激しい妄執
誤字修正しています。
扉の向こうからジュリアーナお姉様とサイフェリング陛下が入って来るのが見えたので、お姉様に駆け寄った。
「お姉様、怪我は無い?大丈夫なの?」
ジュリアーナお姉様は女神のような笑顔を見せて、駆け寄った私を抱き留めてくれた。
「危ないことはなかったわ。行方不明に見せるように魔力遮断の魔法を駆使してね~」
「詳しい話は後だ…」
サイフェリング陛下はお姉様を促して、シュリツピーア国王陛下夫妻の元へ向かった。
やっぱり似てる…。
シュリツピーア国王陛下もサイフェリング陛下もお互いに凝視している。国王妃はサイフェリング陛下を見て嬉しそうに頬を染めている。
「これは驚いたな…私の若い頃にそっくりだね」
「本当ですわ…陛下の若い頃にそっくりね」
サイフェリング陛下は珍しく破顔した。
「初めまして伯父上、サイフェリング=フートロザエンドです」
と言った途端、シュリツピーア国王陛下はサイフェリング陛下を抱き寄せていた。
「うん…よく頑張った。まだ若いのに戸惑ったり困ったことも多かったろう?よく頑張った…」
シュリツピーア国王陛下はサイフェリング陛下の頭を撫でてそう静かに語りかけた。
サイフェリング陛下は自分より頭一つ大きい偉丈夫の伯父様の肩に顔をうずめている。泣いているのかもしれない…ちょっと肩が震えている。
やっぱりサイフェリング陛下は泣いていたようだ。目が赤い…ジュリアーナお姉様が慈愛の籠った目でサイフェリング陛下の背中を擦っている。
「皆よく来てくれたね。いや~うんうん皆、気骨のありそうな子ばかりだね!こりゃ楽しみだね」
そう言ってシュリツピーア国王陛下は満面の笑みだ。国王妃は何故か泣いていた。ララヴェラ殿下がそんな伯母様に寄り添っている。
それにしても…王太后様はいないけどどうしたんだろうか?
私が不審に思ってライトミング殿下を見ると、フリデミングがそんなライトミング殿下にちょうど声をかけていた。
「兄上…母上はどうしたの?」
ライトミング殿下の顔が一瞬強張った。それを見逃すフリデミングではなかった。
「母上に何かあったのか!?」
フリデミングが素早く駆け出した!早っ!?…と思った瞬間フリデミングの体はライトミング殿下に抑え込まれていた。
もっと素早い人がここにはいたんだった…
「落ち着けー母上が国に残るって言ったんだ。やっぱり信じてみたいんだって…俺には夫婦の心情は分からんけど、母上のやりたいようにしてあげたい。警備は暗部の精鋭と母上の従兄弟の大将閣下にお願いしてる、心配はいらん」
「嘘だっ母上だって危ないんじゃないか!?だって…あの人っハラシュリアにまで…っ」
私…?言いかけてハッとして止めたフリデミングの顔とライトミング殿下の横顔を見詰める。
「兄上だって…分かってるよね!?あの人…」
「少しは黙ってろ!」
フリデミングに一喝したライトミング殿下は、暴れるフリデミングを小脇に抱えると私の前に歩いて来た。
「え~とハラシュリアは聞いてるかなぁ…うちのあの人、結構えげつないおっさんなんだわ。兄上にも充分警戒しろって言われてたから、隠れて護衛はついてたんだけど、何回か危なかったんだよ」
護衛…危なかった…まさかっ!?
「ハラシュリアは俺が守るからっ兄上は黙っててよ!」
暴れて、ライトミング殿下の腕から逃れたフリデミングは、私に抱き付いてきた。うぉぉ…苦しい!?本気で絞めるなぁぁ…すると今度は背後から首を絞められた!?犯人はジュリアーナお姉様だぁ!
「ラシーになんてことっ…!」
ぐえええぇ死ぬ死ぬ…
私が半分白目を剥いている横で、サイフェリング陛下とシュリツピーア国王陛下は話を進めている。
「まさかハラシュリアちゃんにまで刺客を?」
「父上にしてみればフリデミングが一番の年少で御しやすいと思っていたようなのです。ところが子供の時からハラシュリアがフリデミングの横にいる。何故だかフリデミングが懐いて来ない。ハラシュリアに懐柔されていて自分の邪魔をされていると思っているようです」
「何てことなの…」
シュリツピーア国王妃が青褪めている。
シュリツピーア伯父様国王は顔に手を当てて何度も深呼吸している。
「今考えると、あいつは…子供の時から歪んでたのかな」
歪む…確かに歪んでいる。兄妹だから子供だから、害するなんておかしい…ではない。人を傷付けてはならない。皆に優しい人になりましょう…あの前国王陛下夫妻の子供なら歪むなんてことにならなさそうだ。
「最初から生まれ落ちた時から…生きてる次元が違う感性の持ち主が居ます。どんなに時間が経っても場所を変えても、価値観や常識がまったく噛み合わない人が居ます。その人にどんな正論や常識を訴えても響きませんし理解も得られません、生きる場所が違いすぎるのです」
私はクリシュエラの時の実姉のマベリュカナお姉様を思い出して、思わずそう呟いていた。私の突然の人生の大先輩っぽい発言に大人達は驚いていたが、すぐに沈痛な面持ちになった。
マベリュカナお姉様とは価値観やモノの考え方がまるっきり違っていた。ライゼウバークは全部は教えてくれていていないと思うけど、あの姉は裏ではもっと陰湿な事件を起こしていたのではないかと思っている。
ただ悲しいことに彼女は王族だった。どんなに非道でも頭のおかしい人でもよほどのことがない限り、罰せられない。
ライゼウバークには言っていないけど、寝所で寝ている時に冷水をぶっかけられたことも多々ある。何が面白くて大笑いしているのかは知らないが、私が転んだりずぶ濡れになったり、服がボロボロになったり、怪我をしているのを見てマベリュカナお姉様はいつも大笑いをしていた。
あれが笑うほどおかしいことなものか…
「ベネディクルは…そんなに私やマクリアル兄やリクツェルも嫌いだったのかな…」
私が何かを言う前にフリデミングが私を抱き締めながらきっぱりと言い切った。
「違うよ伯父上。嫌いとか好きとかじゃなくて、皆を傷付けてもそれが悪い事だと思ってないからなんだよ。毒を飲ませても、殴っても蹴っても…痛いと言っても共感出来ないんだよ」
フリデミングの体は震えている。私がマベリュカナお姉様にされていたことを、もしかしたら後からしったのかな?そうだね…私が死んだ後、絶対に黙っているように頼んでいたメイド達や侍従が全部暴露していたのかもしれないね…それか、体が傷だらけなのがバレたのかな…
「同じように分け隔てなく育てたつもりなんだけどな…」
「どうしてああなってしまったの…」
前国王陛下夫妻が茫然としたまま呟いている。そうだよね、同じ兄弟として育てたはずだよね。でも根っから感覚が違うと思うんだ。だから私達の常識を当てはめて考えてはいけない。
そうだ…
「ねえ、転移陣で戻って様子だけでも見に行かない?」
私はフリデミングにそう聞いたけど、それはすぐにライトミング殿下に制された。
「悪いがそれは無理だ。俺達が転移陣で移動してすぐに姿を隠した後に一度、フートロザエンドに戻ろうとしたけど、転移が遮断されてしまった。恐らく向こうの転移陣が起動停止しているんだろう。暗部から連絡があって、普通は混乱を呼ぶ為に隠すであろうサイフェリング陛下の行方不明を瞬時に発表して、『全権は私が預かる』とあの人は宣言したらしい」
「早ッ!」
「余程嬉しかったんだよ…馬鹿っぽい」
フリデミングとケールミング殿下の声に、不謹慎にも吹き出しそうになった。
喜々として玉座に座っているあのおじさんの姿が目に浮かぶ。
□ ■ ◆ ◇ □ ■ ◆ ◇
何てことだ…子供達が挙って留守にしている時に、サイフェリングとライトミングが行方不明だって?思わず笑いそうになるのを堪えるのに苦労した。
自分の子供だとはいえ、勘のいい頭の切れる息子達…特にサイフェリングの奴はシルフェベルにそっくりじゃないかっ!まるであいつに見下ろされているようで頭にくる!
なんだ?もしかしてあいつら全部シルフェベルの子供なのか?ああ…そうか皆あの上っ面だけは良い馬鹿な男に騙されて媚びへつらっているんだな。
ミーナヴェラの奴…貞淑そうなフリをして、シルフェベルとか…笑えるな。皆、低俗な馬鹿ばかりだ…そんなあいつらを…やっとサイフェリングを引きずり落とすことが出来そうだ。
「…っふ…くっ」
笑いを堪えるように口元を押さえていると、私の後ろで宰相が慌てた声をあげている。
「陛下と殿下を発見すべく、懸命な捜索をしております!お気を落とされないように…」
「……そうだな、漏れが無いように隅々まで捜してくれ」
時間をかけてゆっくりとな…
「はいっお任せ下さい!」
「その間にサイフェリングの仕事を全て引き受けよう。」
私が永遠に全てな…くくっ
□ ■ ◇ ◆
「という訳でして、陛下がお戻りになるまでミルトマイデラ公が全権を執られると…」
宰相閣下は王太后のミーナヴェラにそう告げたけど…心配だわ。
何が心配かって言えば、ハラシュリアがシュリツピーア王国に行っている上に、ジュリアーナまでもが行方不明の芝居ですって?ジュリアーナは性格上喜々として演じてくれると思うけど
「ハラシュリアはねぇぇ…あの子、負けん気だけは強いからミルトマイデラ公が我が物顔で玉座なんかに座っているのを目にしたら、公に飛び蹴りとかしてしまいそうだわ…」
するとミーナヴェラは目を剥いて私ににじり寄ってきた。
「そうよねぇぇうちのフリデミングもすぐに怒るからねぇ~ベネディクルをぶん殴りそうで心配だわ~ねえっちょっと!フリデミングとハラシュリアの2人はこっちに来れないようにされているのよね?」
宰相閣下はあたふたしながら頷いている。
「転移陣が起動しないように、魔術師団の者が細工をしている所を押さえまして反乱分子として拘束していますので、ご心配なく。起動停止は想定内のことだということでこのまま停止させたままでよい、と陛下から指示を受けています」
私は頷いた。
それにしても、ミーナヴェラの私室に大将閣下も一緒に居るこの状況…これって軟禁状態なのよね?外には護衛と称して近衛がいるけど、あの子達味方なのかしら?
「ご心配には及びませんよ、ミーナヴェラ様。ライトミングから説明は受けています。ご不便ですがこのまま待機で」
と、ミーナヴェラの従兄弟のカサベランド閣下が微笑んでいるけど…はぁどうしよう。ミーナヴェラに呼ばれて慌てて出て来たからルディシードに言付けて行くのをすっかり忘れてたわ。私もジュリアーナも登城したまま帰って来ない…挙句にハラシュリアはシュリツピーア王国に父親だけに黙って新婚旅行(仮)に出かけているなんて知ったら…
「ルディシードに知らせないまま登城しちゃったわ。あの人が心配し過ぎて益々……ハ…ゲしく困らせてしまうわね…」
ミーナヴェラが、そうなの~?と言って魔ペンと魔紙を差し出してきた。
「手紙で知らせましょうよ。じゃないと益々ハ……ゲしく心労をおこしてしまうかもしれないしね」
ミーナヴェラに気を遣わせてしまったわ。
「そうするわね、え~と全て陛下の御心のままに動いておりますので、ハイリットとマーグリットにも伝えて下さい。ご心配はありませんのでどうぞ心労がたたりませんように…と」
「心配よねぇ」
「ええ、本当に心配」
娘達の心配より家に残っている男達の方が心配だわ…ハゲ…しい勘違いでも起こして騒いでないといいんだけど。
何度も〇〇連発してすみません^^;
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