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恋愛師匠

お話が前後してしまいました。前話の正式婚約の前の話になります。

今日はフリデミングとお忍びで外出だ。


まあ…一応婚約者だし~と、心の中で言い訳を重ねているが実はフリデミングと出かけるのは楽しい。元、百戦錬磨のモテる近衛の生まれ変わりなので、女性の心情を読むのが上手いからだと思う。


私が行きたい所や興味のある場所、流行のもの…私との何気ない会話の中から私の為に準備していて、さり気なく情報をくれる。だからかな~まだ10才なのに年上のお姉様にモテるんだよね。


フリデミング曰く


「俺は年下が好みだ」


「それ聞きようによっては犯罪臭がするから気を付けた方がいいよ?今のあなたの年齢じゃ年下って言ったら幼女じゃない」


私が馬車乗り場で世間話のついでに注意すると、フリデミングはムスッとした顔をした。


「年上も付き合ったことがあるけど、教えてあげるわよって上から目線の女が多くて苦手だ。俺は教える方がいい」


「変態臭い…」


私がそう言うとフリデミングは益々ムッとした顔をした。馬車が来たので、フリデミングにエスコートしてもらいながら馬車に乗り込む。


「言っておくけど、犯罪まがいの年齢の女性を口説いたりはしていないからな!その…俺にも好みがあって…」


「はいはい」


それは…詳しく言わなくてもいいよ!何かモヤモヤするからさ。分かってるんだよ?そりゃ前前世でモテてるのをよく目にしていたし、実際ライゼウバークの馬鹿が自慢話をしてきたりしていたから、その当時もモヤモヤしたし…分かってるから!


「人を好きになるってあんなに周りが見えなくなるのかな…」


馬車の中から男女が連れ添って歩いている姿を見て、陛下とジュリアーナお姉様を思い出した。思わず呟いたら、フリデミングは私と一緒に馬車の小窓から外を眺めながら


「陛下とジュリアーナ様のことか?」


と聞いてきた。私が頷くと、フリデミングは腕を組んでう~んと唸った。


「恋愛をしている時は周りに目が行かなくなるものだからな~」


「ほう、なるほど」


「時間あれば相手の事を考えてしまって日常の生活に支障をきたすこともあるし…」


「へぇ~それで」


「お互いに同じ想いで好きになるなんてことはないから、相手が俺ほど自分を好いてくれているのか不安になって…気が狂いそうになることもある」


「そうなんだ…」


私が頷いているとフリデミングはジーッと私を見てくる。な、なんだよ?


「ある時に『恋をしている』ことに気が付くともう抜け出せなくなるな。片恋は特に辛い…でもこっそり相手の様子を物陰から見てその姿を見て幸せを感じることもある」


「ふーん」


段々変態の領域にきましたよ?


「それに相手が鈍感だった場合、こちらが好きだと意思表示をしていてもかわされてしまうこともある。そのじれったさと甘酸っぱさを楽しめるのも片恋の醍醐味とも言えるな」


「……」


益々変態の領域だと思うけど?


「本当に鈍感な女を好きになるとやるせない」


「百戦錬磨の恋愛師匠のライゼウバークでも翻弄されることがあるのね?恋愛って奥が深いね~」


何だろう、フリデミングがめっちゃ睨んでくるけど?恋愛師匠を馬鹿にした発言をした覚えは無いけれど?


やがて馬車が停まるとフリデミングは溜め息をつきながら


「はあぁぁ…今日は劇を観に来ました!はい、参りましょう」


と私に手を差し出した。


観劇~!題目は何だろう?劇場の外に置いてある看板を確認した。


『この愛と魂を注ぐ~美貌の末姫と侍従の愛の軌跡~』


「流石、恋愛師匠!観劇にも恋愛を絡めてくるのね!」


フリデミングは半眼で私を見詰めている。何だかさっきから目付きが怖いわね?


そして、特等席の個室から劇を鑑賞した。


「…ぅひっく…ぐす…」


私は劇を見ながら号泣していた。勿論、周りの鑑賞している淑女の皆様からもすすり泣く声が聞こえている。


良いっ良いっ…周りから反対され苛められ…引き裂かれても尚も求め合い…そして死が2人を結び付ける…!尊い!これが純愛ね。


「ハラシュリア、ホラ…」


フリデミングが隣の座席から手を伸ばして、手巾で甲斐甲斐しく私の涙と鼻水を拭いてくれている。そして更に手を握りながら優しく摩ってくれている。


あんたモテるよねぇ~そりゃそうだ!これで落ちない女はいないよね~


劇場を出ても私はまだ、観劇の興奮に包まれていた。


「純愛っていいわね!そりゃ勿論皆から祝福されるのが一番幸せな結末だろうけど、死して尚結ばれたいなんて、尊いわ!」


フリデミングと観劇の終わった後、お洒落な菓子店でお茶を頂いている。はぁ~この焼き菓子美味しい。間に挟まれた甘酸っぱい果実なんだろう?堪らんね~


んん?フリデミングが、びっくりするぐらい良い笑顔で私を見ているけど、どうした?


「何?もしかして顔にクリームついてるの?」


「ん?いいや。相変わらず甘い菓子が好きなんだな~と思ってね」


「あのね、甘い菓子の美味しさは時代を超えて愛される味なのよ、分かる?もう乙女の魂に刻み込まれているのよっ『甘いお菓子が好き』これは永遠に不滅の熱い想いなのよ」


フリデミングは笑顔のまま小首を傾げた。


「なあ、ハラシュリアの甘い菓子への熱い思いは分かったけど、それとは比べられない程の俺の気持ちは気付いてるの?」


フリデミングの気持ち?首を捻っているとフリデミングは大きく溜め息をついた。


「本当に俺の気持ち分かってないの?魂に刻まれるくらいに『好きな物』に俺は『ハラシュリア』が入ってるんだけど?」


食べていた焼き菓子が口からポトリと落ちてしまった。


今なんて言ったの?


フリデミングは笑顔のまま私の頬に手を伸ばしてきた。


「頬に菓子がついているよ」


そのまま菓子の欠片を摘まんでフリデミングは自分の口に菓子の欠片を入れてしまった。


「ハラシュリアは鈍感で鈍くて、恋愛音痴なのは分かっているつもりだったけど、ここまで言わないと分からないなんて重症だね。あのね、君との婚約は正式なものにするからね?遊びとか適当じゃないからね?生涯…いや永遠に添い遂げる人はクリシュエラ…貴女1人だから覚悟してね」


「……」


「返事は?ああ……別にいいか。クリシュエラ殿下の合意は必要無いしね。もうオババの館で縁結びの魔法を使ってもらう時に覚悟はしていたから。これから永遠に離れないつもりで魔法を使う…その覚悟」


「ライゼウバーク…」


「はい」


「いつからなの?」


「それは…あなたの護衛に任命されて、ご挨拶に伺った時に寝台の上で微笑んでいる貴女を見た時からだよ」


「最初じゃない!」


「そうだよ、前も言ったけど月の女神のような可憐さと透明な美しさで俺はすぐに貴女の虜になった。でも貴女は王女、俺は護衛だからね。諦めていた…でも浅ましいもので貴女に嫉妬して欲しくて少しでも気にして欲しくて、女の影をずっとチラつかせて貴女の反応を見ていた」


それでいつも嫌味たらしく女の話や下ネタを枕元で聞かせてきたのか。爆発しろ!といつも心の中ではモテ自慢ばかりするライゼウバークを憎らしくて踏みつけていたのは、ライゼウバーク的には狙い通りという訳だったんだ。


「でも貴女が亡くなって…俺には何も無くなってしまった。だから最初は俺の記憶を消してもらおうとしたんだ」


「記憶を?」


「そうクリシュエラ殿下のことを忘れたら、愛おしさも狂おしさも悲しみも憎しみも全部無かったことに出来るかなと思った。それは無理な魔法だと言われて諦めたけど…」


ライゼウバーグ…暗い。


「王女の恋人と言われる度に悔しくて、貴女を忘れられなくて死して尚、俺を離さないクリシュエラ殿下が憎らしかった。それなのに生まれ変わったら貴女は俺のことなんて全然憶えてないなんて、絶望した。あの当時はオババに裏切られたとか…随分思い込んでいて…病んでたね」


ええ、思いっきり病んでると思うわよ?今でも病んでるんじゃないかと疑っているけど?根深い…思っていたよりライゼウバークの偏執的な思いは根深い。


私が嫉妬して羨ましかった、恋愛をしてキラキラしているように見えたライゼウバークは、実は私に片恋をして私を煽っていたのか。


「でも…ライゼウバークは恋愛している時って嬉しそうだったよね?恋人が出来た時は一早く報告に来ていたじゃない」


「それは貴女の感情を見るのが楽しみだったんで、俺が恋愛の話している時に仄かに滲ませる嫉妬したような殿下の目を見るのが堪らなくて嬉しくてゾクゾクしてた」


変態だ…まごうこと無き変態だった。頭のおかしい時世を跨いだ変態だった。とんでもない変態に狙われてしまった。


「だけどやっぱり片恋より両想いの方が断然いいよね?この時世で再認識したよ。あの甘酸っぱいゾクゾクする嫉妬心にかられるのも堪らないけど、この手で大人にしてあげる事の出来る悦びの方がもっと痺れるもんね」


いちいち言う事がエロイなぁ…自分のことを言われているのにまるで観劇の台詞を聞いているような他人事みたいな感覚があるわ。あ……実感無いってこういうことを言うのかな?


怖い人だな…と思うと同時に私もゾクゾクしている。生命力に溢れた若く美形な近衛騎士、ライゼウバーク。


心ときめかない女性なんていなかっただろう。自分だけの騎士…心に灯る暗く甘い誘惑。


私も一緒かな…歪んだ独占欲。


自由に恋愛を楽しんでいるライゼウバークが羨ましくて、相手の女性が羨ましくて…2人が妬ましくてライゼウバークに我儘ばかりを言って連れ回していた。


そして体を壊して寝込んでライゼウバークを心配させて、また縛り付けて…私も精神的に病んでいた。


そして子爵令嬢に生まれ変わって、忘れていたのにジョフィアード殿下の死によってまた記憶を呼び起こされた。そしてまたライゼウバークに執着していた?


ジョフィアード殿下の墓参りを欠かさずに30年続けていた。おひとり様を謳歌していたと、周りにも言っていたけど婚姻の機会なんていくらでもあったのに、何か気乗りがせずに未婚のままでいた。


どうしてだと…自分に自問自答をした。


お茶を飲み終わり、菓子店を出て馬車停めまで歩いて行く間、静かに私をエスコートしているフリデミングの顔を見上げた。


ずっと私だけの騎士になって欲しかった。


ああ…私も随分と貪欲で執着心強いのかな。忘れたフリをして蓋をした思いがグラグラと心の奥で蠢いている。


侍従のフーレイさんの言葉が頭の中に聞こえてきた。


『あなた方はまだお若い。気持ちが添わないからと決めつけないで、ゆっくりと時間をかけてお互いに歩み寄れるように出来ませんか?時間は充分にあります。そんなに早く決断してしまわないで下さい』


これからゆっくりと添っていっても大丈夫なのかな


停めていた馬車の前に来ると、フリデミングが扉を開けて何かを取り出してきて私に差し出した。


…花束だ。薄い桃色の小ぶりで可愛い花と白い花が混ざったそれはそれは可愛い花束だった。


「改めて、ハラシュリア=コーヒルラント公爵子女。私と婚姻して頂けますか?」


花束を見る。可愛い…悔しいけど私の好みを知り尽くしている。しかも逢引の段取りも隙が無く手練れの恋愛師匠の余裕を感じる。


「…っよ、よかったわね?教わる恋愛より教える恋愛がいいんでしょう?私、恋愛未経験だし教え甲斐があると思うわよ?」


恥ずかしくて顔を上げられない。


そんな私の体をフリデミングが抱き締めてきた。


「ッハハ!やった…クリシュエラ殿下がやっと俺の所に堕ちてきた」


何だ!その病んでる発言は!?


「なんで私が下に堕ちなきゃならないのよ!」


しまった……また可愛くない発言をしてしまった。えーとえーと…


「堕ちるんじゃなくて、お互いに求めてるから引寄せあ…うぐぅ!?」


フリデミングにいきなり口付けられた。息ができない!死ぬ死ぬ……し………


私は気を失った。私の初めての接吻は気絶と共に終わっていた。

根暗なうえに病んでいた空耳でした^^;ライゼウバークとジョフィアード殿下の根暗人生に誰が興味あるねん!でした、失礼

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― 新着の感想 ―
[一言] ライゼウバーク、そうだったんだ! ジョフィアードの時も辛かったでしょうね。 何て言うか、後から知る真相はガツンと心に響きますね! 婚約解消の話が出た時に泣いたのとか、だからかー!と色々と合致…
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