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81.それぞれのマオへの思い

宰相邸で真緒が療養を始めた頃から、邸内への進入を試みる輩が増えた。(シュエット)が退けているので 今のところは問題無い。

狙いは真緒だ。

今後、宰相邸に匿うのも無理が出てくる。マージオの娘としての価値だけでなく、渡り人の知識を持つという価値が追加され、ユラドラの王太子に目を付けられてしまった。

さて、どうするか。

ニックヘルムはハルツェイに白羽の矢をたてた。

テリアスに自身がつけた護衛、実力は織り込み済みだ。テリアスに就く前はシュエットの中でも特に市井での活動を得意とし、独特の嗅覚がある男だ。行動の読めないあの娘を見張らせるには丁度いい。


ハルツェイは静かに処罰の時を待っていた。

己の覚悟はできている。

王宮の地下牢で過ごす日々は祈りの日々だった。

願うのはテリアスの処遇だった。。

王の娘を狙ったのだから、死罪は免れない。

きちんと諌められなかった自分の落ち度だ。ある意味真っ直ぐで頑固なテリアスは後継としてはまだ力不足だ。しかし、努力の人だ。きっと大成する。どうか宰相がそのことに考慮して温情をかけてほしい、そう願わずにはいられなかった。


ある日、ハルツェイの元にライックが訪れた。

いよいよか…

死ぬ覚悟はできている。自分の目で確認することは叶わないが、テリアスの人生が続くことを強く願った。

執行はライックか…

迎えにきた同朋に頭をさげた。

「世話になる」

そんなハルツェイにライックは意外なことを口にした。

「宰相閣下がお待ちだ」

どういうことだ?自ら手を下すということか?

混乱する思考のまま、ライック監視の元、執務室へと入った。切り出された話は予想外な事だった。


テリアスの今後の処遇を保証する

その対価として真緒の護衛を頼みたい


ハルツェイにとっては 願ったり叶ったりだった。

今後どのような処遇になるかはわからないが、弟のように慈しみ 見守ってきたテリアスの命が繋がったことに喜びを感じた。自身の命など惜しくはない。

「その任、お受けします」


あの娘を市井に紛らせ、ユラドラの手から護れ。

木を隠すなら森の中、か。

ニックヘルムの予想通り、隙を作れば容易にあの娘は王宮を抜け出した。

殺害対象であったこの娘のことをよく知らない。国王の娘、渡り人、ユラドラの王太子が狙う人物。

護衛をするならまず相手を知らなければならない。

黒髪黒目の少女は、ごく普通の人間だった。とんでもないことをするようには思えない。侍女に怒られれば頬を膨らませ、美味しいもので機嫌が直る。ライルといる時は熟れた苺のように真っ赤だった。それは感情を隠すことが当たり前の貴族社会では異質だった。

とても人間味溢れ、目を惹き付けられる娘だった。


王宮を抜け出した真緒の後を距離を置いてつけてゆく。どこへ向かうのだろう。

ベルタの街へ向かうと思っていたが、なんと一日中森を歩いていた。死ぬ気か?そう思うほど、何度も倒れ、足を引きづり満身創痍で進んでゆく。負けず嫌いで何度も立ち向かってきた幼い頃のテリアスと重なり、ハルツェイは目が離せなかった。

日も暮れる頃、倒れたまま動かなくなった。

焦って駆け寄り助け起こすと、立ち去れ、とばかりに寝たフリをする。もう放っておけなかった。

抱きかかえて村へ走り出す。

自分にこんな感情が残っていたことに驚いた。



もぬけの殻のベッドを前に茫然自失で立ちつくす。

ルーシェはヴイレッツの命令で ある貴族令嬢の警護に着いていた。任務を終えて来てみれば真緒はいなかった。

深い眠りを誘う薬を飲んでいたはずだ。寝ずの番の侍女もいたはずだ。誘拐?いや、それなら外を警戒していた騎士たちが気づかない訳がない。

クッションで作られた人型、枕の下のネックレス。

それらは真緒が自分の意思でここを出たことを示していた。

なんで? なんで何も言わずに居なくなったの?

真緒の味方のつもりでいた。いつでも近くにいて心も身体も護っている自負があった。それなのに、なぜ?

騎士を志し、実力を買われて蜘蛛(アレニエ)になった。この国のために尽くす殿下のためにお役に立てることが何よりの悦びだった。その目的のためなら人を手にかけることも厭わなかった。

そんなときに、真緒は現れた。殿下から頼まれた護衛対象は小柄な少女だった。国王の娘、渡り人。そう聞いていた。

感情豊かでコロコロ表情が変わる。父の店で匿われた少女は、働かせて欲しい、と言ってきかなかった。あの父に対してハッキリと意見する、生き生きと働く姿は生命力に溢れ、今を力いっぱい生きているたくましさがあった。その姿はルーシェには眩しかった。生き急いでいた訳じゃないが、今を精一杯生きることの大切さを教えられた気がした。野菜についた虫に騒ぎ、ルーシェを味見に誘う。真緒との生活はどんどん色付いて、護衛対象から自らの意思で護りたい相手に変わった。ずっとこのまま一緒に過ごしたい、そう願った。

あのとき、ナルセル殿下との婚約話がでたとき。

マオは感じてしまったんだ。味方はいないんだって。

国王に逆らえる臣下はいない。それがどれだけ愚かなことか、マオは知っていたんだ。

床に零れる涙が波状模様を描く。涙なんて自分の中に残っていたんだ…

…マオを護らなくては。騎士としてでは無く友として。あの子は自分を守る術を持たない。

ぐっ、と涙を拭う。次に涙するときはマオの無事をこの目で確かめたとき。

騎士を辞する許可を取るため、部屋を後にした。


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