不審人物
ご機嫌いかがでしょうか? 不審人物のソウです!
引きこもりで定職にもつかず、いつ見ても同じ格好のソウです!
でもお仕事は見つけました! いつ見ても同じ格好なのは同じジャージを13本、同じ靴下を10足、同じセーターを8枚持っているからです! いつも同じに見えますけれど、常に洗い立てです! 不審者に見えますが清潔です!
そんな私ですが少し前までまともな格好で働いていました。その日もスーツを着てバリバリ仕事をこなし、スーツも気持ちもヨレヨレになって仕事を終えました。疲れた……。刃物の上を素足で歩くような日々が続いています。庁舎の外へ出ると冷たい風がほおを叩きます。疲れたし、寒い……。
「私の人生に春は来るんじゃろうか?」ヨレヨレしながら近くの神社へ逃げ込みました。
この神社は喫煙者の憩いの場所です。庁舎内は禁煙なので職員は神社の境内の喫煙コーナーで一服させてもらう。お昼休みや退勤後には、多くの職員でにぎわっていました。タダで利用させてもらうのも気がひけるので、私はお給料をもらったら心ばかりを封筒に包んでお賽銭箱へ入れていました。
冬なので外は真っ暗です。フツーの人なら真っ暗な境内へ足を踏み入れるのは怖いと思いますけれど、なんせ私はタバコが吸いたい! 慣れた道を通って境内へ入り、ほっとしてベンチに近づきました。暗闇からのんびりと談笑する声が聞こえます。おじさん二人が話しているらしい。おそらく市役所の職員でしょう。私は気にせずベンチに座ってタバコに火を灯しました。
一所懸命に働いた後のタバコは美味しいなぁ~! 深々と煙を吸いこんでいる横で、おじさんたちは共通の知り合いの話をしています。田舎なので誰でも知り合い。ww 暗闇で表情が見えないのをいいことに、私は微笑みながらタバコを吸っていました。一人のおじさんが席を立つ気配がしました。
おじ1:それでは私はこれで。
おじ2:お疲れ様です。よろしくお願いします。
私は二本目のタバコに火を付けます。ここで一言。タバコなんて、吸うもんじゃないですよ! もしあなたが「タバコ吸ってみようかな?」とお考えでしたら絶対に!!!!!!!!!!! やめておいたほうがいいです!!!!!!!!! イイコトなんて一つもありませんから!!!!!
クサイしめっちゃお金かかるしカラダに悪いし、周りに迷惑です!!!!! 吸わないほうがいいですよ!!
「それならどうしてお前は吸ってる?」そう思うでしょう! 私だって思います!! これはですね「依存症」という病気です! 病気なんです! 依存には良い依存と悪い依存があって、タバコは悪い依存の代表です。悪い依存はしないほうがイイです!! 余談ですが良い依存は「自分が嬉しいから勉強(仕事)しよう!」とかいうのです。自分も嬉しいし、周りも喜ぶ。こういう依存は多ければ多いほうが良いですけれど、タバコはいけません! まあ、どの口が言ってるって話ですが……。
悪い依存のタバコを吸っていると、暗闇から「こんばんは」と声を掛けられました。さっきのおじ2さんです。この場所で職員同士が雑談を交わすのはよくあることなので、私はにこやかに「こんばんは♪」と返しました。
おじ2:寒いですね! 警察です! 甲賀署の〇〇といいます。
えええええ!? 警察!? おまわりさん!?
ソウ:ななな、なんで警察の方が!? ななな、なんかあったんですか!?
必要以上に動揺するのをやめい! あやしいわ!!
警察:じつは最近、この神社で賽銭泥棒が多発してまして。ちょうど今くらいの時間に本殿の賽銭箱から金を持っていくんですわ。
ソウ:神様のお金を持っていくんですか!? それはいけませんね!!
警察:一度や二度じゃないのでこうしてパトロールしてるんです。
ソウ:ありがとうございます! お疲れ様です!
警察:いつもここへ来てますか?
ソウ:はい。お昼休みと帰宅前に寄ることが多いです。
警察:不審な人物を見たことがありますか?
ソウ:喫煙所で人は見ますが、本殿へ近づく人は見ませんねぇ……。
警察:もし不審人物を見かけたら警察か社務所へ教えてほしいんですわ。
ソウ:わかりました! もし見かけたらご報告します!
警察:それじゃ、よろしくお願いします。
ソウ:お疲れ様です! ありがとうございます!
おまわりさんが砂利を踏んで遠ざかってゆく音がします。ふうぅ。ビックリした! いきなり警察だもんなぁ! いつもお世話になってる神社さんだから、これからジロジロ見て不審人物がいたら通報するぞ!! 私がお供えした封筒も持っていかれたのだろうか!? 神様へのお礼なのに許せん!! ジロジロ見て捕まえてやる!!
一人で決意していると本殿から人が出てきた!! うわぁ! タイミング良すぎやろ! これはジロジロ見ておかないと! 暗闇に目を凝らしていると、うっすら人影が見えます。背格好から男性みたい。その男性がこっちへ近づいてくる!! 見るぞ! 私はジロジロ見るぞ!!
社務所の明かりで一瞬だけ見えました。中肉中背の男性。黒いニットキャップに黒縁メガネ、黒のダウンコートに黒いズボン。黒ずくめ!! あやしい!!
男性は迷うことなくこちらへ近づいてきます。暗いので私がいるのに気付かないようすです。
ソウ:こここ、こんばんは!
男性は驚いたようです。でもすぐに気を取り直して「こんばんは」と挨拶を返した。声のようすから40代くらいかなぁ!? そして男性は私の横を通り過ぎると、木の塀に開いた穴を抜けていった! 私はまいにち来てるから知ってる穴だけど、フツーの人はそこから出られるなんて知りません! しかもその穴の先には小川しかない!! 小川を飛び越せば歩道に出られるけど、そんな危ないことしないと思う! 小川を飛び越さなければ、神社の周りとグルっとまわってここへ戻ってくるだけです! あやしい! 絶対にあやしい! 不審人物を発見しました!!
どどど、どうしよう!? おまわりさんは別れたばかりだから、まだ署に帰ってないと思う。110番は大げさすぎるし、どうしたらいいんだ!? はっ! そうだ! 「警察か社務所」って言われた! 社務所へ言えばいいんだ! でもいきなり訪ねて言うのも大げさな気がする……。メモに書いてポストに入れておこう!
私は日時や男性の詳細、自分の電話番号と名前を添えたメモを社務所のポストへ入れました。何かお役に立てれば幸いです。
その数時間あと、帰宅した私のスマホにショートメールが届きました。カミアリさんという神社の宮司さんからです! カミアリ宮司さんからのメールは私のメモを読んだこと、賽銭泥棒の捜査に協力したことに丁寧にお礼が書いてあり、今後も協力をお願いしますと結ばれていました。わかりました! 今後もジロジロ見ておきます!
そして数日後、お昼休みに喫煙所でまったりしていたら例の不審人物が現れました! 黒ずくめの格好に黒メガネ、中肉中背! 間違いない! アイツだ!! ソイツは慣れたようすで境内を歩いてゆきます。行き先には本殿がある! 捕まえないとまた盗まれる! でも私の他に人はいません。誰か助けて!! 私の声が神様に届いたのか、社務所から人が出てきました! ホウキを持ったおじいさんです。 おじいさん、ソイツを捕まえてください! ソイツが賽銭泥棒です!!
私の心の声がおじいさんに届いたようです! おじいさんは不審人物を見かけると、ソイツのほうへ向かって歩き出しました! 捕まえて! でも反撃されるかも!? 気を付けてください!!
何かあったら助太刀するつもりで、私は腰を浮かせました。もし乱闘になったら私も参加する!!
おじいさんは追いかけますが、不審なヤツは歩くのが速くて追いつけません! このままだと逃げられてしまう! 急いでください!!
追いつけないと判断したおじいさんが、ヤツに声を掛けました!!!
おじい:宮司さん! 宮司さん! カミアリ宮司さん!!
え?? え??
呼ばれたソイツは振り向くと、おじいさんと話し始めました。ちょ、ちょっと待って! えええ!? どういうこと!?
どうやらあの日、ソイツ…………改めカミアリ宮司さんは本殿をパトロールしていたらしい……。そして神社の周囲もパトロールするため歩いていたら、私に声を掛けられた。宮司さんは私に挨拶を返した後、塀の穴から外へ出て神社の外周をパトロールしたんじゃなかろうか…………。もし宮司さんなら怪しい行動も納得がゆく。怪しい人物を見つけるため、怪しいヤツが出入りする道を辿っていたのでしょう…………。
宮司さんは私のメモで、すぐ私のカン違いに気づいたと思います。だって日時も服装も宮司さんとバッチリ合ってますから。でもお優しいから間違いを指摘せず、私にお礼を言ってくださった……。私が怪しいとジロジロ見ていた不審人物は、宮司さんだったのです!! いやああああああああああ!!! ごめんなさいいいいいいいい!!! 間違えましたああああああ!!!!!
あまりの恥ずかしさに腰が抜け、私はふたたびベンチへ座り込みました。そして宮司さんとおじいさんが去ってゆくのを黙って見送りました。今さら「宮司さんだったんですね! 間違えました!」って謝っても、お互いに気まずいだけ…………。
その後どうなったか私は知りません。直後に仕事を辞めたので犯人が捕まったか聞いてない。
あれからだいぶ時間がたちましたが、たまに思い出しては「いやあああああ!!!!!」となっています。その節は、間違えてしまってすみませんでした!!
季節は春です♪ 私の人生にも春が来ました! 今日も優しい方々と一緒に張り切って働いてきます!
あなた様にも楽しい春が訪れますように♪♪♪




