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幕間1 九月のバージニアの空は青く晴れて

 ボスからの緊急の呼び出しで休暇が取り消されてしまった。

夏の間ベネズエラで働き続けて、やっともぎ取った特別休暇が。

私はヴァージニアの北東部、フェアファックス郡の国道をテスラモデル3でひた走る。

路肩に”ジョージ・ブッシュ情報センター”の標識が見えた。


「くそ忌々しい!」

 休暇中の私をノースカロライナから呼び戻した上司の顔を思い出して悪態をつく。

あの小賢しい緑の標識を右に曲がると、アッシュビルでの優雅な私の特別休暇は終わりを告げる。

緑の森を抜けると薄汚れた高い給水塔と白亜のビル群が見えてくる。


 ゲートに掲げられた白頭鷲の青いエンブレムが憎々しげに私を睨んでいるように見えた。

バカでかい駐車場にテスラを滑り込ませると充電コードをつなぎ、ラングレーの私の執務室に向かって歩き始めた。

そう、通称ラングレー。

エンブレムに書かれた文字は ”Central Intelligence Agency”略称をCIAと言う。


 ボスはこのご時世に通信回線もネット回線も一切信用しない。

すべての指示は口頭でがモットーの時代遅れだ。

ラングレーのセキュリティーすら信用していない。

長年そのセキュリティーを破る事を生業にしてきた人間の弊害だろうか。

それに振り回される私にとっては老害以外の何物でもない。


「さて、モロー君。先月起こった中国の通信衛星消滅事件についてのレポートが上がってきた」

それは先月の第三土曜日夕方17時過ぎだった。

突如太平洋上空で中国の軍事衛星が消滅したのだ。

消滅した地域、ハワイの海軍基地上空での時間では土曜日の深夜2時過ぎ。

中国は通信衛星と言い張っているが軍事衛星で間違いない…とのNROの見解である。


 中国政府はアメリカの破壊行為だと息巻いているが、今のテクノロジーで衛星一機をピンポイントで消滅させることなど不可能だ。

ましてや小型の偵察衛星程度の破壊に費やすには、労力も資金もあまりに無駄でメリットが無い。

「それで私が呼び出されると言う事は、デブリの衝突とかそう言う報告ではないようですね」

「ああ、国家偵察局…NROの見解では指向性のある工学兵器らしきもので射抜かれたとの事だ」


「what on earth! バカバカしい。そんな兵器どこが開発したって言うんですか? ありえない」

「マウナケアの天文台から複数報告が上がっている。消滅の93秒前に月表面に閃光が走ってクレーターが出来たそうだ。NROはこの現象と消失事件を関連付けている様だな」

「それが事実としても私には関係ない。一介のエージェントの私に月にでも飛べと?」

「いや、君には発射ポイントを探ってもらう。」

「地上から発射されたと言うんですか?」

「マウナケアからの報告の中に、タイワンの電磁波干渉計がキャッチした電磁波データが有る。月面の閃光と衛星消滅の同時間に同じ波長の電磁波が0.7秒と0.5秒記録されている。西から東に向かって放たれたらしい」

「西? タイワン?」

「コーベのスパコンに解析を頼んだ結果、月と消失地点の延長線上のポイントはジャパンだった」

「ジャパン? 同盟国が? ミサワ? ヨコタ? USAF?」

「ジャパンの地方都市だ。ポンポコシティー」

「ポンポコシティー?」

「そこでだジョアンナ・ジョルジュ・モロー君。日本語が堪能だったなあ。アキバとかに憧れていたと言ってただろう。喜べ、明後日のTokyo行のチケットのプレゼントだ」


「Holy cow! そんな雲をつかむような話でジャパンの田舎町へ! 私のホリデーを返してくれ!」

壁面いっぱいの強化ガラス製の窓から見えるヴァージニアの空は真っ青に澄み渡っていた。


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