屍を乗り越えて
前話のサブタイトルを拾ってみました。
そう言いつつみんな好みのハンバーグを選ぶと各々皿に取り分けた。
ウチはあと二つ皿を出してポテサラとハンバーグを一個づつ乗せる。
「一つは弟さんに」
「こっちの皿は?」
「ミクリンのお母さん帰って来るんでしょ」
「帰りが遅いから食べるかどうかわからないよ」
「まあ食べてくれるならそれでいいじゃん。いらなけりゃあ明日うちが食べるし」
それと併せた様に玄関のチャイムが鳴った。
「ピザ来たー(泣)」
ミクリンが皆から集めたお金を支払ってピザを持って入って来る。
「雄太!ピザ来たよー。降りといで」
弟の雄太君が降りてきた。
のっそりと両手を出すとミクリンがピザのケースとハンバーグの皿を乗せる。
「なにこれ?」
「アンドリンとアンナの差し入れ。飲み物はコー匕ーで良い?」
「コーラあるから飲み物はいらない」
それだけ言って二階に上がって行った。
みんなでピザをシェアしながら夕食を食べる。
おなかも膨らんで、一通り片付けも済んだ頃ミクリンが言う。
「順番にシャワー浴びてきなよ。湯船につかるのは無しね。長湯をすると眠くなるからシャワーだけだよ。二人一組で十分以内、時間も計るから。無駄な時間はないんだから」
「御厨、あんたは刑務所の看守か!鬼軍曹か!」
結局ジャンケンでウチとニッチが一番で、カッチンとアンナが二番、最後がミクリンの順番になった。
ウチはシャワーに向かいながら二階に声を掛ける。
「少年! これからウチらシャワーに行くからな。ラッキースケベは無しだぞ! あとフリじゃないからなー!」
「うるせー! そんなことするかよー!」
罵声が帰ってきた。
ウチは高笑いしながらシャワーに行く。
ミクリンの奴本当にタイムキーパーしてやんの。
十分経ったからって、犬のトリミングみたいに頭からシャワーかけられてシャンプー強制終了、バスタイム終わり。
「少年! お前の姉さん酷くないか。ちゃんと言い聞かせときなよ」
ウチは二階に向かって悪態をつく。
「知らねーよ! 昔からそんな奴だからもう治んねえよー! バカだから」
二階から元気よく返事が返ってきた。
「あんたねー。たまに喋ったと思ったら、実の姉に対してバカって何よ」
「うるせー! 知んねーよ!」
そして二階からクスクス笑う声がした。
みんなのシャワーが終わって勉強を再開してから一時間近く経った頃、二階から弟君がピザの空箱とお皿を持って降りてきた。
キッチンのシンクにお皿を置いて立ち去る弟君の背中に声を掛ける。
「少年。ラッキースケベタイムを期待するならもっと早く降りてこなけりゃあだぞ」
「バーカ! そんなの期待してねーよ。ブース!」
そう憎まれ口をきくと小さな声で一言付け加えた。
「ハンバーグとサラダ美味かった」
そう言うと足早に二階に駆け上がって行った。
「何がブスよ。こんな美人の姉に対して」
とミクリンはとても嬉しそうに顔をしかめて言った。
夜中を過ぎ日付が変わった頃、ウチが白目を剝きだしたので一旦終わりにして寝る事に成った。
ミクリンがブランケットを出してくれて、みんなリビングの思い思いの位置で寝転がった。
もちろんウチは持参の袖付きシェラフにくるまった。
明かりを消して寝ようとした時、玄関のドアが開く音がした。
スーツ姿のオシャレな女性が入って来る。
リビングで死屍累々状態のウチらを見て一瞬ひるんだように“エッ”と声を上げた。
「ああそう言えば姫香の友達が泊まりに来るって言ってたね。こんなに沢山だったんだ」
「こんばんは」
「お邪魔してます」
「グーグー」
「リオちゃん寝てないで挨拶しなきゃだよー(泣)」
「ハッ!アア、キョンバンワ」
噛んだ、盛大に。
「ごめんね。起こしちゃって。姫香の友達って言うからどんな子かと思ってたけど、こんなに沢山友達が居たんだ」
「なんだよ、自分の娘の事をなんだと思ってたの」
「だって、友達なんて連れてきたことなかったじゃないの」
「そんな事無い。母さんがいつもいないから知らないだけだよ」
ミクリンがムッとした声で反論する。
「それで夕飯はどうしたの」
「ピザ取った。母さんは?」
「私は済ませてきたから大丈夫よ」
「あのー。良ければアンナのポテサラとウチのハンバーグが有るんで食べてください」
「あらそうなの。それじゃあいただくわ。ごめんね起こしてしまって。ゆっくり休んで頂戴ね」
そう言うとミクリンのママはリビングの灯りを消して、キッチンに行った。
キッチンの灯りがつく。
レンジの音がチンと鳴って、ミクリンママがキッチンのテーブルに座る音を聞きながらウチらは眠りについた。
ミクリンは中学の頃、昼間に家でクラスメートに勉強は教えてました。
ただし、試験前だけの付き合いですが。
やっと一月過ぎました。
屍を晒しているのは私です。
頑張って乗り越えて行きます。




