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テレパスは女子高生に怪物をよぶ  作者: 古新野まーち
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テレパスはいつも憂鬱


十七歳はもう少し大人だと思っていたと、珠希は、自習中の2年5組のクラスメイト40人を見渡してから中庭の噴水で水浴びをするカラスを眺めた。


 いや、自分の頭が成長していないだけなのだろうか、否、県内の上から数えて5番目くらいの公立高校の普通科の生徒の水準がこの辺りなのだろうか。


 前の席の田中尚樹と藤井勝造は低レベルな認識で女性歌手を貶しており、そこに居合わせているだけといった感じの中谷敏生が二人の意見を聞き流していた。水曜日のカンパネラの歌詞の世界観を褒めたたえるときに西野カナの詞のレベルを云々する手際の悪さが、どうも、頭が悪いとしか言いようのないものだった。西野カナの作詞方法がマーケティングやコンセプトありきで、かつ、直接的すぎでありアートに昇華していないという。珠希は思うのだった。――水曜日のカンパネラをほめんかい――




 たいして隣席の青樹優香は、周りから隠すようにして、すらすらと文章や図を書いている。その内容は、珠希には分かりかねるものだった。アンデルセンの人魚姫をオスカーワイルドの漁師とその魂はいかにして変奏しているかと、フーケのウンディーネなどから魂についての考察を重ねていた。珠希は思うのだった。――ストレートにほめんかい――




 青樹とは稀に話す程度だが、なんと、大学の奨学金が取りやすくなるからという理由で偏差値の低いところに入ったと言っていた。結果、皆に無視されていた。どうして正直に話すのかと呆れたものだったが、自分のように無用のトラブルを避けられることは特技として誇っていいのかもしれなかった。


 


 そして彼女はため息をつきながら頭を悩ませるのだ。どうして自分が十七になれば、なんの努力もなく大人になれると緩慢な考えを抱いていたのかと。自分は大人っぽさに向かう列車の切符を手にしていると勘違いした最大の要因は、義務教育時代の教師たちの言葉の網目の内側に隠されていた、いかにして私たちを追従させるかという思考と日々の暮らしの金欠ぶりと、とくに体育大学を出た体格の良い岡本という教師が野球部をはじめ運動神経の良い男子生徒だけの素行を不問にし女子生徒のいさかいはまるで生理が始まった苛立ちだと頭の中で納得しているのを見抜いたからだ。どうして自分は、彼らが大人に向かう車両に乗れなかった奴らだと見なしたのだろうか。今まさに、カラスがアホォと鳴いた。


 


 


 別れたばかりの恋人、千賀圭が同じクラスにいるということも、苦痛の要因なのかもしれない。見えたのだ。彼が、知らない女といかがわしいとしかいいようのないことをしているさまを。それを、よりによって一緒に見ていた洋画のラブシーンを観て興奮しながら思い出していた。その瞬間、千賀のことが気持ち悪くて仕方がなかった。




 物心がついたときからずっと、人の頭の中が見えていた。それが自分だけのことだと気が付いたのは、ドラえもんのおかげである。タイムマシンやどこでもドアといったものは小学生なら既に知っているひみつ道具である。それらのなかに、人の心がわかる道具があった。時間旅行や瞬間移動と同じ水準にその道具があることが不思議だったが、どうやら人の考えを知れるということはそれらと同じくらいSFになるらしい。自分は生きながらSFをしていると考えれば優越感があった。しかし、利用の仕方があまり無いのだ。人を貶めることは3回もやれば飽きる。飽きずにやり続ける人は脳に致命的な欠陥があるとしか思えないほど、つまらなかった。では、自分に都合の良いように人をコントロールするということはどうかと考えた。するとどうだろうか。今度は自分の頭の悪さと直面することになった。

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