春風穂香のメンタル事情
「せっかくのハンバーグメンチカツがほとんど味がしないんですけど」
「そうだね。僕のクリームパスタも砂を噛んでいるような気分だよ」
ウチとアンナの愚痴に二人は平然と答える。
「あら、私のチキン南蛮は美味しいわよ」
「選択間違えたんじゃない。ワタシと同じウナギにすれば美味しかったのに」
「メニューのせいじゃねえわ! あんたらのせいだろうが!」
「この程度の事で、何ダメージ受けてんの。安藤ってメンタル弱いんじゃない」
「そんなのじゃあこれから先苦労するわよ。もっとしっかりしなきゃあ」
ウチの罵声に平然と答えるこの二人のメンタルは鋼鉄の様だ。
「アンナ~ウチもうダメ見たい~」
「リオは僕が守···れないかもしんない」
「まあメンタルの弱さじゃあ、穂香に比べりゃずっとマシだけどね」
虎谷がポツリと言った。
「穂香って誰?」
「四組の春風の事らしいよ」
龍崎の問いにウチが答える。
「青山君と春風さんとトリガラさんは幼馴染だそうだよ」
アンナが情報の補填を行う。
「あなたアンナとか言ったけ。ワザとに言ってるわよねえ。どちゃくそ感じ悪いんですけど」
「そう言えば虎谷、あんたなんで笹原のバイクに乗ろうと思ったの。四年ぶりだったんでしょ」
「あなたリオって言ったわよねえ。あなたはあなたですごく馴れ馴れしいわよねえ」
「虎谷さん、笹原って誰なの。窃盗犯なんでしょ。親しかったの?」
「あんた達三人そろって人の話聞かないわね。まあいいわ。笹原はワタシが小五の時に同じクラスだったのよ。弘明と穂香とワタシ、それから夏木宙って言う奴と。笹原とはその時チョット因縁があってね。細かい事は省くけど、ワタシが弘明に会いに行くって言ったら笹原も会いたいって言うもんだからね」
「その笹原って奴は、青山と親しかったの?」
龍崎の問いかけに虎谷はあっさり答える。
「ウウウ~ン、ぜんぜーん。どっちかって言うと仲悪かったわねえ。特に宙の奴が」
「いきなり、宙なんて名前出てきても僕ら誰かわかんないよ」
「弘明の幼馴染で親友。別に知らなくても良いわよ」
「出たー! ワタシは知ってますよ発言。幼馴染だから知ってるよって、上から目線。ウチらに対する優越感丸出しの言葉って、嫌だよねえ、龍崎」
「そうね。この際洗いざらい吐いて貰いましょうかね」
「しくったわね。ここは敵地だったの忘れてたわ。ってあんたらはマルチ商法の囲い込み勧誘なの!」
観念した虎谷はぼつぼつと話し出した。
「宙は弘明とは幼稚園から一緒で、小学校からは同じサッカーチームだったのよ。弘明がミッドフィルダーで宙がフォワード。宙は中学でもサッカー部でスポーツ推薦で私立の名門校に行ってるわ」
「それが、あんた達とどう関係が有るの?」
虎谷は少し言いにくそうにしていたが意を決したように話し出した。
「少し長くなるわよ。まず穂香は小学校の低学年の時、頭が良いから周りが言動について行けなくて孤立してたの。小学校三年生の時には、すごく浮いててハブられてたのよ。それを気にかけて庇ってたのが同じクラスだった弘明だったの。だから穂香は弘明にベッタリだったわね」
「えー。春風さんってこの周辺の高校でも有名なくらい美人なのになんで?」
アンナが驚いて言う。
「小学校の低学年は見た目なんて気にしないもの。その上弘明には親友の宙もいつもベッタリくっ付いていたから、たいがい三人一緒にいたわね。それが四年生になってクラスが分かれてワタシと弘明は同じクラスになったけど穂香はクラスが分かれたのよ。そしたら休み時間はずっと穂香がウチのクラスに来るようになって、宙は以前からクラスが違ってたけれど弘明のクラスに通ってたし。だからワタシのクラスの女子には穂香は嫌われてたのよ。よそのクラスの子が入り浸ってるのって感じ悪いでしょ。多分穂香のクラスメイトからも嫌われてたんじゃないかしら」
「春風って結構問題児だったんじゃないの。今そんな風には見えないけど」
龍崎の言葉に虎谷は相槌を打って続ける。
「今でも本質は変わらないと思うわよ。メンタルはムチャクチャ弱いし、人とのコミュニケーションもすごく下手だと思うのよね。いまだに相談事をワタシにしてるってこと自体友達がいないって事でしょう。弘明との恋愛相談まで未だにワタシにラ○ン入れてくるのよ。恋敵のワタシに。オカシイでしょう」
「それって、牽制とかそういう意味じゃないの?」
「違うわね。小学校の時からずっとこんなのだから。全然変わってないのよ。あの娘の依存体質」




