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7.イザと未久(ミク)

街までは村を抜けて歩いて一時間くらいだろうか。

前を歩くマオは手に持つ細い枝で草を払ったり、時折歌を口ずさみ楽しそうだ。肩にかかる黒髪が歩みに合わせて揺れている。何度かフードをかぶれと注意したが、こんな人気のないところでなにを気にするの?と言って聞き入れない。街が見えたら被る約束でイザが折れた。

未久の娘と知ってしまうと、真緒の仕草や物言いが未久と重なり、胸に想いが込み上げてきた。


渡りの樹に美しい黒髪の少女が現れたのはイザが13歳の頃だった。

未久はマルシアの宿屋で暮らし始めた。マルシアを手伝っていたイザが未久と親しくなるのに時間はかからなかった。イザは未久の気を引きたくて未久のいた世界の話をよくねだった。未久も喜んで聴かせてくれた。

日本という未久の世界には鉄の塊が道を走り、空を飛ぶ。近くにいない相手とも会話ができるし、手紙のやり取りもあっという間にできる。

子供はみんな学校に通い勉強をする。親のいない子は施設である年齢まで生活する。

楽しそうに話す未久に意地悪をしたくなった。

「ミク、帰りたい?」

未久は困った表情を浮かべ 呟いた。

「どこにいても 独りだから」

施設で育った未久は18歳で一人暮らし始めたが上手くいかず、生きる意味を失いかけていた。願えば死んだ者に会える、そんな噂を信じて渡りの樹に願った。

「私を必要としてくれる人に会いたい」

その結果が異世界転移とはね、自嘲気味に笑った未久は寂しそうだった。


夏が巡ってくる頃、渡りの樹で未久は出逢ってしまった。自分の唯一に。

未久は青年と湖畔の渡りの樹で逢瀬を重ねた。

青年は高位の貴族らしく、多くの騎士が森の中に控えていた。イザは未久が心配で騎士相手に腕を磨くことを言い訳に森へ通った。独学の剣だったが団長に認められ、青年貴族が王都に帰るタイミングて王都の騎士団に見習い騎士として入団が決まった。幸せそうに微笑む未久をみるのも苦しい。離れるのもいい、イザは未久への気持ちに蓋をして王都へ旅立った。


季節は冬に変わっていた。

青年貴族の正体はこの国の王子だとすぐわかった。

わかったところで何が出来る訳ではないが、未久が身分差があり過ぎる相手との恋に悲しむのが心配だった。王子は度々未久の元を訪れていたが、イザは知らない。今回、イザが王子に随行するのは初めてだったので、王子と未久の関係が続いていることに複雑な気持ちになった。

街外れの邸宅に荷を下ろす。大所帯の荷解きは思った以上に時間が掛かり、すでに夜の帳が降りていた。会えるのは明日だな、近くに帰ってきたという油断をずっと後悔することになるとは思いもしなかった。

未久を永遠に失ってしまったから。


その知らせは突然もたらされた。

【未久が帰ってしまう 王子しかとめられない】

マルシアの手紙を握りしめ、団長の元へ向かった。

一介の騎士見習いが王子に会うことはできない。団長はすぐに王子へ届ける、と約束してくれた。それでも不安は拭えず、森へ、渡りの樹へ 夢中で走った。

走って 走って 走って━━━━━

迎えてくれたのは背を丸め肩を震わすマルシアだけだった。


マルシアの背を擦りながら、未久が戻るのを待った。

もしかしたら 戻ってくるかもしれない

少ない可能性でも 縋りたかった。

辺りがしらみ始めても王子は現れなかった。

未久が戻ってくることは なかった。


現れなかった王子への怒りが不信感に変わり、イザはそのまま騎士団を辞め、王都に戻ることはしなかった。街の自警団に入団し、マルシアを助けながら渡りの樹へ出向くのがイザの日課になった。

同じくして派遣されてきた騎士団が森に常駐するようになり、湖一帯は【王家の庭】と呼ばれるようになった。

あれから18年経つ。今年も未久が去ったこの季節に王となった王子がやってくる。王は湖畔で何を思うのか━━━

あのとき 王子がきたら未久は留まったのだろうか…


「イザさん!」

もぅ 何回も呼んでるのに!

真緒の怒った声で過去の思いから引き戻される。

「イザでいい。ほら、もう街が見える。被れよ」

真緒にフードを被せると、乱暴にしないでよと文句を返してくる。フードを気に入る位置に微調整する姿を見ながらイザは誓う。

マオは絶対に守るよ、ミク!
















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