カッチンのお義姉さん
ウチがドリンクバーへ飲み物を取りに行くと、カッチンも付いて来た。
そしてドリンクバーの前でウチの腕を掴む。
「ねえ、リオちゃーん(泣)」
ウチはカッチンの顔を見て微笑むと答えた。
「分ったよ。一緒に行こう」
ウチはカッチンの手を引いて周りを見渡すと、厨房に戻ろうとするカッチンのお義姉さんを見つけて声をかける。
「すみません。ドリンクバーの調子が悪いみたいで、ちょっと見てくれませんか」
カッチンのお義姉さんは振り返ると、ウチの左腕にしがみついているカッチンに目をやり厨房の向かって声をかける。
「ドリンクバーの点検に入りまーす。オーダーの交代お願いしまーす」
そしてウチの先に立って歩きだした。
「綾乃、あんたの友達?」
「うん、リオちゃん(泣)」
「ウチら五人仲間なんだ。みんな親友だよ」
「良かったね。良い友達が出来て。あんたそんなだから辛い思いしてないか心配だったんだ」
「お義姉さん、帰ってこないの(泣)」
「ホント、ゴメン。ヤッパ無理だわ。瀬利香の事押し付けて悪いけど勘弁ね」
「また来ても良い(泣)」
「週末は夕方まで全部フルで入ってるから。…てんちょー終わりましたー」
そういうとお義姉さんは去った行った。
「それじゃあ。いったん終了にしまーす」
打ち上げ開始から二時間余りたった頃、青山君が全員に声をかけた。
「この後、残る人は各自自己判断でお願いします。用事がある人も多いと思うので無理に引き止めない様に」
龍崎が釘を刺す。
「龍崎、お前どうすんの?俺はもう少し残りたいな」
西爪君が聞いた。
「私は塾が有るから帰る。テスト内容の確認と自己採点なんだ。青山は?」
「俺も残るよ。秋山や西爪ともう少し文化祭の内容を詰めたいし」
「そーなんだ…」
龍崎が少し寂しそうに言う。
龍崎ざまあ!
「ケッケッケ。いい男三人残留だ! アンナもニッチも当然残るよね」
ミクリンが悪い顔で微笑む。
「アーシは残念だけど弟の晩御飯作らなきゃだから帰るわ」
「私も妹が待ってるから帰るよー(泣)」
ウチも残りたいのは山々だけれどカッチンが気になるんだ。
「悪い! ミクリン。ウチも帰るわ」
「エ―。そんなの無いよー。アンナまで帰るって言わないよねー。お願いアンナつきあってよー」
「うーん、ミクリンにはお世話になったから僕は残るよ」
いつの間にかアンナも御厨さんからミクリン呼びに変わっている。
一月ほどですっかり馴染んで仲良くなった。
「よーし、それじゃあ最後にコーヒー飲んで一旦お開きにするか」
ミクリンの号令でみんな立ち上がってドリンクバーへ向かう。
考える事はみんな一緒でドリンクバー周辺は混雑していた。
列に並ぶウチをミクリンが横に引っ張って耳元で小声で告げた。
「アンドリン、カッチンのこと頼むよ」
それだけ告げるとミクリンはフレッシュジュースの列に並びに行った。
仕方ねぇ、任されたよ。
「来週、収支は報告しまーす。それから会費の浮いたお金は文化祭のクラスカンパに回すのでご了承くださーい」
今日の幹事の娘が大きな声で告げる。
その横で龍崎がさらに一言。
「残留組のみんなは節度を守って、迷惑行為は慎んでくださーい。特に安藤ー」
「龍崎、なんでウチだけ名指しする! ウチももう帰るわー!」
「エッ!? じゃあアンナも?」
「アンナはミクリンと一緒に残る」
「そーなんだ…」
龍崎が微妙な顔で頷いた。
店を出るとニッチはギリギリ走れば次の電車に間に合うとかで走って行った。
ウチも誘われたけど、くたびれるからって断ると一人で駆けて行った。
龍崎がウチに近づいてくる。
「ねえ安藤。アンナは大丈夫なの?」
「モチロン。もうすっかりミクリンとも仲良しさんだよー」
「でもねえ。あの御厨さんとじゃねえ」
「ねえ龍崎。あんたがどう感じてるか知らないけどミクリンは姉御肌で気遣いもできるいい奴なんだ。プライドが高くて取っ付き難いけど、その分仲間にはすごく優しい奴なんだよ」
「ソーだよー(泣)。ミクちゃんは優しいよー(泣)」
「安藤がそう言うんなら間違いないんだろうね。それなら私はあんたとの約束を果たす為に頑張るわ。アンナのお母さんには私から連絡を入れておくよ。だから兵頭も安心して」
「カッチン、途中まで一緒に帰ろう」
「ウン(泣)」
駐輪所で通学用の丸石のママチャリのカギを外すカッチンに告げる。
するとファミレスの裏のドアからカッチンのお義姉さんが顔を覗かせた。
そしてカッチンに走り寄るとビニール袋を押し付ける。
「賞味期限切れそうな奴だから持って帰りな」
それだけ言って走って帰って行った。
フクロの中には冷凍のお餅がたくさん入っていた。




