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93.ルーツ

エストニル王国の起源は、争いの中で切り捨てられた民を護るため、シャーマンが精霊の力を借りて興こした国だといわれている。

シャーマンは風を読み、大地の声を聴く。厳しい自然の中で、精霊に認められたものだけがその力を持つといわれ、時の流れの中でその力は、シャーマンの血筋である王家でも稀なものとなっていた。

エストニルが国としての形を成していく中で、それを良しとせず あるべき姿に戻ることを選択した者たち

━━━山神の使い、そう呼ばれる彼らは、樹海とそれを囲む山々を拠点に暮らしている。チキの村はその一つで、いくつかの集落ごとに長老がおり、その長老と族長リュードが中心となって纏められている。

国境の厳しい山々で暮らす彼らは身体能力が高く、戦闘力は騎士の数師団分と言われている。

過去、何度か侵略を仕掛けられても、地の利を活かし高い戦闘能力でそれを退けてきた。

その力を脅威と捉えた先々代王は、一族から王妃を娶った。それがナルテシアである。

ナルテシアとの間には先王しか生まれず、晩年に更に一族から娶り、生まれたのがヴィレッツである。

ナルテシアは王家の一族に対する猜疑の眼が高まりつつあることを知ると、今の王家の庭へと移り住んだ。そのころから一族は、王家との関係を断ち、閉ざされた一族として知られるようになったのである。


後継となる皇子が少なかったことを憂慮した先王は側妃をもち、王妃との間に授かったマージオよりも、側妃たちとの間に生した王子達を優遇し、その事が宮廷内での権力争いに拍車をかけた。

先王が崩御すると、王権争いは領地を巻き込み激しさを増していった。

街は荒れ、田畑は焼かれて飢える民が溢れた。。マージオの兄たちは互いを潰すため、山神の使いを味方につけようと躍起になった。襲撃、誘拐、脅しをかけ、一族に刃を向けた。

若きリュードは、一族を護るために一度は闘いを決意したが、そこに現れたのがニックヘルムだった。


「昔話をしよう」

タクラのそ言葉から始まった 山神の使いの歴史は、ライルの知らないことばかりだった。

表立っては、エストニルの庇護下のように捉えられているが、現実は違う。山神の使いの一族はリュードを長とする自治国家である。タクラは笑みを消しライルを見据えた。

「貴方の父であるニックヘルムと密約を交わしているんだよ。マージオ国王の治世において我々は独立した国家として存在するためのね」

それは初耳だ、ライルの驚きの表情に、タクラは意外そうな顔をした。

「聞いたことはないのか?」

後継の兄なら聞いていたかもしれないが、母の死から親子としての繋がりは皆無だった。近衛所属で王宮に詰めるようになり、宰相と護衛騎士としての関わりだけで、父親という認識はライルにはなかった。

国家に全てを捧げた父を恨むことも、敬う気持ちもライルにはない。宰相にとっては息子も手駒のひとつなのだろう。ライルの淡々とした物言いに、タクラは話始めた。

「ニックヘルムはね、我らに手出しをするな、と言ってきたんだ」

ライルの反応を面白そうに見ながら話を続ける。

「見返りに、マージオ国王が国王となったときには、一族の自治を認めることを確約すると。外交で平和を築き、戦争のない、豊かな国をつくる。民を決して飢えさせない。━━━だから、黙ってみていろ、とね」

力を貸せ、味方をしろ、と決していわない。そのことがリュードの心を決めさせた。

リュードはマージオとニックヘルムと秘密裏に会談を重ね、密約を結んだ。

「マージオ国王とニックヘルムは我々との約束を違えることなく、豊かで平和な国をつくりあげた」

ライルはタクラの話を黙って聞いた。自分の知っている政略に明け暮れる父ではない、目指した国をつくるために奔走したニックヘルムという情熱を持った男。

この男のことは認められそうだった。

タクラは更に話を続ける。

「…ナルテシア様は渡りの樹からエストニルの助けになる渡り人が現れると告げられたそうだ」

しかし、ナルテシアが存命中には現れることはなく、リュードはナルテシア亡き後も渡りの樹を見守ることにした。

既に一族にはシャーマンの力を有する力のあるものはおらず、精霊の気配を感じることができる程度であったが、力のある者を森に住まわせた。

そして、ミクが現れたのである。

「ミクがなぜこの世界に呼ばれたのか、ミクが助けとなる者だったのかわからない。そして、ミクの娘であるマオが何故、この世界に 呼ばれたのか…。

全ては渡りの樹の意志だ。我々はその意志に従う」

タクラはそこまで話すと、もたれていた背を起こし ライルに真っ直ぐ向き直った。

「…渡り人の知恵を利用するのか?」

ライルは向けられた視線と問いに、視線を逸らさずに答えた。

「利用なんてさせない。

確かにマオは国王の娘で渡り人だ。それはマオの一面に過ぎない。マオはそんな扱いを望んでいない。

俺はマオを護る、そのために ここにいる」

視線を絡ませ しばらく二人の間に沈黙が訪れる。

沈黙を破ったのはタクラだった。

「…我々の意志は、長が述べた通りだ。マオを 一族の誇りにかけて護る」

タクラはライルに手を差し出した。

「貴方を同志として 歓迎する」

ライルはタクラの手をしっかりと握り返した。


















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