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囁き王子

隣国とはいえ移動は馬車だろうと思っていたが、実はこの国にも『転移陣』がある。今回はソレを使うらしい。しかも前世の時より大分進んでいる仕組みになっているそうだ。(フリデミング調べより)


この進んでいる…という表現には語弊がある。厳密にはこの世界にも転移陣があるようだという表現の方が合っているはずだ。


そう…フリデミングと一緒に世界地図や歴史書等を確認したのだが、この世界に前前世のバンティラード王国や前世のスクリウペクト王国という国は存在しなかった…とみている。過去を遡り、数千年前の古文書を辞書を片手に読み解いたが結局分からずに途中で諦めた。


過去が何だと言うのだ。昔の言葉を喋れて何か役に立つか?古文書にも登場しない国の言葉、歴史や文化など、今現在の生活に何の影響も無いと気が付いただけでも収穫だった。だが…


「俺はジョフィアードの時に今のハラシュリアみたいに探し回って分からなくて諦めたから、気持ちは分かる」


「じゃあなんで私が探すのを止めないのよ?」


「だって一生懸命なのに、無駄だから止めろとは言えないよ」


変なところで優しさを出してくる元殿下、現殿下…だったら早く言えっ!


そんなで現殿下フリデミングと私、爆乳乳母のタフネさんと侍従のフーレイさんと近衛のお兄様の6人はシュリツピーア王国へ行く為に、王宮の専用転移陣の前にいる。


「取り敢えず王都に向かいまして、王城に登城致します」


侍従のフーレイさんの説明に頷いてからちょっと機嫌の悪いフリデミングの顔を見た。


「まだ気に入らないの?」


「だって全然偵察じゃないじゃないか!シュリツピーア国王陛下の伯父上にお会いして、お爺様とお婆様…親戚一同と会食でその夜に夜会だなんて!正式訪問と変わりないよ」


「誰が潜んで潜入すると申しましたか?そんな危険な任務を殿下とハラシュリア嬢にお任せするはずございませんでしょう?正式に訪問しつつ偵察です、分かりましたね?」


近衛の副団長の強面のラプリーさんの巨体に上から見下ろされながら諭されると、反論は出来ない。


「はい…」


「畏まりました」


怖いので逆らえない。いや、逆らわない。実は小さい動物が好きだそうで、騎士団詰所の裏庭で仔犬を二匹飼っているなんて…ふくだんちょー可愛いですね!なんて、怖くて言えない。


正式訪問…それでも私は非常に緊張している。つばの広い帽子を更に被り直すと、転移陣の起動を見詰める。私は特に難しい偵察業務は指示されていない。 王族のご親戚の子女や子息…その方々からナナヴェラ殿下の婚姻相手らしき男の素性を探ること。これだけだ…


「普段と同じく、一方的に話しかけてけむに巻いて来ればいい」


とサイフェリング陛下に言われたが、それって厚かましい女という意味ではないだろうか?私、陛下から馬鹿にされているのか?青二才め…ちっ。


資料として預かったシュリツピーア王族の系譜や派閥等は頭に全て入っている。


フリデミングの父親、ミルトマイデラ公はシュリツピーア王国の元第四王子殿下だ。第四王子と言ってはいるが、厳密には第二王子だ…。第一王子は落馬事故で死去。第三王子は病死。


非常にきな臭い。


どこかの兄弟達とは大違いだ。自動的に第二王子になったミルトマイデラ公だが、どういう理由かは分からないが、フートロザエンド王国に王配として婿入りしている。


これまたきな臭い。


「そんなもの王位争いに負けたからだろう?」


フリデミングもう少し、色々包んで話そうよ。そりゃそうだろうけどね。また私達はヒソヒソ話をしているフリをしてシュリツピーア王国の内情についてあれこれと話している。


「そう言う訳で父上と伯父上は仲は良くないので、俺は初めての表敬訪問だ。兄上達が暗部を使って探りを入れるのを渋ったのは、父上達の件でフートロザエンドが父上と共闘していると思われるのを避けたいんだ」


「兄弟喧嘩を国政に持ち込んで欲しくないわ」


「多かれ少なかれ性格が合わず、好まないから争いが起きるんだろう?」


ごもっとも…だけど、それに巻き込まれる国民の犠牲を考えろと言いたい。


そして王宮専用の転移門から直接、シュリツピーアの王宮内に転移した。瞬き一つの間だった。一瞬、体が強張った…前世で転移中に亡くなったことを思い出したからだ。


手を繋いでいたフリデミングが体が強張った私に気が付いて


「どうした?大丈夫か?」


と聞いてくれたので、何とか微笑んでみせた。ちょっと焦ったけど大丈夫だ。


「ようこそシュリツピーアへ、フリデミング殿下」


転移先は大きな温室がある庭だった。そこに沢山の人がいた。一歩こちらに近付いてきた偉丈夫の方を見て息を飲んだ。


「サイフェリング陛下…」


そう…うちのサイフェリング陛下にそっくりだった。フリデミングもタフネさんも近衛のラプリーさんも皆、一瞬固まったが慌てて礼をしている。


私もフリデミングも腰を落として礼をした。


「やあよく来てくれたね!今か今かと待っていたんだよ」


言い方までサイフェリング陛下に似ている。そしてフリデミングと私に手を差し出された。


「いや~可愛いね!幾つだっけ?」


「11才です」


フリデミングが差し出された手にゆっくりと手を重ねたので、私も不敬だと思うけれど国王陛下の手を取った。


ゴツゴツした武人の手だった。感じる魔力は…フリデミングによく似ている、伯父と甥だもんね。


「私は子供がいないからね、唯一の肉親は弟の所の君達だけなんだよ~」


そう言いながら私にも笑顔を向けてくれる国王陛下。事前に調べていたシュリツピーアの内情とは少し違う印象を受けた。


4人居た王子殿下の内、2人が死去。そして一番下の王子殿下は隣国に出ている。きな臭いけど国王陛下は非常に穏やかな人柄っぽい。それは…それだけではない何かがあるのか?


私達を見るシュリツピーアの国王陛下の目は優しい。感じる魔力も不快な感じはしない。どちらかというとミルトマイデラ公の方が嫌な感じなくらいだ。


フリデミングも気が付いたのだろう?困惑したような不思議な顔で伯父である国王陛下を見上げている。似てるな…この2人の方が親子みたいだ。


確か国王陛下は国王妃との間に御子様はいない。次期国王は従兄弟の子供…2人のうちのどちらか…ということになる。


その従兄弟の子供があの2人かな?


少し離れて立っている男の人達。1人は見事な赤髪のちょっと強面顔の17才の男の子、もう1人は金髪の優し気な顔立ちの21才だけど…本当に優しいかはどうなんだろうね。


どうもね、嫌な予感はするんだよね。


この私とフリデミングがいきなり偵察を指名されるということにも何か裏を感じるし…現にフリデミングも少し顔を強張らせている。


元近衛騎士、そして元軍属の魔物討伐に出ていたくらいの魔剣士だ。それに二回も王族をやっている…私よりは王族やその裏の陰謀的な何かを嗅ぎ分ける嗅覚も持ち合わせているはずだ。


フリデミングに目配せをすると、フリデミングは小さく頷いてくれた。


大丈夫だ、フリデミングの危機管理能力はしっかり稼働している。


王宮に入り、恐らく王族の私室で何故だかフリデミングの伯父と国王妃の嫁と4人にされてしまった。ああ、やっぱり嫌な予感がする。


「サイフェリング陛下か前国王陛下から何か聞いているかな?」


対面に座られたサイフェリング陛下に激似の伯父様国王は、ニコニコしながらフリデミングに目を向けた。


「直接は…ただ、私が知る表向きの理由でここに来ているとは思えません」


「そうか…表向きはベネディクルの良からぬ算段で、姪御が泣き暮らしている憂いを取り除く為だったかな?」


「陛下…」


隣に座られた国王妃が苦笑しながら、伯父様国王の太腿を小突いている。


「いやいや…実弟とはいえ、ベネディクルは小賢しい男で申し訳ないな…と実子のフリデミングに言うのもおかしいか?面倒臭い男だろう?お前の父親は」


「はい、とっても」


フリデミングは即答していた。もっと色々包んで話そうよ!


国王妃がそんなフリデミングを見て苦笑されていて、私と目が合ってまた苦笑を返された。どうやら国王妃は伯父様国王と仲良くしていらっしゃるみたいだ。


国王妃に窘められた国王陛下はちょっと口を尖らせている。フリデミングの不機嫌顔にそっくりだ。


「サイフェリング陛下からおおよその話は聞いている。その内情を聞いて自分の子供()()同じようなことをするのだな…と正直失望しているが…」


「…というと?」


「私を含めシュリツピーアには4人王子がいたが2人は身罷ってるのはご存じかな?」


私とフリデミングは頷いた。


「私と第三王子のリクツェルはベネディクル…ミルトマイデラ公に子供の頃からずっと囁かれ続けていたんだ『兄上を退けて王位を奪ってみないか』と…」


「…!」


私とフリデミングは思わず見詰め合ってしまった。シュリツピーアでも同じような『簒奪』を唆してきていたのか…あの人は。


「正直なところ、王位は面倒だと思っていたし…兄上にやってもらえれば私もリクツェルも楽だと思っていたと…思う。だがベネディクルは一緒にやろう…とずっと言ってくるんだ。正直、気味が悪かったしリクツェルなんて毛嫌いしていたよ。でもそんな時に兄上が落馬事故で亡くなって…俺もリクツェルもベネディクルが何かしたのじゃないかと疑ったんだよ」


「実際は…どうなのですか?」


聞き返したフリデミングの声は震えていた。


「限りなく黒に近い…かな。決定的な証拠は何も無かった。だが父上はベネディクルを他国に出すことにした…父もはっきりとは言わなかったが、取引のようなものをしたのだと思う。公にしない代わりに大人しく婚姻を引き受けろ…ということかな。だがそれがベネディクルにとっては屈辱になったんだろうね。フートロザエンドの姫君は非常に賢く美姫で王配として望まれるには最高の婚姻相手だと思うけどね…」


そう言って笑った後、伯父様国王陛下は苦々しい顔になった。


「その後は弟は病で亡くしたし…私は子無し、妃にはどうやら私は種無しのようだから、早く見切りを付けて若い男でも作りなさいと言ったが今もこうやって側にいてくれる」


あらまあ、お2人は見詰め合って微笑みあっている。


「国王陛下…」


「伯父様と呼んでおくれよぉ」


「……」


意を決して呼びかけた私に、何だそれは?


サイフェリング陛下と話しているような、のらりくらり感と同じものを感じるね。


「第二王子殿下は本当に病死ですか?それと国王陛下は何かの障害を負わされておりませんか?」


「ハラシュリア!」


フリデミングが血相を変えて私を見たが、何か間違っているかね?私はあの欲の皮が張った中年は結構えげつないことをしていると思っているのよ?


「フリデミング殿下、不敬を承知で申しますが…私、あのおじさんのことを全然信用しておりませんのよ?何ならナナヴェラ殿下に恥をかかせた憎き悪漢で、ガガリアの羽虫ぐらいの存在だと思っておりますのよ?」


「まあっ!」


思わず国王妃が声を上げた。ガガリアに反応されましたかね?あの羽虫は全世界共通の気味の悪い虫ですものね。


「ナナヴェラ殿下は少し年上のお友達だと思っておりますもの。私の大事な友達の趣味を暴き、嘲笑うなんて許し難き所業です」


「そう言えば、詳しく聞いてないのだけどナナヴェラちゃんはどうして婚姻を強要されたのかな?」


国王陛下と国王妃が私に顔を近づけて来られたので、私は説明した。


「趣味でお買い求めされた大人向けの読み物を、皆の前で取り出されて『破廉恥だー』とやられちゃったんですよ!?年頃の娘さんに対してそんな恥のかかせ方ってありますかぁ?しかもこんな破廉恥な娘は育て方が悪かったんだってっ自分の娘を下げる親がどこにいますかってっ!異性の父親に自分のエロイ趣味を暴露されるなんて、乙女としちゃ黙っていられないことですよっ!」


「まあっ!?なんて酷い…恥ずかしすぎるわ!」


国王妃が顔を真っ赤にして賛同してくれた。国王陛下はキョトンとした顔のままだ。


「伯父上すみません。ハラシュリアは興奮すると、つい…言い過ぎて…」


「何を言っているのよっ全部真実じゃない!?」


何故だか私を制そうとしたフリデミングの手を叩き落としてから、国王陛下に向き直った。


「あんなガガリアみたいな人は踏みつけておけばいいのよ!…………不敬でございました、失礼いたしました」


流石にポカンとしてる国王陛下に気が付いて急いで謝罪しておいた。首が胴体から離れてしまう…!


一拍置いてから国王陛下は大爆笑した。


ヒィヒィ言って笑っていた。笑い過ぎて足を攣っていた…



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