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悪女の鑑

人間とは、諦めない挫けない投げ出さない…非常に厄介な生き物である。それは一見、美点にも見えるが


今この時は厄介だと言うしかなかった。


いいから、さっさと帰れ!


「そん…そんなおかしなこと認めませんよ!」


「そうよっ!私達は国王陛下の妃候補の選定だと聞いているわ!」


「早く王城に入れなさいよ!」


すご…何が凄いって、化粧の派手な令嬢方に詰め寄られても受付のお姉さん2人は後ろから見る限り、一切の動揺は見られないということだ。


すると……


私の隣にいるケールミング殿下に国王陛下の侍従のお兄さんが耳打ちしている。そしてケールミング殿下が頷いてから、サッと手を挙げた。


皆がケールミング殿下に注目した。


「……以上の令嬢方は失格となります」


ケールミング殿下は淀みなく10名の令嬢の名を上げた。


「な…そんな!?殿下あんまりですわ!」


「わ…私が何をしたというのですか!?」


なんと令嬢達が騒ぎ出したことで気が付いた。失格と名指しされたのは先程の文句ばかり叫んでいた派手な令嬢達だった。マグノリア様、ざまぁ…


令嬢達は何故だか受付のお姉さんに近付いて行こうとしていた。あ、危なくない!?


「しゅくじょのかがみ…ってジュリアーナのような優しくって穏やかなお姉様のことを言うのでしょう?騒いだり文句言ったりとかする煩いオバサンの事じゃないよね?」


そこへいきなりフリデミングが拡声魔法を使って叫んだ。


おい?フリデミング!いきなり子供のフリをしてズバババンと切りつけてきた、自称最高齢殿下。まあ、言っていることは間違ってない。


オバサンと言われてしまった10代の少女達は子供、しかも王子殿下という責めにくい対象からの無垢を装った暴言に言葉を失っている。


「淑女の鑑の資格無しと見なされた令嬢はすぐに失格とします」


宰相補佐のおじ様の言葉に令嬢方は息を飲んだ。今ここで騒げば衆人環視の前で、令嬢失格と言われてしまうことになるのだ。こんな恥ずかしいことに耐えられる豪胆な令嬢は、まずいないだろう。


自分に絶対の自信があって、矜恃を持っている…。何人か顔色一つ変えずにこちらを見ている令嬢がいるが…


その後は、特に混乱もなく受付が開始された。ここで皆は帰るかと思ったが、今帰ると失格だと思われると考えたのか大人しくしている。しかし誰も受付に並ぼうとしない。


誰が先に行くのかお互いに様子見しているようだ。只、先程失格になった令嬢達はまだ粘っていて


「話が違うじゃない!?これは妃候補の選定試験でしょう!?」


と自分のお付きのメイドや付き人に怒鳴り散らしている。いやあのね、誰がそんなことを言ったの?陛下は淑女の鑑の選定とはっきり言ってたでしょう?性格も悪い上に耳まで悪いの?


またケールミング殿下に侍従のお兄さんが耳打ちしている。ケールミング殿下はニンマリと笑った。悪い笑顔だ…


「では、試験登録者無しということで受付を締め切る」


ひょぇ!ここでもう締め切り!?


令嬢方から悲鳴はあがらないけど、困惑の声が上がっている。


結局は令嬢方は受付をして城に入ったとしても『令嬢失格』の判定を受けたくないと尻込みをした結果、全員が不参加ということになってしまった。唯一恥を掻いたのはマグノリア様達、派手派手集団の令嬢達だ。めっちゃ金切り声をあげてこちらを見て威嚇している、魔獣か?


内務省のお姉さん達はもう長机を片付けたり折り畳み椅子を片付けたり、素早く撤収の準備をしている。


そして、フリデミングが


「行くぞ」


と声をかけてきたので、まだ城門前で管を巻いている令嬢方を放置したまま、私達審査員は引き上げたのだ。何だか撤収作業が手際良くない?


「あ~やれやれアレ見た?香水臭っ!」


「まだ14、5才よね?子供のくせに化粧濃かったね!あらやだ…不敬だって、えへへ」


城内に入るなり、私とフリデミングの前を歩く受付のお姉さんの毒舌が飛び出した。お姉さん達は強靭な精神力をお持ちの様だ。


宰相補佐のおじ様が苦笑しているけど、注意しないのは何故なんだろうとフリデミングの横顔をチラッと見ると私の視線に気が付いたフリデミングがニマッと笑った。悪い笑顔だ…


「初めから淑女の鑑を選ぶつもりはなかったんだよ。反対に悪女の鑑とでも言うのかな?ジュリアーナ子女に暴言や嫌がらせをする可能性の高い子女を炙り出すのが目的…だよね?ケール兄上?」


何だと!?そうなの?


ケールミング殿下は楽しそうな顔を私とフリデミングに向けてきた。


「フリデミングは怖いな~その通りだけど、令嬢の後ろにいる生家やあの人達を牽制するためだよ」


あの人…ああ中年の欲望むき出しのあの人か。


「いつまで頑張るんだろうねぇ…諦めたら楽になることもあるのに」


ついうっかりオバチャン発言をしてしまい、受付のお姉さん2人とお兄さん、おじ様、ケールミング殿下にびっくりしたような顔で見られてしまった。


「……ってお父様が自分の頭を見ながらぼやいてました!」


「アハハ!」


「公爵閣下辛いね!」


「笑っちゃいけないよ?」


お姉さん達から大笑いをされて宰相補佐のおじ様から同情されている…ハ…のうちのお父様。今、娘の私は父親の尊厳を無茶苦茶踏みにじってます。


「父上が諦めないのはもはや、様式美だな」


「そんな美意識いらないでしょう?」


フリデミングが私に耳打ちをしてきた。


「こんなことを言ったら兄上達に怒られてしまうけれど、強硬な手段で人的被害が起こってないうちは、人生に退屈しない程度に父上にやらかして欲しいと思っているんだ」


「あなた悪い人ねぇ」


「だって三度目の言わば長い老後生活だよ?これぐらいの楽しみがないとやってられないよ」


長い老後だな、おい。とツッコもうとしたけれど、それを言われれば私だってそうだ。前の人生で結構ノビノビと人生を謳歌していたし今世に生まれて、また一から人生を生きるのも長いなぁと思ったのも事実だ。


その長い人生に彩りを与えてくれる?中年おじさんの奮闘記を腹黒殿下達とニマニマしながら見ているのも退屈しのぎにちょうどいいかもしれない。


「実害が無いならいいよね?」


「悪辣な実害は事前に潰しているから心配ない」


フリデミングの発言にゾッとしたけど、これぐらい悪知恵が働かなきゃ王子殿下としてはやっていけないのかもしれない。


だけど気になったので、一言釘を刺しておいた。


「まさかとは思うけど、あなたが先頭に立って潰し回っているんじゃないでしょうね?くれぐれもおかしな真似はしないようにね?老兵は静かに去るのみよ」


「誰が老兵だよぉ俺まだ7才だよ」


「何言ってんのっ自分から最高齢ジジイとか言ってたくせに!」


「ジジイなんて言ってないよ!まだ7才だ!」


「10日後に8才でしょう!一歩オジサンに近付くわね!私ぃまだ今年いっぱいは7才でゴメンあそばせ~」


「なっ…」


何か言いかけたフリデミングの体が空中に持ち上がった。そして私の体もめっちゃ空中に高くあげられている。


「喧嘩はしない!いいですね?」


私達の襟首を持って空中にぶら下げているのは、国王陛下の侍従のお兄さんだった…フリデミングとの言い合いに侍従のお兄さんが仲裁にはいるのも、もはや様式美…だよね?


◆ ◆ □ □ ◆ ◆ □ □ ◆ ◆ □ □


そんな裏で悪巧みを潰して回っているうちに私は10才、フリデミングも11才になった。


いよいよジュリアーナお姉様とサイフェリング陛下との婚姻式が近付いて来ていた。


ジュリアーナお姉様は益々人間離れした美しさの淑女に成長して、私をウットリとさせている。


「お姉様の婚姻衣装楽しみだね~」


「私は式そのものの段取りを間違えないか心配よ。サイフェ陛下に見惚れて転ばないようにしなきゃね」


そう言ってお姉様は、少し眉を下げている。困り顔も綺麗だ…最近じゃサイフェリング陛下が鬱陶しいくらいジュリアーナお姉様にくっ付いて来るので、お姉様とゆっくりお茶を飲むことすら出来なくなっている。


このぉ…恋愛脳の国王陛下と次期国王妃めぇぇぇマジ爆発しろ!


昼の日が高いうちからイチャコラしちゃって……!男日照りの続いている乾燥しきった処女を舐めるなよ!私の視界にイチャコラ姿を入れ込むな!


お姉様はお茶を飲み終わると、イソイソと出かける準備をしている。


「まーた国王陛下と逢引?」


「ちょっと!ラシー!?夕方のご公務に空きが出来たそうなの!少しお会いして婚姻式の打ち合わせをするのよ?」


そう言い訳をしながら顔を赤くするお姉様。


いいなぁ~なんだかんだ言って恋愛婚姻になってるみたいだね。


「あなただってフリデミング殿下と逢引じゃないの?もう子供の頃からずーーっと一緒ね」


ウフフと言って笑いながらジュリアーナお姉様は部屋を出て行った。


逢引ね……お姉様の言う通り最近はフリデミングがそういう方面に色気付き出した気がするんだよね。いい加減年齢が上がってくると、私への興味が薄れて別の女性に目をやるかな~とか思っていたんだけど、案外と順調に婚約関係を続けている。


そう


やっぱり私とフリデミングは正式に婚約していたみたいなんだよね。ちゃんと書面で残したのは半年前くらいなんだけど、それもフリデミングが『正式にしたい』と言い出したからなんだけど…


それとフリデミング曰く、そろそろ正式にしておかないと横やりが入りそうだから…とのことだからだ。


まだ中年おじさん、ミルトマイデラ公が頑張っているらしい。


サイフェリング陛下に直接行かずに、フリデミングの背後からゴソゴソ近付いて『簒奪』を唆してくるらしい。


「最近気持ちの悪い羽虫のように俺の後を付いて来るんだ、俺が簒奪者になるように見えるのかっていうんだよ。簒奪するのはもっと悪辣で強欲で心底残虐な性格の持ち主じゃなきゃ起こさないだろう?」


残虐以外の要素はもうすでに所持していると思うけどなぁ…だって今も、また賄賂ギリギリな『おねだり』をしてミルトマイデラ公から物品をせしめている…らしいし。


しかも私の分をわざわざ含めて入れて2人分をだ。


いい加減ミルトマイデラ公も気が付けばいいのに、綺麗な顔した強欲ジジイにたかられているだけだって…


私はその久しぶりの賄賂の南の国の珍しい果実を口に入れている。


私の目の前には将来とんでもない美形になる要素満載の少年、フリデミングの顔がある。


「近いよ」


「近付いているからな、美味しいか?」


そう言って丸みのある果実を一つ指で摘み、私の口元に持ってくるフリデミングもうすぐ11才。


「餌付け?」


「そうとも言う。お前は昔から甘い物が好きだしな」


私が口に入れられたブウチという果実を咀嚼し終わると、フリデミングの唇が私の口に押し当てられた。


はあぁ…気持ちいい。


とても子供が抱く感想ではないと思うけれどフリデミング曰く、魔力の相性も良いんだって。縁結びの魔法の魔術師のオババが、相性が良くないと縁はつかないよ…とか言っていたらしいので、三度も生まれ変わって側にいるということは、相当相性が良いということらしい。


「何考えてるの?」


「う~ん、ライゼウバークのこと?」


私がそう言うと、口づけをやめて眉間に皺を寄せているフリデミング。


「何だか複雑だ…自分のことなのに、浮気されたみたいだ」


「変なの」


「ああ…変だ、ハラシュリアに狂わされている」


……っおい!若干11才が色気を含ませながら言う台詞じゃないよ!こらっ口内に舌を入れるな!


元はライゼウバークのせいか、フリデミングは技術?技巧?が素晴らしい。全くのド素人の私を上手く誘導してどんどんエロい方向に持って行く。


「お父様に…怒られる」


チュッ…と一旦唇が離れた時に文句を言うと、フリデミングは悪い笑顔を見せながら


「あぁ……早く孕ませてえなぁ」


と、言ってきた。


「こらーー!11才男子の言う台詞じゃないよ!エロは引っ込めろ!このエロジジイ!」


体は子供、中身はエロジジイが炸裂しております<(_ _)>

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