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86.頼られる男

イザは自身の執務室で それを読み返しため息をついた。それは、ライックからの手紙だった。

《ライルへの 助力を乞う》

おい、なんだよこれ。

ベルタの街は、樹海の向こうのユラドラ軍と睨み合っている。いわば最前線だ。そこで指揮をしているイザは人の面倒を見ている場合ではない。


あの人(ライック)は昔から食えない人だった。

数手先まで読み、宰相の右腕として辣腕を振るっていた。イザがライックの元で過ごしたのは数ヶ月だったが、それでもその能力の高さは、イザの目から見ても他者の比ではなかった。


できる限りの事はするが、状況が許せば、だ。

王宮から真緒が消えたことは、聞いている。

おそらくライルは真緒を探しにベルタへ来るのだろう。黒目黒髪のあの容姿だ、街にいれば目立つ。

真緒の行方不明を聞いてから、イザも街の情報屋から情報を得ているが、有力なものは皆無だった。

(何やってるんだ、マオ。とにかく無事でいてくれよ)

イザは大きく息を吐いた。クルクルと表情を変える黒曜の瞳を思い出す。そして、もうひとつ 息を吐いた。

厄介事は重なるもの。

断れない相手からの一方的な頼み事は まだあった。

(そろそろ 来るか…)

はぁ… ガシガシと頭を掻くと、手紙をしまい、書類と向き合った。


ルーシェは乗合馬車を乗り継ぎ、ベルタの街へ入った。真緒の身体では山越えは厳しい。何組かの慰問のための旅芸人一座が、ベルタの街へ向かったと聞き、それに紛れた可能性を考えて追いかけてきたのだ。

もし、その手を使ってなくても先回りできれば好都合だ。ユラドラの影が途中の村やベルタの街で動いている。一刻も早く真緒と合流する必要があった。

ルーシェは真っ直ぐ自警団へと向かう。

ここの副団長のひとりに、父親であるダンの教え子がいるのだ。王都を発つ前に ダンのもとを訪れ 騎士団を辞して真緒を探す決意を伝えた。そのときに、イザを訪ねろ、といわれていたのだ。


ダンは前国王の蜘蛛(アレニエ)の一員だった。前国王崩御の際、王子同士の王権争いに嫌気がさして在野の人となったが、ニックヘルムに再三 請われ、若きライックやヘルツェイを鍛えあげ、(シュエット)をアレニエに並ぶ組織へと育てた人物である。


自警団には王都から派兵された部隊も駐留しており、騒がしかった。傭兵志願のものたちが、門の外に列をなし、怒声を上げている。喧喧囂囂のその脇を案内に連れられて奥へと進む。やがて、外の喧騒が小さくなるとひとつの扉の前で こちらです と前を開けて教えられた。

軽く会釈して礼を伝えると、ルーシェは躊躇いもなくノックしとた。


「入れ」

低い声が廊下まで通る。ルーシェは室内へと進んだ。

赤茶の髪に垂れ目の男は、机に肘をつき顔の前で手を組んで苦々しい表情を浮かべルーシェを迎えた。

「お前が ダンの娘か」

「お初にお目にかかります。ルーシェと申します。父が…」

丁寧なのは苦手なんだ、と更に苦味を増した表情で手を横に振り、言葉を遮った。オレは洒落た人間じゃない、普通に喋ってくれ、そういって頭をガシガシ掻いた。その姿が大きな体躯の男には不釣り合いに可愛いらしく見え、ルーシェは思わず吹き出した。

「親子共々、失礼だな」

イザもつられて口の端を上げた。ルーシェにソファを勧めると、自身もその正面に腰掛けた。

「ダンから伝言はもらった。で、オレは何をすればいい?」

こうみえても忙しいんだ、ここは戦地だからな。

マオのことだろう?

そういって、腕組みをし 背もたれに背を預けた。

「…王都に、王宮に無理矢理連れ帰るなら、協力できない」

今までとは違う低く真剣な声色だった。

父から聞いている。大切な人を奪った相手━━━国王も宰相も憎んでいるんだと。大切な人の忘れ形見の真緒を全力で護るだろう、と。だからこそ、敵でないことを知ってもらわなければ。

真緒の意志を護る、これは自分の意思だ。誰の命令でもない。

「騎士団を辞めてここに来ました。マオを探すための情報と、傭兵として雇ってください」

やっぱり親子だな…イザは頭をガシガシ掻くと、手を差し出した。

「わかった。鍛錬場で馬鹿な奴らをを黙らせてこい。舐められんなよ」

と、笑った。ルーシェはその手を取り固く握り返した。

「ありがとうございます。加減はしますよ」

ルーシェの微笑みにイザが、殺すなよ、と呟いた。

大丈夫です、戦力は削りませんよ、と笑みを深めイザは、うわぁ… と言葉を無くした。

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