カッチンの義妹ちゃん
カッチンに付けた設定のせいで思っていた以上に重い話になってしまいそうです。
ウチら五人のうちミクリンとカッチンとはチャリ通だ。
ミクリンは私鉄沿線で最寄り駅が学校から遠いのでバス通かチャリ通の二択だったのだけれど、カッチンはウチらと同じJRの路線で電車で反対方向に二駅向こう。
ウチらとは方向が違うので同じ二駅でも距離はだいぶ近いがそれでも結構な距離である。
うちとカッチンは最寄りの駅まで二人で歩くことにした。
ちなみにアンナは学校の近くなので徒歩通学だ。
うらやましい限りである。
「カッチン、妹がいたんだ」
「うん、瀬利香(泣)」
「いくつなの?」
「四年生(泣)」
「カッチンが世話をしてるんだ。えらいね。ウチら兄ちゃんや姉ちゃんに迷惑かけてばっかだよ」
「…(泣)」
「カッチン、ウチらずっーと側に居るからね。ニッチもミクリンもアンナもずっーと一緒だから」
「…(泣)」
「…ねえカッチン。明日は妹ちゃんも一緒に栗ぜんざい食べに行こうか」
「…うん(泣)」
「駅に着いたから、また明日だね」
「…うん(泣)」
カッチンは自転車に乗って走り出した。
「カッチーン。なんて言ったら良いかわかんないけど、負けんな!!!」
「うん(泣)!!!」
カッチンは急に立ち漕ぎで走り出した。
ウチはしばらく考えてやっぱり視界ドローンを飛ばす。
知ったらカッチンを傷つける事に成るかもだけど、何も出来なくて後で泣くのはもっと嫌だ。
空を飛べても眼からビームが出せても友達一人助ける事すらできないのかなあ。
千六百年威張って来たけど、龍の力って何の役に立つんだよー。
ドローンを飛ばしている上にそんなことを考えながら歩いていたので自動改札に引っかかって見事に転んでしまった。
「あいててて」
「バーカ、何やってんのよー」
改札の横に立ったニッチが呆れ顔で見下ろしている。
「パンツ見えてんぞ」
「あわわわ」
ウチは慌ててスカートのすそを抑えて立ち上がる。
「ニッチはまえの電車で帰ったんじゃあ無かったの?」
「んな、訳ねーじゃん。カッチンの様子見てればアーシにだってわかるよ」
「じゃあなんで、」
「あの子が今一番気を許してるのはあんたと安奈じゃない。でも安奈は空気読まないし 気も効かないからこういうのは向かないじゃない。莉凰ならそう言うところ上手くやってくれると思ったから任せたんだよ。っでどうだった」
「ゴメン、ニッチは買いかぶり過ぎだよ。何も答えてくれなかったし。でも多分ウチらの気持ちは伝わったとは思う。それと明日妹ちゃんと一緒に又あの店に行くって約束した」
「それだけできれば上等だよ。莉凰のそんな顔似合わないよ。あんたはお気楽なアホの子がお似合いなんだから」
「あんたそれ褒めてないし!」
電車に乗って外を見ながら視覚ドローンでカッチンの顔を覗いてみる。
少し目が涙で濡れているけど嬉しそうに笑ってる。
チョットはウチの言葉も役に立ったのかな。
視覚ドローンは悪いけどカッチンに張り付けたままにしておこう。
ウチが家に着くころ、まだカッチンはチャリで走っていた。
脇道に入り住宅街に来ると三棟並んだ四件続きの二階建てのアパートが見える。
カッチンが駐輪所にチャリを停めると真ん中の一件の玄関に座っていた女の子が走り寄ってカッチンの腰にしがみついた。
『お義姉ちゃん、お帰りなさい』
『うん、ただいま』
…っえ!?
妹ちゃんの前では泣き顔を見せないんだ。
『晩御飯待ってたよ』
『うん、お餅いっぱい貰った』
『…っえ。…そうだね、磯部巻きにしてもおいしいね。お義姉ちゃん大好きだもんね』
妹ちゃんの顔がチョット曇ったがすぐに笑顔になった。
二人は手を繋いで家に帰って行く。
二階建て一室のアパートらしく、一階はリビングダイニングキッチンでその奥は大きな掃き出しのガラス窓になっていた。
部屋の右側は玄関とお風呂とトイレとであろうドアと階段が見える。
一階はしんと静まり返って人の気配が無い。
妹ちゃんは冷蔵庫からお惣菜のパックを取り出すとお皿に取り分けてレンジにかける。
カッチンはオーブントースターにお餅を並べてタイマーを回すと、手早く器に砂糖醤油を作りかき混ぜ始めた。
この娘あれだけ悪夢庵でお餅の天ぷら食べてたのにどんだけお餅好きなんだよ。
カッチン大好きっ娘みたいな妹ちゃんの顔が曇るくらいお餅を食べ続けてるんだろうなあ。
二人はお惣菜と磯部巻きのお餅をテーブルに並べて食べ始める。
『今日はねえ、お義姉ちゃんに教えてもらった算数の問題が出て先生に褒められたんだよ。それからねえ・・・・・・・・』
妹ちゃんがカッチンに今日有った事を次々報告する。
カッチンは只うんうんと頷いて聞いているだけだが妹ちゃんは楽しそうに話している。
『お義姉ちゃんはテストだったんでしょ。学校楽しかったの?』
『大好きなお友達が居るからとっても楽しいよー』
『お義姉ちゃんも楽しくてよかったね。』
『うん(泣)。』
クーーーー、こいつ、泣かせること言いやがって。
カッチンも涙目に戻ってるじゃん。
『セリちゃん、明日はなに食べたい?』
カッチンの唐突な質問に妹ちゃんが目を丸くする。
『えーとねエ。唐揚げ、卵焼き、お寿司も……おうどんも良いかな』
それを聞いて満足げにほほ笑むカッチン。
最後の一品はカッチンに気を使ったな。
妹に気を遣わせるなよー。
『それとねー。土曜日に食べたハンバーグはすごく美味しかった』
『あれはねー、お義姉ちゃんのお友達が作ったんだよー』
エー娘やー。
この妹ちゃんは、エー娘やー。
よし、このリオおねえちゃんがまた腕によりをかけてハンバーグをいっぱい作ってあげよう。
『明日はお義姉ちゃんと一緒にご飯食べに行こう』
『ほんとー、良いのー』
『明日はどうせパパもママも帰ってこないだろうし―。ファミレスで夜ご飯だよー』
『やったー、うれしいなー!』
『それじゃあーこれから勉強しっよかー』
『えっ、…うん』
妹ちゃん、これから今日の試練の始まりだな。
ガンバレー。
ウチは心の中で妹ちゃんに声援を送った。
安心してください。
(スパッツ)履いてます。
・・・・だいぶ古い。




