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気苦労を感じる11才

宜しくお願いします

年が明け、ジュリアーナお姉様とサイフェリング陛下の婚姻式を見届けてから私は帰国するフリデミングと一緒にシュリツピーア王国に旅立った。


すでにフリデミングはシュリツピーア王国、第一王子殿下として公務もこなしている。


私も負けていられない。元々フリデミングに嫁ぐ予定だったので王子妃教育は大丈夫なので、今はシュリツピーア王国の歴史、文化、習慣…この国の事を学ぶことに重きを置いている。


勉強の合間に国王妃のワスミリーザ妃が、私をお茶に誘ってくださり、観劇や遠乗り、多分子供と一緒に行きたい所だったんだろうな…と思われる菓子店や可愛い雑貨店…等、沢山お出かけしている。


そして国王陛下も娘がいたらこんな贈り物したかったんだろうな~と思われる貴金属からドレス…可愛いぬいぐるみ等…沢山買って下さる。うん、私って嫁としても娘としても大歓迎を受けているね。


そして心配していたシュリツピーア王国の貴族位からの反応は…フリデミングが事あるごとに、ハラシュリアとは赤子の頃からの仲良しなのだ!気心の知れた唯一無二の愛しい女性なのだ!(注:爆乳乳母タフネさん証言より)と周囲に叫びまくっていたらしいので、入国し正式にご挨拶した際には、生温かい目を向けられながらも好意的に受け止められていた。


兎に角


フリデミングの容姿がシュリツピーア国王陛下の外見を色濃く継いだ美形王子だったこともあり、貴族位の方々も安堵し、11才ながらも聡明で真摯な物腰のフリデミングの様子に皆が『賢王再来』と熱狂しているらしいのだ。


そんな未来の賢王が大きな図面の画紙と分厚い資料の束を持って、貴族名鑑と歴史書とにらめっこしている私の所へやって来た。フリデミングの後ろには内務省と地方役人の方々の姿が見える。


フリデミングはすでに地方開発事業を任されており、この地方役人方は今取り組んでいる地方の方だと思うけど…?


「ハラシュリア…貴女の方が詳しいかと思って…フートロザエンドの商業施設の計画案、シュリツピーアでも作ろうかと思って…ただ素案を出したら、周りから反対されちゃって…」


スクリウペクトにあったルータン地区のアレね。そういえばハ……のお父様も問題が色々出てるんだ~ハラシュリア助けてぇと昨日手紙が来てたっけ…近いうちに帰っておこうかな。


そうしょんぼりしてフリデミングと役人の皆様は私の座る長机の前に座り、一様に肩を落としている。


「フートロザエンドでも問題が出てるみたいだし、参考までに素案見せてもらっても構わない?」


「いいよ」


フリデミングが躊躇いなく私に計画案の書類を渡したので役人の人達はちょっと慌てている。


フフフ…前世の職業、元内務省地方産業推進課の部長の腕前を見せる時がきたようね!


私は計画案を見ながらフリデミングに聞いた。


「どうして反対が出てるの?」


「人が集まると治安が悪くなるって…地方の村の人達から…それを踏まえて尚、利が出る事業なんだけど…」


ふんふん、なるほど。地方活性化に大型複合商業施設は観光の目玉にもなりうるものね…私は最近読んだ、この国の軍備施設と地方警備の在り方なるお堅い本の内容を思い出していた。


「だったら複合施設内に警邏詰所を作ったら?」


「へ?」


「施設内に…ですか?」


「ですが、警邏は王都からお越し頂くには時間が…」


私は皆の顔を見回しながら、素案の問題点を書き上げていった。これ、フートロザエンドでも問題になってそうだしね。


「そもそもだけど、警邏部隊を王都のみに駐在させて、地方警備は村や領主の自警団任せ…魔物魔獣が出没した時だけ軍が動くって…非効率的だし、軍備力維持に経費がかかり過ぎるわ。せめて警邏部隊を王都にだけではなく、地方派遣型の部隊に再編して、各主要領地…まずは公爵領、侯爵領を含む10か所、警邏の地方部隊を創設するべきだと思うわ。そうすれば複合施設付近に配置して治安悪化の抑止力にもなるし、ゆくゆくは地方警邏部隊はその地域から隊員雇用を薦めればいいし…いい?フリデミング。地方の皆様に説明する時にこの警邏部隊の件と、後は…そう…ゴミ問題は必ず出てくる懸案事項だから、先に不安要素を潰すようにしてね。後、今回の複合施設の誘致事業は地方雇用に繋がり、複合施設関連の雇用だけでも8000~10000人の雇用が生まれることをしっかりとお伝えしてね。純然たる大きな利益の前に人は不確定要素のある懸念には目を瞑るものだから」


「うん、なるほど…よしっ!分かった。ありがとうハラシュリア。でも地方領に警邏を置くのを各領主に反対されないかな?」


「……」


「……」


フリデミングがサラサラと紙にペンを走らせている音だけが聞こえる。周りの大人達は固まって呆けている。あら…やり過ぎたかな?


私もフートロザエンド用に走り書きで要点を書きながら、ちょっと考えてから口を開いた。


「地方領の自警師団が警邏を兼任してくれるならそれでよし、よ。その時は特別手当を国から出す形で経費を負担する方向で話を進められるのじゃないかな?」


「ああ、そうだね。警邏部隊の新設でも雇用が生まれそうだね」


「地方の子供の就職難問題の懸念材料が一つ減ればいいわね」


「どうしても、子供の数が増えると地方では就職出来る道が少ないからな…皆が家の家業を手伝える訳では無いし…」


「その為の地方産業推進でしょう?」


「……あのハラシュリア様」


今まで黙っていた内務省のおじ様がやっと私に声をかけてきた。


「はい、何でしょうか?」


「ど…どうしてそれほど詳しく…」


私が答えるより先にフリデミングが椅子から立ち上がった。皆が賢王再来を一斉に見る。


「当然だぁぁ!俺の愛しき伴侶だからな!」


私は馬鹿を鋭く睨みつけてから内務省のおじ様を見た。


「馬鹿はほっておいて…私の実家の公爵領でも地方再生事業を推進しておりましたの。そこで私も参画させて頂いていて少し知識がありましたの」


「おおっ!」


おじ様、お兄様から感嘆の声が上がる。ああそうだ…ついでだし


「ちょっとフリデミング、私1日…いえ3日ほどフートロザエンドの実家の方へ戻っても宜しいでしょうか?」


フリデミングはキョトンとして私を見た。


「何かあったの?」


「父が助けて、と手紙を寄越して来たので…恐らく複合施設の建設案で揉めているのだと…先程出ました判断材料を持って様子見をしてきます。逐一ご報告は入れますので」


「ああ、頼んだよ」


「……」


「あのフリデミング殿下…」


今度は地方役人のお兄さんがフリデミングに声をかけた。


「なんだ?」


「殿下とハラシュリア様は…その、何と言いますか…普段からこういう会話をされているのですか?」


「ああ、うん。それにフートロザエンドの兄上達も皆こんな感じだよ?」


「凄すぎる…」


「流石賢王兄弟…」


私はそのまま帰って行ったフリデミングを見送ってから、本を片付けて纏めた書類を事務鞄に入れた。未来の国王妃が働く事務官みたいな所持品だけど、お洒落鞄なんていちいち持っていられない。


ん?私は扉の横に立つ公爵家から連れて来ているメイドのリーネを見た。もう1人がいない…確かアレニカよね?


そして急いで廊下に顔を出してウンザリした。フリデミングの後を付いて行こうとしている護衛のルベル=ビジュリア卿の横にべったりとくっついているアレニカの姿がある。


これだからイヤなのよね…


私は廊下に出ると、ルベル=ビジュリア卿に近付いた。ルベル卿はすぐに気が付いて、私に苦笑を向けてこられた。


いつもいつもすみません…ああ、少し先でフリデミングが気が付いて、戻って来てるよ?フリデミングはさぁ~仕事をきっちりこなすメイドには優しい対応だけど、こういうメイドには結構厳しめよ?


「アレニカ、ルベル卿は任務中です。下がりなさい。」


私がそう言うと、アレニカはハッとして…唇を噛み締めるとルベル卿から少し離れた。


私はルベル卿に淑女の礼をした。


「ルベル卿…うちのメイドが大変ご迷惑をおかけしました」


「ハラシュリア様、お止め下さいませ」


ルベル卿が私の前に跪いた時に、憮然としたフリデミングがちょうど到着した。


「ルベルもこんなの、もっと強くあしらったらいいんだよ、なあ?そう思わないか?」


ああ…そうですね!…とフリデミングに賛同して言いたいところだが、あしらいたい本人が目の前にいるのに、しかもこんなの…と称されてしまったうちのメイドを更に貶す訳にもいかない。


はあぁ…今回のシュリツピーア王国に私が行くと決まった時にメイド選びで揉めたのよね。一緒に行きたいと手を挙げてくれた子が6人もいて…お母様も困って結局、2ヶ月間交代制で適性を見ましょう…で落ち付いたんだけど、始めたばかりの最初の2人で片方がコレじゃあな…


手を挙げてくれたメイド全員がルベル卿目当てだと言われても仕方ないよね。今、部屋に控えてくれているリーネは私が赤ちゃんの頃からの側付きだし、一番信頼しているから彼女は問題ないけれど。


もうリーネでだけでいいかなぁ…自分のことは自分で出来るし。ただリーネだけは大変だろうし、私付きになっちゃったらリーネが婚期逃しちゃうかも…とそこが気になってしまう。悩ましいな…


一度リーネと面談だな!


私はフリデミングとルベル卿に再度謝罪してから皆様を見送った。


「アレニカ…あなたが私付きのメイドとして名乗り上げてくれた時にとても嬉しく思いました。国から離れ、他国に嫁入り…お互いに不慣れで心細い時も主従の関係とはいえ、支え合って過ごせると思いました…」


アレニカは俯いて下を向いている。


「本日、国王妃にもご許可を頂いた後、母国フートロザエンドに一時帰国したいと思います。お前は帰国後もここへは戻らず公爵家に残りなさい、以上です」


「そっそんな…」


アレニカは食い下がろうとしたのか私の手に縋った。


「私…が、頑張ります!頑張りますから認めて下さい!」


何を認めるというのだろうか?まさかルベル卿とお付き合いしたいんです…とか先走ったことを言うつもりかな?聞くの怖いな…


「何を認めて欲しいと言うのですか?」


「言われたことをちゃんとこなします!お嬢様のお世話もキチンと致します!だからここにおいて下さい!」


はぁ…大きく溜め息が漏れる…これは実家に送り返すどころの話ではないかもしれない。お母様に再教育か面接して頂いて適性を再検査して…それでもダメなら解雇もあるかもね


「言われたことをキチンとこなすのは職業人と当たり前で当然のことです。今キチンとしますという事はここに来て5日ほどですが、全てに手を抜いてルベル卿をずっと追い回していた…ということで間違いないということですか?」


アレニカは顔を強張らせた。


何も好きな男性を追いかけるのが悪いと言っている訳ではない。追い回しの犯罪はいけないが、気になる男性に声をかけてみたい、という気持ちも分かる。ただ、仕事をサボりルベル卿に迷惑をかけ、恐らくリーネに仕事を丸投げしていたという事に腹が立つのだ。


リーネは大人しいしな…そう言えば手を挙げた他のメイドって全員リーネの先輩じゃないかな?これは駄目だね。


「リーネ、一時帰国の許可を貰いに参ります、付いて来て」


「…はいっ!」


リーネは部屋から出て廊下の隅で気配を消していたが、慌てて返事をすると私の後を小走りで付いて来た。


「どうして言わないの?いつもおしつけられていたのでしょう?」


「あ…でもそれほど忙しくないですし、お嬢様は必要最低限のことは全部ご自分でされていますので…」


はぁ…これこれ!リーネは人が良すぎて騙されやすいというか善良すぎるのよね。


ああ、もう頭痛いなぁ…若干11才の私にはやることも考えることもいっぱいあり過ぎて参るわぁ。


私は急ぎ足で国王妃の公務室に向かって足を向けた。



ブックマーク、感想ありがとうございます^^とても嬉しいです

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