取調室24時
長々と続く、重い話になります。
香利奈さんの過去の話ですから本筋には関係しません。
「それじゃあ、後は任せるわ。俺はうちの娘ども三人の説教部屋に行ってくるわ」
カッチンパパはそう言って部屋を出て行った。
ウチらはお迎えのミクリンママが来るまでそのまま会議室で待つことになった。
ウチは視覚ドローンを飛ばし兵頭家の集う取調室にターゲットオン!
からのドラゴンイヤー!
『すまなかった。お前らを危険な目に遭わせて俺の管理不行き届きだった』
地獄送りの兵頭警部補が女子高生たちに頭を下げる。
『それでも、それでもだ。こんな危険な真似しやがって、馬鹿モンが!』
そう言って椅子に座った。
『まず香利奈。率直に聞きたい。お前これからどうしたい。俺はこんな奴だしお前にとやかく言える資格もないが、これから先の面倒くらいは見れる。できれば頼って欲しい』
『わたしは出来れば独立したい。多分今のままじゃあ、母さんを許せないしそんな自分も許せない。離婚してわたしのお父さんが自殺したのも、あの時ワタシを置いて逃げたのも、事情は判らない事もないけど恨みは消えないんだ。だから顔を合わせる事が辛い。多分あっちだって同じで、だから夜勤が多い深夜スーパーのパートなんてやって逃げてるんだろう。ただそのツケが綾乃と香利奈に回って来て、二人に負担をかけてると思うと我慢できなくて。それならわたしが居なくなれば少しは変わるだろうって』
『それでもせめて高校は卒業しろ。ここまで頑張ったんだろう。今ならまだ間に合うんだから。住むところくらい何とかする』
『私はお義姉さんと一緒にいたい(泣)。小さい時、お母さんが死んでパパもいつも居なかった(泣)。おばあちゃんが死んでどうしようかって思った(泣)。でもお義姉さんが優しかった(泣)。お義姉さんが中学の時一緒にいてくれて嬉しかった(泣)』
『お母さんと居るのが嫌ならわたしと綾乃お義姉ちゃんと三人で部屋に居よう。一緒にいれたら嬉しいよ』
『・・・春まで、春まで頑張ってみるよ』
『どうして春までなの。香莉奈おねえちゃんはどうしてママの事が嫌いなの』
『お義姉さんはママが嫌いなんじゃないよー(泣)』
『そうだね。嫌いじゃないよ』
『お前の憎む理由も解るが離婚にも訳があるんだ。お前の父さんには大きな借金が有った。それをお前たちに背負わせるわけにいかなかったんだ。自殺もその為だ。あいつがお前を置いた逃げたのも、時間が許さなかったからだ。警察に相談に来て、DV支援センターに依頼して一時保護の準備をする為にはお前たち二人とも連れて行けなかったんだ。まだ三歳の瀬利香を残すわけにもゆかず仕方なかったんだ。その時の事は同じ署員だったんで俺も知っている』
『知ってるよ。そんなこと知ってるよ。それでも小学校から帰ってきたら母さんが居なくて、瀬利香が居なくて、あの男と二人きりで。どんだけ絶望したと思う。たった三日だったけど、その三日がどれだけ恐ろしかったと思う。まだ小学生だったんだ。夜になると酒を飲んで暴れまわるあの家から逃げられない恐怖を。そもそもあんな男を頼ったのは母さんじゃないか。勝手にあいつが新しい父親だってやって来て、あげくにDV男でそれを四年も絶えたって、あんたは大人だから簡単に言えるよ。わたしは小二だったんだ。それから四年耐えたんだ。そのあげくにあの三日間だよ。それでも母親だから、優しかったことも有ったから、それがあるから憎み切れない。誰かに頼る以外生きる術がなかった頼りない人だよ。わたしはあんな女に成りたくないし、絶対ならない。でも何も出来なくてそんな親に頼らなきゃならなかった四年を知ってるから突き放せない。今深夜スーパーで働いているのもわたしや瀬利香に残す為だろう。昼間の仕事よりも割が良いからやってるのも、余分にシフトを入れてるのも知ってるよ。でもねえ、それをされたからって昔が変わる訳じゃない。アリガトウって受け取れる訳無いじゃん。貰う気にもなれないし、許す気にもなれない。そんなことされてあいつの気持ちは収まっても、わたしの気持ちは収まらないんだよ。だからってそれをいう事もそこまで憎むこともできない。親なんだから。だから辛い。初めから無視して、いっそわたしなんか居なかった事にして貰った方がどれだけ気が楽か分かんねえ。・・・だから、瀬利香と綾乃には悪いけど春までしか居られない。綾乃の言う通りママが嫌いじゃないから・・・。ごめんよ』
『それでも私はお義姉さんと三人で一緒に居たい(泣)』
『なあ、お義父さん。あんたもわたしの事より綾乃の事をもう少し気遣った方が良いよ。この子は賢いし強い子だけどこの娘がこんななのはあんたの責任だよ。再婚したときもわたしの事を慕ってくれたのはあんたが帰ってこないからだよ。あんたが居る時は普通だったけど、夜帰らないときはわたしにしがみついて、パパはきっと帰ってくるって泣くのを堪えてたんだ。あんたの仕事を知ってるから、あんたが仕事に行くと昼でも夜でも不安がってた。頭が良すぎるから小学校でも中学校でも浮いてて友達もいなかったんだ。学校でこの子の相手をしてくれてたのは私以外じゃあ変人で有名だったわたしの同級生の清渕くらいだったよ。だから今本当に良い友達に恵まれたってわたしは安心してるんだ。綾乃、あの三人は大事にしなよ。あんたが手を放そうとしてもあの娘達なら絶対手を放してくれないだろうけどね』
『三人じゃなくて、四人だよー(泣)。チエちゃんもいるから四人だよー(泣)』
『もう一人いるの? 清渕じゃなくて?』
『清渕さんは部活の部長だよー(泣)。チエちゃんはお友達だよー(泣)』
『ニッチのおねえちゃんだよね。昨日はずっとわたしの側にいてくれたんだ。昨日、帰りに送ってもらった時もハンバーグのおねえちゃんに、友達でも関わって良い事といけない事があるから弁えろって叱ってた』
『その通りだね。本当にこんな話家族以外に聞かせられないもんな。そのおねえちゃんが一番大人だね』
ウチは慌ててドローンを切った。
やっちゃったー。
罪悪感で顔が火照る。
隣を見ると、アンナの赤眼が点滅しながら光が消えて行くような?
そのまま顔を両手で覆って何故か泣いていた。
「僕、しちゃいけない事しちゃった」
ミクリンとウチは訳もわからずアンナに駆け寄って手を握った。
こういう愛憎はすぐに解決できないと思います。
理性で分かっていても感情がそれを許しません。
でも時間を置くことが解決に繋がることも有ります。
この親子の愛憎は香利奈さんがしっかり受け止めているので時間さえあれば解決するでしょう。




