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ショートショート5月~2回目

幻のパフェ、極上の生クリ。

作者: たかさば

学生時代、仲の良かった友人と一緒にカフェに入った。

都会に住む友人おすすめの、人気のカフェだった。


当時はやっていたマスカットミルクには、焼き立てのトーストが半分ついてきて、都会の喫茶店はずいぶんサービスがいいんだなあと感心したものだ。

お茶を飲んだらすぐに退店してしまうタイプだったので、グラスが空になった後も平然と雑誌を見ている友人を見てずいぶん戸惑ったのを覚えている。


「最近できたパフェ屋さんもおいしいよ、行ってみる?」

「うん。」


喫茶店のはしごなんてのも、初めてのことだった。

のどが渇いたら店に入り、のどを潤したらすぐに出るもの、それが私の中の喫茶店の常識だったのだ。


カフェを出てしばらく歩くと、小さな外階段の喫茶店があった。

あまり目立たない店で、見つけるのが難しそうな、隠れ家的な場所だった。


「いらっしゃいませ。」


若いお兄さんが出てきて、窓際の席に案内してくれた。

メニューを見ると、パフェがずらりと並んでいる。


「ここね、クリームがすごくおいしいの。」

「へえ。」


見たことの無い、女子女子したメニュー表に若干戸惑いながら、パフェを吟味した。

どれもこれもおいしそうで、選べない自分。

あまりパフェというものになじみがなかった私は、友人のおすすめのフルーツパフェを注文した。


「おまたせしました。」


スイーツ談議に夢中になっていたら、あっという間に注文したパフェがやってきた。

少しスリムなグラスに、イチゴ、バナナ、マスカット、パイナップルにメロン、サクランボにみかん、アイスクリーム?に生クリームがトッピングされている。


「このね、二色あるクリームの、黄色っぽい方がすごくおいしいの!」


目を凝らしてみると、トッピングされている生クリームが、二種類あることが分かった。

真っ白い生クリームと、やや黄色味のある生クリームが交互に絞り出されているのだ。


ロングスプーンで、その黄色っぽいクリームをすくって、口に入れると。


「なにこれ、え?!おいしい!!」

「でしょ!!!ここでしか味わえないの!!!」


信じられないくらい甘味が強く、今まで味わったことの無い、マッタリとしていてコクがあり、それでいてスッキリとした後味の、初めて出会った生クリームだった。

三絞りしかないのが非常に残念でならない、ずっとずっとこのクリームをなめ続けたい、そう思わせる至福がそこにはあった。


私はこのカフェの生クリームに、すっかりハマってしまった。


大学に行く途中の主要駅でわざわざ下りて、地下鉄を二回乗り換えることをまるで気にしない程度にハマったのだ。

高校時代の仲良しをわざわざ連れて行ってあげる程度にお気に入りのお店になったのだ。

全パフェメニューを二周くらいする程度にしょっちゅう通うようになったのだ。


それほどまでに通っていたのだけれど、ものすごくおいしい生クリームの正体は全然つかめないままだった。

お兄さんに何のクリームを使ってるんですかと聞いたのだけど、秘伝のレシピという事で教えてもらえなかったのである。


「え!!嘘……ない!!」


謎が解けないまま、カフェは突然、閉店してしまった。


就職活動中で一か月ほどいけなかった隙に、まさかの閉店である。

内定祝いにパフェを二杯頼むつもりで意気揚々と訪れたら、これである。

仕方がないので、マスカットミルクとトーストで内定祝いをしたのである。


極上クリームの正体がわからぬまま、ずいぶん長い時間が過ぎた。


いろいろ自分なりに研究を重ね、おそらく練乳が入っていたであろうところまでは解明できたのだが、どうも決め手に欠ける。


記憶のなかの絶品の味は、思い煩いもあってか私のなかで神聖化してしまい、もはや本物が出て来ても疑ってしまうこと必至だ。


人気のパフェのお店に入って、満足はするのだけれども、どこか不満の欠片がふわりと漂う。


極上を知っているからこそ、生まれてしまうこの悲劇。


……極上を知れた幸せの代償なのかも知れない。


新店オープンは欠かさずチェックし、きっちりパフェに舌鼓を打つ私。


パフェを探求し続ければ、いつか極上を越える生クリームに出会えるかもしれない。


そう信じて、私は今日もカフェを巡るのだ。


信じられない体重増を気にしつつ、私は今日もパフェをオーダーするのだ。


……今日は六駅歩いて帰ろう。


食後の運動を決めた私は、ロングスプーンを手に取り、フルーツの上ですましている生クリームをすくった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでるだけで幸せな気分になれました。 [一言] 黄色っぽいクリームと書いてあったので、クロテッドクリームを使っているのかも?と思いました。秘伝のレシピを自力で再現させるのって楽しそう! …
[良い点] 面白かったです! 無くなったからこそ、なを食べたい。その気持ち良くわかります。
[一言] 極上の生クリームですか。 記憶の中のパフェがどんどん神格化されてゆくの、わかります。もう食べられない、あの味。あぁ〜。
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