表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/318

83.変装は徹底的に

2日も寝込めば、さすがに飽きてくる。

この世界の人たちは世話好き?いや、お節介なタイプばかりなのだろうか。エドは真緒がベッドから起き出すのを許さず、逃亡先でもベッドに拘束されていた。

(変わらないじゃん!)

真緒の我慢もそろそろ限界だった。

身体を治さない限り連れていかない、とエドに言われ渋々従ってきたが、我慢するにも限度というものがある!よし、起きるぞ!

エドは朝食を運んでくると昼前まで出かけていることが多かった。チャンスだ。

そろりと床に足をつけると、ひんやりとした感覚が気持ちよかった。靴を履き、服を変える。

エドが用意してくれたものだ。

ワンビースはなぁ…。まあ、これしかないから仕方がない。

階段を降りて一階へと向かう。

足取りも快調だ。筋肉の震えはない。これなら明日にも出発できそうだ。追っ手が迫っているはず、時間が惜しかった。

昼間の酒場は閑散としていて、真緒の靴音だけが響く。真緒は店の店主を探して、厨房へと向かった。大体どこの店も造りは同じ。迷うことなく辿り着くと、竈に身体半分突っ込んで掃除をしている男に声をかけた。真緒の声に尻餅をついて驚いていたが、真緒の頼みには笑顔で、好きなだけ持ってきな、と快諾してくれた。


バケツを持って井戸に向かう。

台所から勝手に拝借した短刀を取り出し、自分の髪に当てる。ちょっと躊躇い、手が止まった。

(結構気に入ってたんだよな、この髪)

少し摘んで指に絡める。

優しい眼差しと撫でる手を思い出し、慌てて頭から追い払った。未練を断ち切るように思いっきり短刀を引いた。一度やってしまえば、腹が据わる。黙々と短刀を振るった。

ベリショートな感じ?なかなかいいんじゃない?

井戸に映るイメチェンした自分に納得すると、バケツの中身で髪を洗った。

うひゃー、酒臭い…。その強い芳香に吐き気を催したが、ぐっと堪えて そのまま続けた。

この国には ビールに似たものがある。真緒は酒は飲めないが、マルシアの店でも、ダンの店でも当たり前にある飲み物だった。

真緒も話に聞いただけなので、これで髪が脱色されるかはやってみなければわからない。瞳の色は仕方ないが、髪なら脱色することで誤魔化せるかも、やってみる価値はあると思っていたのだ。

井戸水で流し、あとは日光に当てるのだ。

少しは脱色したかなぁ…、井戸の鏡では色の変化まで分からない。左右のバランスが少し気になる。再び短刀を取り出すと耳の後ろ髪を摘み、刃を当てた。


突然の衝撃が真緒の身体を襲い、地面に投げ出された。右手の短刀は蹴り飛ばされ、真緒の上に影が落ちた。

「何するんだ!」

いきなり怒鳴られて真緒は目を白黒させた。

エド、どうしたの?そんな怖い顔して…

ポカーンとした真緒の様子に、エドも自分の思い違いを感じたようだった。渋い顔で真緒に手を差し出すと、身体を引き起こした。

「マオン…その髪…」

エドの表情が強ばっているのがわかる。指摘されれば真緒の心もズキンと痛んだ。敢えて気付かないふりして、明るい声を出す。

「どう?似合うでしょ」

ベリーショートの髪をつまんで笑ってみせる。その手をエドは掴んで、痛々しげな表情を浮かべた。

「女が髪をこんなにするなんて…」

真緒はクスッと笑って、そのうち伸びてくるしね、となんてことはない、と言ったが、エドは納得できないようだった。

「これから物騒なところへむかうでしょう、旅の安全のためにも男の子の方が都合がいいでしょ?」

だから男物の服が欲しい、そうお願いした。

男並みの短い明るい茶色の髪、小柄で中性的な身体つき。そういわれれば成人前の男子にみえてくる。

マオは逃げ切るために、この変装をかんがえていたのか…

短刀を拾いあげ 自身の腰に差し込むと、真緒の背を押した。

「お前酒臭いぞ、風呂入れ」

「酒で髪を洗ったんだ、色が落ちるんだよ」

黒髪以外はどうなるか知らないよ、真緒は屈託なく笑う。宰相の言ってた通りだ。何をするか予想がつかない。これも渡り人の知恵なのか。面白い。エドは自覚のないまま笑みを浮かべていた。


明日、ここを発つ。そう告げると、真緒はあっさりベッドに入った。しばらくすると規則的な寝息が聞こえてきた。昼間のことがある、エドはしばらく扉越しに様子を伺うことにした。

昼間はド肝を抜かれた。

短刀を首に当てている姿には肝を冷やしたが、自死を選ぶような神経の持ち主ではなかった。女の命ともいわれる髪を切り、特徴的な髪色を変えた。性別まで偽り、逃げ切ろうとするその強かさ。あの宰相が目をかけるだけのことはある。ユラドラが狙うのも頷ける。これは 本腰を入れて取り組まないといけないな…

階段に気配を感じ、思考を止める。

もう一度、真緒が寝入っていることを確認して、扉を閉める。気配に続いて階下へと向かった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ