突っ込んだら負け
ニッチは何か悟ったようです。
金曜日は授業が終わると一旦家に戻り準備を整えてミクリンの家に向かう。
「それで莉凰。そのすごい荷物は何?」
「右手のファミリアバックは勉強道具とハンバーグだよ。左手のトートはジュースと洗面道具とハンバーグ」
「それは何となく見当がついた。アーシが言ってるのは背中のバカでかいリュック」
「これはウチの着替えのジャージと下着。それからママからポテチとうまい棒とサキイカとお米。パパが眠気覚ましにってブラックの缶コーヒーと栄養ドリンクと気付けの自家製マムシドリンク。兄ちゃんが貸してくれたシェラフとコンロとメスティンでしょ、姉ちゃんに借りたシャンプーとリンスとドライヤーとヘアーピース。それから婆ちゃんがミクリンのおうちに手土産だって栗最中と紅白饅頭をひと箱ずつ。爺ちゃんは月餅とみたらし団子。それからハンバーグかな」
「なにげに全部のカバンにハンバーグが入ってるのに違和感を感じないぐらいにアンタの家族の対応が全部おかしいわ!! 一つ一つ突っ込む気も失せたわ!!」
「エ~、褒めても何も出ないよ」
「アーシはもう何も突っ込まないからね 」
そうしてバスに乗ってミクリンの家の最寄り駅に行く。
駅前でアンナとカッチンの二人と落ち合った。
ニッチはアンナの顔と服装を見て何か言いかけたがそのまま口をつぐんだ。
アンナもカッチンもウチの荷物がどうとか一言も言わなかったよ。
やはりニッチが口煩いだけみたい。
そうして四人でミクリンの家に向かった。
玄関のピンポンを鳴らすとフリースのパーカーにロングスカート姿のミクリンが顔を出した。
「イラッシャイ、ってアンドリンなにそれ?」
「突っ込んだらバカを見るから止めときなって。そんなの推して知るべしだよ」
ニッチが口をはさむ。
「あっ、ああ。ハンバーグね」
「違うし、こんなにハンバーグ持って来ないし」
「いいから、莉凰はしゃべるな。なんか莉凰の家族が差し入れを持たせてくれたらしいから、それ以上の事は聞かない様に」
ニッチが苦渋に満ちた顔でミクリンに告げた。
「わかった。肝に銘じる」
「それでアンナあんたもアンドリンみたいにリュック背負ってるけどそれは?」
「えっ、うん、これは全部試験に使う魔導書や古文書のたぐいさ!」
そう言うとフリフリのスカートの裾を左手でつまみ、カラコンを入れた赤い右眼に横ピースを当ててウィンクをした。
「うん、突っ込まない方が良さそうだね。それじゃあみんな上がりなよ」
リビングに通されたウチらは大きなローテーブルの周りに並べられた座卓やクッションに思い思いに座った。
「荷物を片付けたら早速始めるよ」
「ウチ、ジャージに着替えても良いかな。長丁場だし楽な服装が良vいじゃん」
「オッケー、じゃあみんな着替えて」
ミクリンはそう告げると人数分のマグカップと冷えた麦茶を取りに行った。
「オイ!莉凰。なんでジャージの上からシェラフを着ようとしてる!」
「えっー、だって意識飛んだ時そのまま寝れるじゃん」
「手が出ないと鉛筆持てないだろうが!」
「だから兄ちゃんが袖付きシェラフを貸してくれたんだよ。持つべきものは兄姉だよ」
「ウルサイ! バカ! さっさとしまえ」
本当にニッチは口煩い。
「ねえアンナ、リュックはちょっと除けるよ。って、重ッ―! これ何。持ち上がらないんだけど。あんたよくこんなの担いでこれたねえ」
ミクリンがアンナのリュックを持ち上げようとして驚いた顔をして言った。
「アーシもこの間知ったけど安奈ってスゲー力が強いんだ。男一人ぐらい片手で投げ飛ばせるよ」
「これは師匠が神秘の力を僕に授けたくれたのさ」
「ねえ、アンドリン。師匠ってアンタの事でしょ。あんた一体この子に何教え込んだの?」
ウチは両手で顔を隠しながら答えた。
「別に何も教えて無いから。全部龍崎のせいだから」
「なんで龍崎が関係するの?」
「それよりもミクリン、ウチの婆ちゃんと爺ちゃんがお世話になるならお礼にってこれ渡されたから。エッート、つまらないものですが」
「何これ?のし付きの菓子折りが四個って。」
「ウン、紅白饅頭と栗最中と月餅。後みたらし団子は足が速いから早めに食べてって」
「僕も我が家の仮の親がマカロンを供物にと供えてくれたので持ってきたよ」
「・・・・アリガトウ。後でみんなで食べよっか」
ミクリンがなぜか力なく笑いながら手土産を受け取った。
気弱で(?)コミ症のカッチンはこういう事には無関心です。




