表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/318

9.物語の欠片

来た道を2人並んで歩く。

イザの表情は固いままで、会話のない帰り道は街へ向かうときよりも遠く感じた。

それにしても、だ。

真緒は横目でイザをみる。

せっかく街まで行ったのに そのまま帰ることになるとは。あれからイザはおかしいし。


母の物語にあったベルタは、石畳の路が続き、白い塗り壁に色とりどりの屋根が連なる美しい街だ。テレビで見た南フランスの街並みが一番しっくりくる。

活気に満ちた市場には人が溢れ、広場には大道芸が催される。花屋のおじさんは居眠りが日課で、野菜売りのおばさんはいつもおまけしてくれる。

街の中心には大きな鐘のある塔があり、噴水には恋人が集う。時計台のジンクスもあったな。

街で物語の欠片をみつけられたら、母を近くに感じられると思った。

突然知らない世界にきた心細さを、物語の欠片探しで埋めたかったのかもしれない。


真緒が母の物語を思い起していると、イザがボソッと呟いた。

「今日は 悪かったな」

真緒は首を横に振りイザの顔をみた。

「また連れていってくれるんでしょ?」

あぁ、約束する、と頷いたので良しとする。もういつものイザだ。

そういえば、母の物語にイザは出てこないかも。

騎士になった弟はいたっけな。異世界の弟かぁ、本当に存在するなら会ってみたいな。


通常モードに復活したイザだったが、街であったライックについては話してくれなかった。

昔世話になった人だ、そんな一言で片付けられた。

「世話になった人への態度とは思えなかったけど?」

「分別ある大人は敬う相手を心得てるのさ」

「ふーん、敬えない相手なんだ」

「どうかな」

ちょっと寂しそうにみえたのは気のせいかな?

その後は他愛もない会話をしながら宿屋まで歩いた。


鐘より早く帰ってきた二人をみて、マルシアは何か言いたげだったが、疲れたろ?夕方まで部屋で休みな、とそれだけ言ってキッチンへ戻っていった。

真緒が階段を上がるのを見送って、イザはキッチンに足を向けた。夕飯の下ごしらえの手を止めず、マルシアは何があったのか尋ねた。

「ライックにあった。先遣のヤツらがベルタにいる」

「それで?」

「あぁ、だから街へはいってない。しばらく自警団にに世話になるっていってた。オレもしばらくは自警団に詰めることになる。村にはこれない」

「マオのことは大丈夫さ」

「ライックが来たってことは、今年はあの男もくるのかね?」

イザはその問いに顔を歪めた。

「ライックは宰相の子飼いだからな、そうなのかもな」


イザは知っている。

あの手紙を握りつぶしたのは宰相《あの男》だということを。

王子の側近として同行していたあの男は、未久に王子の前から消えるよう何度も迫っていた。王子と現王妃との婚姻を進めるために。自身の仕える王子を王にするために。未久を切り捨てたんだ。

未久は消えた、永遠に。

愛というには幼かった未久への想い。

13歳の自分には護る術がなかった。でも今は違う。

真緒に害なすなら容赦はしない。


未久の物語に自分はどう語られているのだろうか。

彼女に自分はどう映っていたのだろう。

…物語の欠片になれたのだろか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ