もぎたてフレッシュ桃豚仮面
ヤカラ先輩の言葉が全部わかる人はサイタマでもキョウトでもダイジョウブデス。
ヤカラ先輩は額に青筋を浮かべて怒鳴り散らす。
「スッゾコラッー!シャレジャマネーゴッラー!テメッコラー!スッゾコラー!ヤッチマエコッラー!」
特殊警棒や鉄パイプやらを持ったヤカラたちがにじり寄って来る。
ウチはボンネットの上からジャンプ、アンド、ヤカラ先輩の顔面目掛けて華麗なる着地。
飛距離50cmの上空からウチの全体重が右足のパンプスに乗ってヤカラ先輩の顔面に落ちる。
ゴキュ!!
ヤカラ先輩の首から鈍い音が響く。
アイエエエ!一気にヤカラ先輩の意識は刈られた。
ヤカラ先輩は白目を剥いたままそこから後方へウチの体重が乗せてゆっくりと転倒、そして失禁。
うちが羽を出してなければ全体重がかかってこいつ死んでたよ。
「「「屋柄先輩!!」」」
ヤカラ子分たちが叫ぶ。
「おい、どうすんだ。先輩気を失ってるぜ。」
「バカ野郎。女一人に舐められてたまるかよう。」
「こっちゃあ、六人だ。それに逃がしたら先輩に焼き入れられるぜ。」
一瞬たじろいだヤカラ子分達だが気を取り直して殴りかかろうと殺到する。
ウチは背中のドラゴンウィングを一扇する。
「悪いの、悪いの、飛んで行け―。ピグレ〇ト仮面ドラゴンウィング!」
その風圧でヤカラ子分たちは押し返されてたたらを踏む。
「バカだ。バカが居る。」
「師匠、カッコいい。」
「ねえ、あれナニ。何なのあれ。」
「アンド―?あんな丸ッポ、ピンクの奴ってアンド―しか居ないよね。アンド―なの?」
「違うのにゃ!!ウチはピグレット仮面だにゃ!」
チェーン野郎がウチめがけてチェーンを一閃。
ウチはそれを左の羽の風圧でいなすと、チェーンは軌道を変えて隣のヤカラの首に絡みつく。
更にドラゴンウィングをもう一扇。
二人が風圧で吹き飛んで行く。
「とぉりゃぁぁぁ!!」
そして空に浮かぶとバールを持ったヤカラの後頭部に向かって華麗にソバットを決める。
「ねえ、ニッタ。アンド―浮いてるよねえ。ネエったら。」
「しらねー。アーシは何にも見てねえし。」
「何なのー、あれ何なのー。アタシの見間違いなのー。誰か教えてー。」
ナギサは完全に錯乱している。
着地を決めたウチはヘルメットを被ったヤカラを睨みつける。
まあフルヘルメットにサングラスでは視線は解らないだろうけどね。
ヤカラは舌打ちをするとあろうことかナイフを抜いてウチに突っ込んできた。
ナイフの刃がウチのニットを切り裂いた。
「なんて事するの!ウチのお気に入りだったのに。弁償しろよ、バカ―!」
怒りを込めてナイフ野郎のヘルメットめがけてこぶしを叩き込む。
ウチのコブシはシェードを突き破ってナイフ野郎の顔面に炸裂する。
「莉凰!!あんた大丈夫なの!!」
ニッチが青い顔で叫んだ。
「ニッチの形見のドッグタグがウチの命を救ってくれたようだぜ。」
「師匠!友情の勝利だよ――!」
「イヤ、アーシは死んでないし。そもそもGIじゃねーから、ドッグタグなんか持ってたこともないし。」
「何なのー、夢なのー。アタシ夢見てるんだよねー。夢だよねー、誰か教えてー。」
「アンド―って中坊の時から丈夫で頑丈だったけど高校入ってから何かやってるの?」
「師匠は聖龍様だから無敵だよ!」
「この子もオカシーよねえ。絶対普通じゃないよねー。それともアタシがオカシーの。ネエ誰か何とか言って。」
「クソ―!テメーらどきやがれ。」
混乱している四人に向かって鉄パイプを振り回してヤカラの一人が突進していった。
「あっ!アンナ!ニッチ!」
虚を突かれたウチが慌てて駆け寄ろうとするが、アンナが前に走り出た。
ヤカラの鉄パイプを左腕でガードする。
鉄パイプはアンナの腕に当たりグニャリと曲がった。
そしてアンナの右手がヤカラの顔を掴み上げるとそのまま放り投げた。
最後に残ったヤカラはいきなりバイクにまたがりエンジンをかけた。
アルファードの右を抜けて逃走を図ろうとしたのだ。
ウチがドラゴンウィングを一扇するとバランスを崩しヨタヨタと蛇行する。
さらにドラゴンウィングをもう一扇。
ヤカラ子分が吹き飛ばされて転がって行く。
吹き飛んだバイクは勢い余ってアルファードの右側のリアドアのウィンドを突き抜けて、そのままリアフェンダーをぶち壊した。
「重いよ、飛んで行け。デビルウィング。」
「えーと、そこは“思いよ、届け”では?」
「突っ込むところってソコ?デビルウィングじゃないの?」
「ミユキ、今日は見なかったことに、聞かなかったことにしてあげて。正気に返ったら莉凰も辛いだろうから。」
「違うにゃ!!ウチはピグレット仮面にゃ!間違うにゃ!ピグレ〇ト仮面だからにゃー。さらばだにゃ。」
ウチはアルファードのフロントに突き刺さったカブに跨ると力を込めて引き抜いた。
そしてカブごと飛び出すと地上に着地。
見事な体制でUターンすると華麗に塀の外のイワケンもとに走り去る。
「ワタシラ思うんだけど、焦るとネコ語になる奴って日本でアンド―しか居ないよね。」
「エ~そうなんだ。僕は知らなかった。リオってすごいんだ。」
「ゼンゼン凄くないわ。ただのバカだわ。それとミユキ、ナギサ、二人とも聞いて。本人はバレてないと思ってるから、アーシの顔に免じて気付かなかったことにしてあげて。」
「ワタシラもゼンメンテキに解ってるよ。助けてもらったし、ワタシラが悪いんだから。ナギサは錯乱してるからわかってないと思うし。」
遠くでパトカーのサイレンが聞こえる。
みんなが見えなくなったところで、ウチはカブに跨ったまま一気に宙を飛びイワケンの前に着地した。
「イワケン。あんたはミ〇ド前でJKの拉致現場を目撃して必死で追いかけてきて通報したんだよ。表彰物のお手柄だから胸を張って警察に言えばいいから。」
放心状態のイワケンは只コクコクと頷くだけだった。
そしてウチはカブから降りると羽を広げて一気に空高く舞い上がる。
眼下で数台のパトカーが―廃工場内に入って行くのが見えた。
イワケンは門の前で事情聴取されている。
ニッチとアンナ、それにナギサとミユキも婦警さんに肩を抱かれてパトカーに乗り込んで行った。
ヤカラ達は抵抗を見せたので警官に取り押さえられて拘束されていった。
事件も一段落。
誰にも異常が無くて良かった。
えっアンナ?きっと何かの勘違いです。




