ウッカリ中国へ行ってしまったお話 5(お見合い編)
一時間後に集合場所へ到着しました。私は袋からデカイ板チョコを取り出してみなさんへ配ります。
ソン妻:これ、どうしたの?
ソウ:お土産です♪ 差し上げます♪
社長:一緒に来てるんだからお土産はいらんやろう??
ソウ:皆さんのおかげで中国へ来ることができたからお礼です♪
ソン夫:ありがとう! チョコは好きです!
A様:……ど、どうも……。
また車に乗り込んで移動します。すぐ近くのホテルに到着しました。都会の観光地らしく10階建てくらいの新しいホテルが立ち並んでいます。真新しいエレベーターに乗り込んで、新しくて清潔な部屋に到着しました。カーテンを開けてみると快晴の青空が広がっています。そしてホテルの裏庭には……、
大量のゴミが捨てられていました。紙やプラゴミが散乱する庭のあちこちに、テレビや冷蔵庫などの電化製品もたくさん捨てられている……。部屋は清潔できれいなのに、裏庭はエライことになってる……。日本のホテルでは考えられない大らかさです。中国、すげぇな!!
荷物を置いて社長の部屋へ行くと、別室へ連れていかれました。知らない中国人の若い女の子が3人います。みんな20歳くらいです。真っ黒な髪の毛を長く伸ばして、慣れないお化粧をした若くて可愛らしい女の子たち。ピンクやブルーのスカートをヒラヒラさせて精一杯のお洒落をしている感じです。今日のために買った服でしょうか、一度も洗濯してない新しいお洋服です。どの子もお洋服が似合っているか気になるようで、何度も鏡を見ています。みんな、可愛いよ♡
社長:これから隣の部屋でA様のお見合いをします。彼女たちは花嫁候補です。ボクはA様と一緒にいるので、ソウさんは彼女たちと一緒にいてください。
ソウ:一緒にいて何をしたらいいですか?
社長:とくに何もないです。
そして社長は部屋を出ていきました。可愛らしいお嬢さんたちが笑顔で挨拶してくれます。私も日本語で挨拶します。挨拶したら、することがなくなってしまった……。彼女たちは鏡を見てお化粧を直したり、携帯電話で電話をしたり、三人で話したりしています。私は言葉がわからないので会話に参加できないし、お見合い相手じゃないのでお化粧を直す必要もない。2つあるベッドの1つに三人のお嬢さんが座り、私はもう1つのベッドに座ります。することがない……。ヒマだ……。
お嬢さんが一人、呼び出されて部屋を出てゆきました。30分ほどすると戻ってきて、次のお嬢さんと交代した。1時間ほどすると三人目のお嬢さんが呼び出されましたが、すぐに戻ってきた。
そして結果発表。ソン妻さんが通訳です。
社長:二番目のお嬢さん(ファンさん・仮名)が花嫁に選ばれました。後の二人はお疲れ様でした。帰ってもらっていいです。
おめでとう??ございます?? お断りされた他の二人は元気に「再見~!」と言いながら部屋を出ていった。サバサバしていてガッカリしたようには見えなかった。ってか、え? 花嫁に選ばれたって?? たった一時間話しただけで結婚するの?? 今日はお見合いでお互いに気に入ったら交際を始めて、二人の気持ちが固まってから結婚するんじゃないの?? え? もう結婚するの? ウソでしょ???????
社長:これからファンさんのご両親と一緒に食事会をします。
そして気づけばファンさんのご両親と一緒に中華料理の円卓を囲んでいました……。話が速すぎてついていけない……。ファンさんの親御さんは50代くらいでしょうか。農家さんだそうで、お父様もお母様も真っ黒に日焼けしています。お父様は着慣れない背広を着て、お母様も着慣れないツーピースをお召しです。微妙に丈が短いので、着慣れないと一目でわかる。お二人はA様に何度も「娘をよろしく」と言っています。ソンさんご夫妻が通訳をしてご両親の言葉をA様に伝える。A様も精一杯の慣れない笑顔を浮かべて、何度もうなずいている。
そうか。ファンさんがA様と結婚したら、日本へ行かないといけないんだ。もう中国のご両親と会えなくなるんだ……。ファンさんもご両親もそれを承知で、ファンさんは日本へ行くんだ……。そんな大事なことをたった1時間で決めちゃうんだ……。それってお金のせい? お金がないから日本人と結婚するの?????
お祝いの中華料理はとても豪華でしたけれど、一人で海を渡る若いファンさんのことを思うと砂を噛むような味がしました。
宴は終わりご両親はA様に何度も頭を下げながら帰ってゆきました。夜になりA様とファンさんの初デートに同行します。ソンさんご夫妻がそれぞれA様とファンさんに付いて通訳をする。ファンさんは明るくてアレコレA様に話しかけますが、照れ屋なA様はほとんど話しません。それでも可愛らしいファンさんを見ては嬉しそうにニコニコしています。夜の街を歩いて大きな礼拝堂を見たりします。たぶんキリスト教の礼拝堂だと思うのですが、荘厳な灰色の美しい建物です。やっぱりソ連っぽいよな……。ここはどこなんだろう??
考えながら歩いていると信号がありました。青になったので横断歩道をわたり始めたら、次々に車が突っ込んできた! なんとか2台はよけましたが反対側から車が!! はねられる! ぶつかるのを覚悟して目をつぶったら、誰かに手を引っ張られました。目を開けるとファンさんの笑顔が! ファンさんが助けてくれた! その後もファンさんは大笑いしながら私の手を引っ張って、無事に横断できました。ありがとう! 日本と同じノリで歩いてたら車にはねられちゃうね! 危なかった!!
二人で手をつないだままニコニコして歩いていると、背中に視線を感じました。振り返って見ると社長が険しい顔で私をニラんでいます。あ……。A様より先に私がファンさんと手をつないでしまった……。私はあいた手でA様をつつきました。振り向いたA様にファンさんの手を差し出す。A様はワケがわからず戸惑っています。するとファンさんが少し照れながらA様の手をにぎった。そして花が咲くようにパアアっっと可憐に笑った! A様もその笑顔を見て嬉しそうに笑う。そしてその後二人はファンさんが家へ帰るまで、ずっと手をつないだままでした。私、イイ仕事をした気がする……。
出会いはどうあれお二人には幸せになってほしい……。二人の末永い幸せを祈りながら私は眠りにつきました。