箱吸います。ヘビースモーカーとまではいかないが……
ここまで書いて「ヘビースモーカーって、どれくらいの量だろう?」そう思って調べてみたら「一日に紙巻きタバコを一箱以上吸う人」ってネットに書いてありました……(涙)。私、ヘビースモーカーでした……(涙)。知りたくなかった……(涙)。
タバコはヘビースモーカーです! こうなったら開き直ります! 私はべつに知られてもかまわん! でもなぜか喫煙者だと言うと、相手がすごく驚いたりガッカリするのです。「とてもタバコを吸っているようには見えない! そんな人には見えない!」見えようが見えなかろうが吸っているのですけれど、この反応は私の書いた字を見た方と同じなのです。
「そんな字を書く人だとは思ってなかった……。ガッカリした……」
ええ私は字が汚いですよ! ものすごく頭が悪そうな字を書きますよ! どんなに素晴らしいことを書いても説得力ゼロの字ですよ! だからってガッカリされたら私もガッカリするんですけど!
字は汚いし、タバコは吸いまくりですけど、飲酒はそれを上回るのですよ! 「アル中みたい」なんてバカにしないで頂きたい! 「みたい」じゃなくて「本物」ですから! 本物のアル中ですから! なんなら断酒の自助会に参加してましたから! そっちでは結構な有名人でしたから!! そして断酒に失敗して今に至りますから! ありえない量を飲んでますから!!
……言えない……。タバコと酒が趣味なんて言ってしまったら、ガッカリ & 驚かせてしまう……。そしてまた「ヘンなこと訊いてごめんね」って謝罪されてしまう。それは避けたい! せっかく距離を縮めてくださろうとしているのに、気まずい思いをさせてしまうのは避けたい!
じゃあ、あれか? 「お話を書くのが趣味です♪」って言うのか?? 「小説家になろうっていう場所で毎日エッセイを書いてます♪」って言うのか? なろうで「イケメン先輩のマスクの下の顔に興味ありあり!」とか書いてるのを読まれてもいいのか!? 終わるぞ! お前の猫かぶり人生が終わるぞ!!
……どうしよう?? ウソはつきたくないが、本当のことも言いたくない……。なにか……なにか無難な趣味を……。そうだ! アレがあるじゃないか!! アレがあった!!
ソウ:寝るのが好きです♪
店長:え!? ねる!?(ねる? 練る? 何を練るんだ? まさか寝る? 寝るって、性的な!? えええ!?)
ソウ:(そっちじゃない! 性的な意味なんて無いです!!)おうちで一人で寝るのが大好きです♪
店長:……ええ? ああ、そうですか……。
そして気まずい沈黙が流れ、私は静かに帰宅の途へつきました。
爆弾発言はかろうじて防げたと思うのだが、店長の「訊かなきゃよかった」という表情が気になる……。わたし、マズイことを言ってしまったのだろうか??
おうちで一人で寝るのが大好き …… 五十路の独身女がフルタイムの仕事にも就かず …… ずっと家で一人で布団をかぶって寝ている …… うわあああああ!! 気持ちわるい!! なんか湿っぽい! あとコワイ!! そんな人がいたらコワイ!! でもそれが私! 毎日12時間以上ベッドの上にいるのが私! そして10時間くらい寝ているのが私!
母が私にやたらとお見合いをすすめたのは、娘にまともな人間になってほしかったからですね……。そして残念ながら母の望みは叶わず、まともじゃない人生を送っています……。
お母さん、ごめんなさい。心からお詫び申し上げます。でも……、
期待を裏切ったから謝りはするけど、反省はしておらん! 今が人生で一番楽しいんだ!! また生まれ変わっても、同じ生活をするぜ!! 若さも金も地位も名誉も安定もないが、今が一番楽しくて幸せなんだ!! 我が人生に一片の悔いなし!!
あなた様も、楽しくて幸せでありますように☆☆☆




