龍虎相打つ
十月も後半に入り気温も下がり日没後は肌寒いくらいになっているのに、ファミレスのウチらの席だけは灼熱の業火に見舞われている様に温度が上昇している。
ウェイトレスさんも遠巻きにしてオーダーを採りに来てくれない。
ウチはおずおずと口を開く。
「あのー、オーダーを…」
「オーダーはタッチパネルでお願い致します」
あ、そういう事ね。
そうかそうか。
「みんな何にする? ドリンクバーは付けるよね。ウチはチーズインハンバーグメンチカツ乗せナポリタンで、アンナは何にする?」
「ぼ、僕はシーフードのクリームパスタかな。か、花梨は何にするの?」
「そうねえ。私はチキン南蛮のセットにしようかな」
「あら、チキンな龍崎さんにはお似合いじゃない。ワタシは自腹だし奮発してウナギでも食べようかしら」
「見栄っ張りの成り上がりが頼みそうなメニューね。夏でも無いのに精力付けて何するんだか」
「夏のウナギは季節外れ。本当においしいのは秋口なのよ。まあ、チビッ子大好きチキン南蛮なんてオコチャマメニューを頼んでるような人にはわからないでしょうけど」
「何をほざいてるんだか。天然ものならともかく養殖ウナギに旬も何もないのよね。味もわからずにカッコつけてる人ってそばにいても恥ずかしいわね」
「粋人って言ってよね。旬を知って旬を食べるっていうのが粋なのよ。今も昔も凡人はマスコミに踊らされるものなのよねえ」
「掴み処のないあなたならウナギよりも泥の中に沈んでいるナマズの方がお似合いじゃないのぉー」
「あなたこそチキンハートの南蛮漬けに合わせて鶏崎に改名すればぁー」
「ぼ、僕はみ、みんなのドリンクを貰いに行ってくるねえ。みんなコーラで良いよね」
「私は果物と野菜のミックスジュースにして」
「なあに、あなたデドックスでも考えてるの。毒素を全部出したら骨しか残らないんじゃないかしら。ワタシはドクペが良いかな」
「あなたこそ、ウナギにドクペってどういう取り合わせしてるのかしら。味覚のセンス破壊されてるんじゃないの」
「アンナー、ウチも手伝うよー」
ウチとアンナはたまらず、ドリンクバーに退避した。
「リオ―、僕もう席に戻りたくないよー」
「ウチも怖いよ。折角のハンバーグも食べた気にならないと思う」
「逃げる?」
「ウチらに撤退の文字は無い」
「そうだよね。笹原とかいう人の情報も聞きたいしねえ」
「仕方ない。腹をくくってハンバーグ食べに戻ろう」
「ウン、クリームパスタも待ってるし!」
ウチらが両手にドリンクを持って席に戻ると、ウェイトレスさんが料理のワゴンを止めて様子を窺っていた。
「あのー、料理お持ちしたんですが…」
白熱した二人の嫌みの応酬に、周辺には誰も近づけない熱いオーラが溢れている。
それはまるでRー1のリングの如く、M-1のステージの如くに。
剣豪がにらみ合う一騎打ちの場の様に、うかつに間合いに入り込めばイヤミの刃で一刀両断されるであろう殺気に満ち溢れた空間が形成されている。
ウェイトレスさんが意を決して二人の間合いに入り込む。
「料理お持ち致しました。チキン南蛮のセットで御座います」
「ほら、オコチャマメニューのセットが来たわよ。鶏崎さん」
「ハウッ!」
ウェイトレスさんが流れ弾に当たった。
「トリガラさんの泥ナマズのバカ焼きも来たんじゃないかしら」
「グワッ!」
ウェイトレスさんは致命傷を負った。
「すみません。あとはウチらが取りますんで」
「ウナギとクリームパスタとメンチカツナポリタンでオッケーです。僕らが下ろしますから」
満身創痍のウェイトレスさんが帰って行った。
「ねえリオ。立って食べる訳にはいかないよねえ」
「アンナ、腹を括ろう。帝国陸軍の奥義は突撃あるのみ」
「それって自滅だよねえ」
「もうヤケクソなんだよー。吶喊~。ドリンク持ってきました」
「毒出しジュースが来たわよ。毒吐き女」
「テキサス生まれのゲロマズコーラも来たみたいね。味覚障害女」
「「グワッ!!ゲフッ!!」」
ウチとアンナも一刀両断された。




