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淑女の鑑

異世界風の中世風のゆる〜い世界観の話です。ゆる〜い気持ちで見ていただけたら幸いです。

「ハラシュリア様、公爵家からお迎えの方がいらしてますよ」


フリデミング付きの侍従のフーレイさんが、私に声をかけてくれたので、食堂の開いた扉の方を見ると、眩しい眩しい光の女神が立っていた。


「ジュリアーナお姉様!」


今世のコーヒルラント公爵家の実姉のジュリアーナ=コーヒルラント公爵令嬢、14才だった。


「おはようございます、フリデミング殿下。ラシーは良い子にしていて?」


笑顔が眩しい!私の記憶の中にある美女名鑑の中での一番の美少女は何と言ってもジュリアーナお姉様だ。しかも性格までも美しいんだ!


私がお姉様の胸に飛び込むと、笑顔で抱き締めてくれる。先程話題になっていた根性悪のマ…のつく姉とは大違いだ。


私の『姉』という存在に嫌悪感を抱いているらしいフリデミングもジュリアーナお姉様には礼儀正しく大人しい。男女問わず、美しい存在には絶対服従なのは世の真理だ。


「今度はお姉様とお泊りしたい!」


「あら?そうなの~ウフフ、じゃあ今度別荘でお泊りごっこをする?」


「する~!」


最近は幼女の演技も板に付いてきた私。美しいジュリアーナお姉様の顔をウットリと見詰めていると廊下から腹黒(国王15才)の声がした。


「おや…」


ジュリアーナお姉様は優雅に淑女の礼をされた。私も横に並んで同じく礼をした。


「朝から参じているご無礼をお許し下さいませ、ジュリアーナ=コーヒルラントにございます」


「ハラシュリアの…そうかジュリアーナ子女であったね。ああ、そうか失念していた!」


国王陛下の言葉に、んん?と思って顔を上げた。国王陛下は満面の笑みを浮かべている。


「そうだよっその手があったな!」


どの手?


サイフェリング陛下がズイィっと私とお姉様の目の前に近付いて来た。ちょ…近すぎない?お姉様びっくりしてしまって固まっているみたい。


「ジュリアーナ=コーヒルラント子女!私の妃になってはくれないか!」


「っ!」


「ひぃ!」


お姉様…よく気絶しなかったね、褒めたげるよ。何とか衝撃に耐えたお姉様は、サイフェリング陛下に腰に手まで回された状態の中


「父にお話し下さいませぇ…」


と、ヘロヘロになりながら返答していた。


朝から怒涛の展開である。


人目に付く所での婚姻の申し入れをした国王陛下は、アッという間に正式な婚姻の打診をコーヒルラント公爵家に送りつけ、準備を始めてしまったようだ。


ジュリアーナお姉様と一緒に公爵家に帰宅途中、お姉様は何度も溜め息をついていた。


「どうしてこうなっちゃったの?お父様を驚かせてしまうわね」


「そうだね…お父様が心労でハゲ……しく胸を痛めてしまうね」


国王陛下とフリデミングに見送られて王城を出る時に、放心状態のジュリアーナお姉様を先に馬車に押し込んで、国王陛下ににじり寄って聞いてみたのだ。


不敬だとか言っている場合ではない。私の光の女神の憂いを取り除くためだ!


「どういうつもりですか!」


国王陛下はとぼけた様な顔をしてフリデミングを抱っこしていた。


「ハラシュリアもジュリアーナも我が王宮に取り込める、絶好の機会ではないかな?」


「ジュリアーナお姉様は普通の美女なだけです!」


「変な表現をするなぁ…コーヒルラント公爵令嬢と言えば、社交界で有名ではないか。その美貌で子息方の注目を浴び、明るく社交的で聡明、実に理想的な淑女だろう?」


「じゃあその理想的な淑女に、一早く婚姻を申し込むことはしなかったのは何故でしょうか?」


一瞬、ほんの一瞬だが国王陛下が真顔になった。こ…こ…怖いぃぃぃ!


「ジュリアーナ子女は自由恋愛が好みだとケールミングに聞いた。無理強いはしたくなかった」


なぁ…なるほど。確かにお姉様は恋愛小説が大好きだ。運命の出会いをした騎士様と、めくるめく愛の嵐に巻き込まれる『攫って騎士様シリーズ』が特に大好きだ。


「しかしこちらにも事情がある。ハラシュリアの聡明さをフリデミングと共に王家に取り入れつつ、ジュリアーナ子女の美貌と家柄…そして朗らかで実直な淑女の鑑とも云われる令嬢を私の国妃として迎え入れる。あらゆる方面からの横やりを避けたいのだ」


横やり…ミルトマイデラ公とかのことだろうか?


もたもたしていたら次の刺客(婚姻)がやって来るということか?


「私だってある程度の気持ちが添える人と婚姻を結びたい…」


ボソッと呟かれた言葉にフリデミングと私でジーッと国王陛下の顔を見ていると、陛下の耳がっ?耳が赤くなっている!あれれぇ!?どういうことぉ?


「ジロジロ見るな!ジュリアーナ子女が待っている!早く馬車に乗れ!」


照れているのであろう、国王陛下に急かされて馬車に乗った。そして車中から小窓を開けて、フリデミングに向けて手を振った。


「また遊びに来るね~」


「うん!」


うん、実に素晴らしい子供のやり取りだ。


フリデミングを抱っこしている陛下を見ると、ムスッとした顔をしている。フリデミングの機嫌の悪い顔にそっくりだな、流石兄弟だ。


家に帰ったお姉様と私はすぐにお父様に報告した。


お父様は一気に残った髪を後退させ……たりはしなかったけど、顔色を赤や青にくるくる変えていた。


「そうか…うん、そうか。ジュリアーナはどうなんだい?」


あ、そうそう。お姉様は黒髪で鋭い目の騎士様が好みよね?(参照:攫って騎士様~漆黒の獣は夜の帳と共に~)


「私……喜んでお受けさせて頂きますわ!」


えええっ!?お姉様は漆黒のちょっとエロくて、しかもお強い騎士様が好きなんじゃないの?


「お、お姉様…漆黒の獣…」


思わずお姉様のドレスを引っ張ってしまった。お姉様は私を見て微笑んだ。


「あら?あの騎士様の本の事?やぁねぇ~アレはあくまで物語の中でしょう?確かに実在している騎士団の方で似ている卿がいらしたらすごく嬉しいけど、それはそれよ!だって子女の憧れのサイフェリング陛下よ?婚姻するなら実在の方よ」


そーですか。良かったですね、サイフェリング陛下…。何とか漆黒の獣に競り勝ちましたよ?


その次の日


正式な婚姻打診を受けてお父様とお母様とジュリアーナお姉様は3人で城へ登城した。


家で留守番をしている私と公爵家(うち)の陽気な長兄、ハイリットがいつもは元気なのに、今日は眉間に皺を寄せて考え込んでいる。


「なあハラシュリア」


「なぁに?」


ハイリットお兄様は綺麗な橙色の瞳を私に向けてきた。


「お前とフリデミング殿下の婚姻は正式なものか?」


「え……分かんない」


「だよな……」


なんだろう?どうしたのお兄様?


私が首を捻っているとお兄様が、慌てて私の横に来て膝に抱っこしてくれた。


「ハラシュリアが気に病む必要は無いよ…えっとね、ジュリアーナが陛下に嫁いだ場合、フリデミング殿下にハラシュリアが嫁ぐのは良くない…と言い出す者達が出て来そうだな…とね。ハラシュリアは心配いらないからね」


ええっとそれは、公爵家に権力の集中が起きてしまうと言われるということかな?


う~ん確かに言われそうだな…特にあの親父に。


案の定と言ってはアレだが、やっぱりしっかりミルトマイデラ公と各諸侯つまりは、国王陛下の嫁に推したい令嬢の生家の貴族達が一緒に進言という名の警告をしてきたのですよ、はい。


しかしサイフェリング陛下は一蹴した、皮肉気な黒い笑顔を共に。


「コーヒルラント公爵家に打診したのは、もっとも国妃として横に立つに相応しい令嬢だと私が判断したからだ。そうまでして言うなら、我こそはと思う淑女の鑑の令嬢を城に連れて来い、私が非の打ち所の無い令嬢を選ぶ審査をしてやろう」


前代未聞である。妃の面接?採用試験が行われることになった。だが腹黒がその日の夕刻、ほくそ笑んで私とフリデミングを呼び出してこう言ったのだ。


「一応面接は大人も面子として立ち会わせるが、フリデミングとハラシュリアの2人で見て決めろ。それに審査するとは言ったが妃にするとは一言も申してないからな。まあ万が一合格にしても、『王家に認められた淑女』の称号は与えてもいいがな」


何て腹黒なんだろう…令嬢達は我こそは国王妃だ!と完全武装で採用試験を受けに来るはずだ。サイフェリング陛下は自身は面接に参加もしないうえに、落とす気満々だし、受かっても令嬢の鑑だね~すごいね~と褒めて終わりとな?


とんでもない腹黒さだ。


そして前代未聞の『国王妃採用試験(仮)』が行われる当日になった。集まった令嬢の数は…膨大な数だった。


「こんなに貴族令嬢っているの?一応保護者がついてきているのよね?」


「城門で受付所を作って、令嬢と保護者の名を確認してから通す予定だよ」


そう言って城の城門に向かう、特別審査員の私とフリデミング、ケールミング殿下の三人。ケールミング殿下も子供枠で参加してくれるので心強い。


何故城の入口かというと、実は入口が第一審査の始まりなのだ!


「門兵と衛兵や小間使い…城門で会う兵士に対してどのような態度かを見る試験だ。ここで大半は落とせる…と踏んでいる」


ケールミング殿下も落とす気満々だ。


一応、陛下の侍従のお兄様と宰相補佐のおじ様と爆乳乳母のタフネさんが大人として審査に加わってくれている。


受付の内務省の役人のお姉さん達に紛れて、さり気なく後ろから令嬢方を観察する。


「それでは受付を始めます。こちらにお並び下さい!」


受付のお姉さんが『拡声魔法』を使って城門前に居る物凄い数の令嬢と保護者諸々に声をかけた。


さあまずは貴族のご令嬢方に最初の難関、庶民にはよくある光景『行列に並ぶ為の忍耐力』を見る!これだ!地味な長机の地味な受付台の前でジッと一列に並んで立っていられるか?忍耐力との戦いだ。


「何ですのこれはっ!私はオルコット家の者よ!」


「誰がこんなことをさせてますのっ!?」


やっぱり派手な衣装の令嬢集団が一早く文句を言ってきた。よく顔を見ると……あれれぇ!?あそこにいるのは黒髪に翡翠色の目の、マグノリア=ノリアント伯爵令嬢だー!久しぶり~相変わらず派手なドレスで化粧が三倍くらい濃い色になっているね~


「国王陛下からの命です。並んで頂けないご令嬢は失格ということです」


ケールミング殿下がさっぱりきっぱり言い切った。


今、この城門の受付所で一番身分の高い方からの一撃だった。


令嬢方は受付に渋々並び始めた…そして受付のお姉さんは一番先頭に並んでいた令嬢に開口一番


「本日は国王陛下主催『淑女の鑑認定試験』にようこそお越し頂きました」


と、本当の主催名を明かした。令嬢はポカンとしている。


「淑女の鑑…?」


「はい、国王陛下のお墨付きを頂ける大変名誉な称号でございますよ!」


嘘は無い。だってミルトマイデラ公以下ここに居る貴族位のおじ様達もサイフェリング陛下が言った言葉を憶えているからだ。


「陛下から妃を選ぶ試験だと聞いてるぞ!」


貴族のおじ様から怒号がとんだ。


受付のお姉様はニッコリと微笑んで『再生保存魔法』が入っている魔石を高々と手に掲げ持った。


「コーヒルラント公爵家に打診したのは、もっとも国王妃として横に立つに相応しい令嬢だと私が判断したからだ。そうまでして言うなら、我こそはと思う淑女の鑑の令嬢を城に連れて来い、私が非の打ち所の無い令嬢を選ぶ審査してやろう」


魔石から再生された陛下の声が城門前の広場に響き渡った。


そう…非の打ち所の無い令嬢を選ぶ審査だ、とサイフェリング陛下は確かに言っている。重ねて言うが国王妃を選ぶ審査ではない。


淑女の鑑を選ぶ審査なのだ。

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